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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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邂逅


よく雨の降る日だった。
森の大きな木の下で、翼を休める男がいた。
「はぁ・・・・・・まさか雨に降られるとは」
びしょびしょになった服、ため息をついて空を見上げる。
大粒の雨がザァザァと振り続けている灰色の空。 いつもの青空は消え失せ、分厚い雲が表情を隠している。
さっきまでの晴天が嘘のようだ。
何を悲しんで泣いているのかはわからない空。
管理者レアの息子、ヴァールハイトは木の幹にもたれかかるようにして立っていた。
「どうしたものか・・・・・・」
風は強い。 雨だけならばなんとか天空へ行けたが、ここまで風が強すぎると、彼の風切り羽でもさすがに無理がある。
森の中は肌寒く、びしょ濡れの彼は小さくクシャミをした。 震える体を抱いて、雨が上がるのを待つ。
その時、カサカサと葉が揺れ動いた。 そしてバキッという枝の折れる音と一緒に、少女の悲鳴が森に響く。
「ひゃぁああああっっ!!」
「え、ちょ!」
上から聞こえてきた悲鳴。 ヴァールハイトは急いで上を向き、身構える。

フワフワとしたスカート。
オレンジ色の綺麗な髪の毛。

そんな、まるでファンタジーの絵本から出てきたような少女だった。
ヴァールハイトは落ちてくる少女を抱きとめる。
少女より少し遅れて、ゴロゴロと赤いリンゴと、赤紫色と黒い木の実が落ちてきた。
「アイテテテテ・・・・・・。 はっ! すみません! 大丈夫ですか!?」
「心配ない。 君は大丈夫なようだね」
少女を降ろしながら、ヴァールハイトは微笑む。
「天使が落ちてきたのかと思いましたよ」
「うぅ・・・・・・」
その言葉に顔を赤くした少女は、ヴァールハイトを見て驚く。
「びしょ濡れです! 雨宿りしていたのですか?」
「まあそんなところかな」
「あの、お礼と言ってはなんですけど・・・・・・」
おずおずと切り出す少女。
その後、断るにも断れず、ヴァールハイトは彼女の家にお邪魔したのだ。




「すみません、少し散らかっていますけど」
「散らかっているっていうか・・・・・・」
少女の家は、散らかってはいなかった。
部屋の中は整理整頓されており、暖かみのある家具や壁紙で彩られていたが、ひときわ目の引くものが置いてあった。
「仕立て屋でもやっているのですか?」
「趣味で、服を作ってるんです。 シュガーが着る服なんですけど・・・・・・。 あ、自己紹介がまだでしたね。 シュガーレイン・アンブレラといいます。 シュガーって呼んでください」
シュガーはヴァールハイトを中に進めながら言う。
「私の名はヴァールハイト・サルヴァトーレ」
「ヴァールハイト・・・・・・? 確かヴァールハイトって」
シュガーがごそごそと何かの羊皮紙を取り出す。 それは祭りの特別枠の紹介が書かれたチラシのようなもの。
「・・・・・・」
ヴァールハイトと、そのチラシを見比べ、シュガーはアッと声をあげた。
「似てます!」
「同一人物だよ!」
首を傾げる彼女を見て、ヴァールハイトが頭を抱える。
「確かに人目につかないような場所を飛んでいるけど、ここまで知られてないとは」
そんな彼に、シュガーは声をかける。
「あの、お風呂に入ってください。 その間にお洋服を洗って乾かすので」
「いや、そこまでは大丈夫だよ!」
「助けていただいたお礼ですよ。 さ、早く」
「そ、そこまで言うのなら・・・・・・」
シャワールームへと勧められたヴァールハイトは、大きくため息をついた。
人間からこんなに振り回されたことはない。 嬉しくも悲しくもある気持ちだ。
暖かい湯船に浸かっていると、部屋の方から小さな鼻歌が聴こえてくる。 それとリズムの良い包丁の音。
料理でも作ってくれているのだろうか。 ヴァールハイトは湯船に深々と浸かり、嬉しそうに微笑んだ。
しばらく経って、シャワールームから出たヴァールハイトが、タオルで体を拭いていると、隣にあった服に気がつく。
小さいメモも一緒に置いてある。
『私が作った服です。 女物しかないのですが、よければ乾くまで着てください』
その服を見て、一瞬顔が強張ったが、決心したようにそれに袖を通した。
そしてリビングの扉を開く。
「あ、お疲れ様です。 湯加減はどうでしたか?」
「良かったよ。 おかげで体が温まった。 それに服まで。 本当に助かった」
「ごめんなさい、女物しか家になくて」
ふんわりとした、くるぶしまであるワンピース。 きっと気にならないようにと、彼女が選んだのだろう。
そんなシュガーの手には湯気の立つスープが。 見れば、テーブルには美味しそうな料理が並んでいた。
「お腹減ってたら良いのですが」
「ありがとう、いただくよ」
「・・・・・・! はい。 でも、その」
テーブルにスープを置いたシュガーはもじもじと下を向く。
「シュガーは、料理が下手なんです。 美味しくなければ、残してください」
「え、あ、うん」
椅子に座ったヴァールハイトが、木のスプーンを取り、スープを一口飲む。
その瞬間、スプーンを落としそうになる。
「ま、マズイですよね!! トイレあっちですよ! 吐き出しちゃってください!」
「いや、大丈夫、大丈夫だ」
ヴァールハイトはスープを飲み込んだ。
信じられない程の不味さだった。 食べたことがない味だ。
だが、それでもどこか心が暖かくなる味だった。
「美味しいよ」
「・・・・・・え?」
「とても、優しい気持ちになれる。 一生懸命作ってくれたのに、それを残したり、吐き出したりするのはダメなことだと思うんだ」
「・・・・・・そんなこと言われたの、生まれて初めてです」
シュガーがポツリポツリと喋り出す。
「シュガーは生まれた頃から周りの人から嫌われてて、いじめられてて、誰かと一緒にご飯を食べたり、笑ったりしたことなかったんです。 ヴァールハイトさんが、生まれて初めて、そういうこと」
「人というのはとても苦労している生き物だからね・・・・・・」
「シュガー、人間ではないんです」
そういったシュガーの頭に現れる長い長い耳。 黒いそれはぴょこぴょこと動いている。
「ウサギの獣人です。 だから昔からずっといじめられてたんです」
「ウサギの獣人、初めて見たよ。 本当に耳が長いんだね」
「? 怖がらないのですか?」
「まさか。 獣人よりも人間の方が怖いさ。 それに、シュガーは優しい子だって、すぐにわかる」
それを聞いたシュガーは、照れ臭そうに笑った。


しばらく2人で話をしていると、窓から日が差し込んでくる。 カーテンの隙間からは、青空が姿を現した。
「晴れましたね。 ちょうど服も乾いてるみたいですよ」
「あぁ。 そろそろお暇するよ」
料理を食べ終わったヴァールハイトは立ち上がる。 彼が着替えている途中、シュガーは思い出したようにキッチンへと向かった。
「シュガー、今日は本当に助かった・・・・・・? それは?」
「お菓子だけは得意なんです。 だから、手土産にと思って。 ぜひ、空にいるみなさんにも」
紙袋の中には一口サイズのケーキがたくさん入っている。
「ありがとう」
外に出たヴァールハイトが空を見上げる。 雨の雫を太陽の光がキラキラと輝かせていた。
「シュガー、またここに来てもいいかい?」
「え?」
「君の作る、料理をまた食べさせておくれ」
その言葉にシュガーは目を輝かせる。
「それと、今度は私だけに、そのお得意なケーキを振舞ってほしい」
「・・・・・・! はい、必ず! だから、絶対ここに来てくださいね。 約束ですよ?」
スッと小指を前に出すシュガー。 ヴァールハイトも同じように小指をだし、シュガーの小指と繋ぐ。
「ゆびきりげんまん、ですよ」
「嘘をついたら針千本、か」
「はい。 でも、ヴァールハイトさんはきっと来てくれますから、針を千本も用意しなくていいですね」
指を解き、翼を広げるヴァールハイト。 そしてシュガーへと微笑み、地から足を離した。
舞い落ちる羽根を拾い上げ、シュガーが手を降る。 その姿が見えなくなっても、シュガーはずっと空を見上げていた。

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