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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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崩壊




それは、とても良い天気の日だった。
森の中は雪が積もり、太陽の日を反射して輝いている。 いつもより凜と澄んだ冷たい空気が張り詰めていた。
音のない世界で、雪の落ちる音が突然響く。
空を舞う鳥も、木の上にいる小さな動物たちも。
雪が赤く染まるのを見ていた。




崩壊



シュガーとヴァールハイトが夫婦になって、早いことで1週間が経った。
シュガーは朝からお気に入りのエプロンをつけて、暖炉に火をつける。 寝室を見てきたが、ヴァールハイトはいなかった。
「ヴァルはいつも朝が早いなぁ。 でも、リビングにもキッチンにもいなかったけれど、どこに行ったんだろう」
首を傾げながら、ポットに入ったお湯をもう一度火にかける。 そしてふと、ドレッサーに目が行った。
立てかけられた結婚式での写真。 花のティアラ。
全部彼女の宝物。
「あれ、メモがある。 『薪がなくなりそうなのでとってきます。 ヴァールハイト』 ヴァル、薪を取りに行ってくれたのね。 近くの薪小屋までだから、もうそろそろ帰ってくるかな」
だったら温かい紅茶を淹れておこう。
そう言いながらシュガーはキッチンへパタパタと向かう。 茶葉をティーポットに入れた時、なんだか胸騒ぎがした。
「・・・・・・?」
汗がポタッと落ちる。 なにか良くないことが、起こる気がする。
薬指につけた結婚指輪の紫色の宝石がキラリと何かを教えるように輝いた。 その色はヴァールハイトの瞳と同じ色。

『この指輪はお揃いでね、お互いの危険を知らせる魔法をかけておいたんだ』

式の前、ヴァールハイトがそう教えてくれた。
「!」
シュガーは不安になって玄関のドアを開いた。 そして辺りを見渡す。
遠くで何かが落ちる音が聞こえた。 氷柱から水滴が落ちる。
「ねぇ! シュガーとずっと一緒にいてくれた、あの男の人を見ていない!?」
木に止まった鳥へ声をかける。
鳥は翼を羽ばたかせ、森の奥へ飛んで行った。 シュガーもそれについていく。
「こっちは薪小屋じゃないのに・・・・・・!」
白い息を吐きながら、シュガーは走る。 そして鳥がとまった木の下、赤く染まった雪が。
その中で、ひときわ目立つ美しい剣。

「ヴァル!!」

悲鳴に近い声で、シュガーは想い人の名を呼んだ。
雪にうもれるように倒れていたヴァルを抱き起こし、何度も何度も体を揺する。
「ヴァル、しっかりして! 目を開けて・・・・・・!」
怪我をしているわけではない。 だが、唇が血に濡れているのを見る限り、吐血したのだろう。
「う・・・・・・っ」
「ヴァル! 大丈夫!?」
「シュガー、どうして・・・・・・」
「指輪が教えてくれたの! ねぇ! 何があったの!?」
ヴァールハイトは苦しそうに心臓を抑える。 そして、森の奥を見つめた。
「薪を取りに行った帰り道に、大きな獣に出くわしてね・・・・・・。 見過ごしておけば、ここにいる人間達にも危険が迫る。 異能を使って、倒したんだけど・・・・・・、ほんとに、迂闊、だった」
咳き込む彼。 片手では受け止めきれなかった血が、シュガーのエプロンを赤く染める。
「くっそ・・・・・・、もう、ここまで、刻印が進んで・・・・・・。 おまけに、異能が暴走した、なんて」
ヴァールハイトの頬にある黒い模様が、2本ほど増えている気がする。 シュガーはエプロンを引き裂いて、また咳き込むヴァールハイトの口元に当てる。
「とりあえず、家に戻って、ええと、どの薬を飲ませれば・・・・・・!」
「大丈夫、だ・・・・・・。 少し休めば、落ち着く、から」
「うん、でもまずは家に戻ろう!」
シュガーは異能を発動させると、大きな狼の形へ変える。
「ちょっと揺れるけど、我慢してね!!」




ベッドで横になったヴァールハイトを心配そうにシュガーは見つめていた。 彼の手をずっと握ったまま、3時間経った。
「シュガー」
気づけば目を開いていたヴァールハイトがシュガーを呼んだ。
「もう体は大丈夫?」
「あぁ、今はね・・・・・・。 心配ばかりかけたね」
「・・・・・・、ヴァル。 レアお母様のところへ行った方がいいと思うの」
「え、エリタージュに?」
「上の方が、翼人には適していると思うから。 それに、シュガーじゃ何もできない・・・・・・。 ヴァルの異能のこと、シュガーは何も知らない」
「でも、祭りが」
「祭りとあなたの体、どっちが大事かなんて、考えなくてもわかるでしょ!?」
寝室にシュガーの声が響く。
「きっと、レアお母様だってシュガーと同じことを言う」
「・・・・・・わかった。 だけどシュガー。 君も一緒にきてほしい」
「うん。 ヴァルがよくなるまで、ずっと隣にいるから」





エリタージュに着いた後はちょっとした騒ぎになっていた。
特に、母親のレアにとって、大切な息子がこの状態で帰ってきたのは驚くことだったのだ。
今はなんとか歩けるようになったヴァールハイトは、ベッドの上でとある羊皮紙を見つめる。
複雑な紋様の描かれた羊皮紙。 彼はそれを見て不安になる気持ちを抑えるように、目をそらした。
そして自分の左腕の袖を捲り上げる。
黒い刻印が左腕を蝕んでいた。
「もうここまで、侵食が進んでいたのか」
手鏡で自分の顔を覗くと、倒れた時よりも刻印は進んでいる。
ヴァールハイトは1人でポツリとつぶやく。
「死にたく、ない・・・・・・」
前までは死ぬことなど怖くなかったのに、シュガーと出会ってから、その気持ちが変わった。
死にたくない。 ずっと彼女と一緒にいたい。
そしてどんどん、異能を使うのが怖くなっていき、制御できなくなってしまった。
今回のが良い例だ。 異能を暴走させて、刻印が早まった。
「私も、けじめをつけなくては」
恐怖に勝たなければ、この先ずっと。
ヴァールハイトは窓の外に広がる空を睨んだ。


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