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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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アルトストーリア 5-Ⅳ

No.25 ~逃げろ~


秋蘭は闇夜の中、その目にイリスの巨大な姿をおさめていた。 黒い体は闇に溶けているが、背中についている結晶が光を発しているおかげで、かろうじでその巨体が見えていた。
「あんな馬鹿でかいのを、どうやって倒せって言うんだ」
「イリスの弱点はあの背中の結晶なんだけどねー。 あれを壊しちゃったら暗くなるからイリスが活発になっちゃうんだよ」
そう答えたのは百木菜。 そして秋蘭に銃を渡す。
「私は武器が弱いからこの戦いで役に立たないと思う。 だから私の分まで頑張ってよね」
「押し付けんなよ・・・・・・。 で百木菜の武器っていうのは?」
「これ」
百木菜が取り出したのは細い糸。
「これで戦えと」
「うん」
秋蘭は苦笑い。 それにつられて百木菜も笑った。
「ピアノ線だったら戦えるんじゃないかって蓮が言ってたけど、取り方がわからないし、第一めんどくさい」
「めんどくさいのか」
「おい、百木菜」
話をしていた秋蘭と百木菜に声をかけたのは蓮。
「あ、飴でしょ? はいこれ」
「それじゃない」
蓮はスッとサテン生地の小さな袋を百木菜に渡す。
「え、もしかして」
それを開けると、中から出てきたのは金色の堅い糸。
「ピアノ線?」
「今度取ってやるって言った。 それを忘れたのはお前」
フイとそっぽを向き、その場を去った蓮。 秋蘭は意外そうな顔をして言った。
「意外と優しいんだな。 顔に似合わず」
「何言ってんの・・・・・・今の最高に怒ってたよ」
怒ってたというより、呆れていたという表現の方が正しいのだが、それはまた別の話である。



暗闇の中、利來はイリスを見上げる。 そして大剣を構えた。
「夢架」
「はい。 私も頑張ります」
優しい声に微笑んで、利來が歩みを進める。
「怪我はするなよ?」
「大丈夫です」
「そういえば」
利來は思い出したように夢架に尋ねる。
「トレーニングの途中、あの祭星の悪魔と何話してたんだ?」
「あ、気付いてたんですね」
「なかなか水分補給から帰ってこなかったからな」
夢架はフフッと笑いながら、あの時のことを思い出す。
「ただ、世間話をしていただけですよ」


これは今から1日前の話。
水分補給にと、談話室に入った夢架は先客を見つけた。
椅子に座った、薄緑色の髪の悪魔。
『たしか祭星さんが契約した悪魔・・・・・・。 名前は知らない・・・・・・』
向こうはこちらに気づいていない。 というよりずっと下を向いている。
どうせ自販機を使ってしまえば音が出る。 それに挨拶もろくにしていない。 夢架は深呼吸をして、彼に歩み寄る。
「あの」
「・・・・・・なに」
「初めまして、ですよね。 私、野崎夢架っていいます。 これからよろしくお願いしますね」
悪魔がこちらを向いた。 近くで見れば見るほど美青年だ。
「へぇ、主でもないのに話しかけてくるんだ」
「祭星さんは私の仲間ですから、あなたも一緒に戦うことになるでしょう?」
「馬鹿いうなよ。 ボクはファミリア、言わば下僕だよ。 ご主人様以外の人間と親しくするつもりもないしキミと一緒に戦おうというつもりもない」
その言葉を聞いて、夢架は直感的に思った。 あぁそうか、この人は。
「あなたは頑固なんですね」
「はぁ!?」
「それでいて臆病」
「おい人間、何が言いたいんだよ!」
「そして最後に照れ屋で甘え下手と」
見透かされたように言われた悪魔は顔を真っ赤にすると、そっぽを向いた。
「隣、座ってもいいですか?」
「好きにすれば」
「じゃあ、失礼します」
隣に座った夢架は、悪魔に言う。
「お名前、なんて言うんですか?」
「・・・・・・メフィスト」
「メフィスト、ですね。 じゃあメフィストくんって呼んでも」
「ダメ。 呼び捨てにしろ。 その呼び方は気に入らない」
夢架は少し黙って、微笑みながら返事をした。
「メフィストは自分の気持ちに気付いてないんですね」
「は?」
「祭星さんのこと、大好きなんですね」
「なっ」
バッと立ち上がったメフィストは、怒鳴り散らす。
「なんでボクみたいな上級悪魔があんなぽやぽやした女の事気にならなきゃいけないんだよ! ふざけんなよ!!」
「気になってるんですね?」
「ウッ」
「気になってるんでしょう?」
「・・・・・・」
無言で座ると、メフィストはポツリと語り出す。
「アイツが初めてだったんだよ。 ボクの毒に効かなくて。 反抗してきて、あんなに話しかけてくれるのは」
「毒?」
「話すと長くなる。 でもまぁ・・・・・・キミにならいいだろう、夢架」
頬杖を付いて、メフィストは思い出すように言う。
「ボクは元々とある世界の王国に生まれた。 その王と、侍女の間にできた。 言わば不義の子だった。 国としては、そして王の妻、王妃にとってはボクは生まれてはいけない赤ん坊だった。 だからその国で自生していた花・・・・・・。 ベラドンナと呼ばれる毒の花を煎じ、それを薬と騙して、侍女に飲ませた。 暗殺だよ。 侍女は、ボクの母親は死んだよ。 そしてボクも死ぬはずだったんだ。
連中にとっては良くないことでさ、ちょうど母親が暗殺されたのが臨月だったんだ。 王の命令で、ボクは死んだ母親の体から取り出された。 こうして不義の子が生まれてしまった。 王・・・・・・父はボクを大切に育てようと、乳母をつけた。 でもそこからだ」
言葉を区切り、嘲笑うメフィスト。
「最初に死んだのは乳母だった。 その次に死んだのは父だ。 そしてメイドも死んだ。 生き残ったのは王妃と、王と王妃の間に産まれた、半分血の繋がった兄のみ。
毒が、ボクの体の中に入っていたんだ。 その毒がどうやって母体の中で変化したのかは知らないけど、ボクの体に近づいたり触れたりすれば、皆その毒で死んでいく。 ・・・・・・あぁ、安心しなよ。 さっき薬を飲んだから。 あと5時間は毒の効き目がなくなる。
こうしてボクは生まれながらにしてその身に毒を宿した子になった。
当然、良い育ては受けれなかった。 いつも閉じ込められて、王妃からは罵られる毎日さ。 それでも、兄だけはずっとボクの味方でいてくれた。 まぁそれは別に話か・・・・・・」
ため息を吐いたメフィストは思い出話をやめる。
「だからさ、祭星は普通死んで当然だったんだ。 呼び出された時はいきなりで、薬を飲んでなかった。 なのに彼女は死ななかった。 それにメフィストフェレスって聞いたら普通皆怖がって話しかけないだろ? 祭星はおかしい。 でもだからこそ惹かれるものがあるのかもしれない」
「祭星さんに毒が効かなかった理由に検討はついてるんですか?」
「いーやさっぱり」
「運命の出会いとか!」
「ないね。 ボクはファミリア、使い魔だよ。 それに蓮っていう強敵もいるからボクに勝ち目はないね。 っていうかボクには妻がいたんだから」
スッと立ち上がって、メフィストは微笑む。
「話はここまでだ。 キミのパートナーも心配してるだろう」
「あ、そうですね」
別れの挨拶を交わし、夢架が談話室を出ようとした時。
「夢架」
メフィストが夢架を呼び止めた。
「感謝するよ。 こんなに誰かと話したのは久しぶりだ。 この恩は必ず返そう」
「私も楽しかったです。 またお話ししましょうね」



「この戦闘がひと段落したら、利來くんにも彼を紹介しますね」
「あぁ、よろしく頼む」
利來は目の前のイリスを見て、険しい表情をする。
「さ、話は終わりだ」
「そうですね」
「いくぞ」
地を軽く蹴り、イリスへと大剣を振るった。



戦いが始まった。
仄花は襲いかかってくる下級悪魔を蹴散らしながら後ろにいる秋蘭へ声をかける。
「秋蘭! お前たちはなるべく後ろから援護だ! 危ないと思えばすぐに逃げろ!」
「わ、わかった」
そういった秋蘭の腕に銀色のブレスレットが輝いている。
戦闘が始まる前に、ランスロットから日本支部全員が貰ったブレスレット。 効果は分からないが、全員が今、身につけている。
「! 秋蘭、危ない!」
「え」
イリスの鋭い尾が秋蘭へと襲いかかる。 小さい銃では身を守れない。
「させないよ!」
大きな刀を携えた祭星が、横から現れ、その尾を弾く。 鈍い金属音がし、緑色の悪魔の血が飛び散る。
それを浴びながら、祭星は更に強く地を蹴り、下級悪魔を薙ぎ払う。
「相変わらず、大雑把な仕事だな、お前は」
秋蘭のすぐ隣にいた利來が祭星を見ながら苦笑い。 彼女が切り損ねた悪魔を片手で確実に始末してゆく。
その目には赤いマーカーが現れている。
「これが、あいつらの・・・・・・」
日本支部の連携を初めて見た秋蘭は驚いたように後ずさる。
「何やってる! 逃げろ!」
「は?」
「逃げろと言ってるんだ! イリスが、融合し始めた!」
仄花が地上に降り、秋蘭の首根っこを引っつかんで遠くに投げ飛ばす。
空中で秋蘭が見たのは、大きなイリス2体が、1体に変化していく様子。
やがてぞの2体は、さらに凶悪な禁種悪魔へと姿を変えた。
「マグノリア・・・・・・」
巨大な体と、両脇に浮かぶ翼のような鋼の爪。 それはまるで鳥のようだった。
秋蘭は転がりながら着地し、前を向く。 その瞬間、マグノリアが翼を広げ、爪を地上に向かい振り下ろした。
耳をつんざく衝撃音。 何もできず、秋蘭は仲間がいるはずの場所をただ呆然と見ているだけだった。


No.26 憤怒と後悔


マグノリアを見て、仄花は舌打ちをする。
「マズイな」
「これじゃ、埒が明かないよ!」
祭星はそう言いながらマグノリアへと魔法を展開させる。
「少しでも時間を・・・・・・!?」
だが、その魔法陣をいともたやすくマグノリアは吸収し、たった一つの爪で祭星を弾き飛ばした。
「おい、大丈夫か!?」
蓮が祭星に近寄るが、彼女は目を開けない。 そっと首に手を当てると、まだ脈はある。
「蓮! 祭星はどうだ!?」
「心配ない、気絶しているだけだ。 だが早く回復を」
「だい、じょうぶ・・・・・・。 今は、マグノリアを!」
起き上がった祭星。 蒼い目でマグノリアを見上げ、そして息を飲む。
「みんな! 逃げて!!」
そう言った瞬間だった。
マグノリアが振り下ろした無数の鋭い爪。 祭星を守るように蓮が彼女の前に躍り出る。
その時、祭星が聞いたのは何かが飛び出す音と、不快な聞きたくもない、今まで聞いたこともないような音。
そしてポタポタと滴る音が時を刻んでいた。
ゆっくり目を開けた祭星は、周りに刺さる爪を見て言葉を失う。
「そんな・・・・・・れ、・・・・・・ん?」
自分を守った蓮の左腕。
白い爪が深々と突き刺さり、肉を抉っていた。 もう使い物にならないのか、だらんとぶら下がったままの腕を必死で抑える蓮。 傷口からはおびただしいほどの鮮血が飛び出し、地面に血溜まりを残している。
蓮は、カタカタと右手を震わせながら爪を引き抜く。 その爪を力なく捨てて、その場に片膝をつき、痛みに耐えようと腕を握りしめる。
「蓮!!」
マグノリアの爪に含まれている毒が次第に回ってゆく。 蓮はその毒が体に回る前に、自分の腕を斬った。
「れ、れんっ!!!?」
祭星が駆け寄る。 蓮は歯を食いしばり、痛みで意識を飛ばさないようにしていた。
彼の双眸からはポタリと涙がこぼれる。 例えようのない痛みに思考がついていかない。 この涙も痛みからなのか、それとも悔しさなのかどちらか考えることすら痛みで遮られる。
「蓮! 待ってて、すぐに治すから」
祭星がグリモワールを手にした瞬間、マグノリアがまた爪を振り上げた。
もう無理だと、祭星が感じ、蓮を庇う。
その時だった。

「悪魔如きが私の弟子に手を出すことは許さない」

黒い髪、一瞬にして間に入った源三郎は刀を振るっただけで、マグノリアの爪を粉々に切り裂いた。
「し、しょう・・・・・・」
「君はここにいなさい、白石君」
蓮の肩に自分が着ていたヴァチカンの隊服をかけ、また歩みを進める。
その横に降り立ったのはクラウン。
「私も御一緒させてもらってもいいかな源三郎」
彼が歩く度に足下から雷が大気を奔る。
「お互い、手加減は無しだ」
「当たり前」
マグノリアと戦いを始めた2人から離れるため、祭星は魔力でメフィストを呼び出す。
「メフィストくん! お願い、手伝って!」
「了解だ」
普段は憎まれ口を叩くメフィストも、蓮の怪我をみてすぐに魔法陣を展開する。
それをさせまいと、多くの悪魔が彼らの周りを取り囲む。
「ボク、今最高に虫の居所が悪いんだよね」
メフィストがスッと手を前に突き出す。
「下級悪魔が群がったところで、このボク、メフィストフェレスに勝てるわけがないだろう」
それを払った瞬間、無数の魔法陣が宙に刻まれる。 レーザーのようなものに貫かれ、悪魔は皆地に伏せた。
「お前らはそこで地べたを這っていろ」
大悪魔メフィストフェレスのその瞳、誰もが畏怖する瞳を見て全ての悪魔がその場から離れた。
「メフィストくん、蓮が、蓮が!!」
「落ち着け祭星。 今君が落ち着かなくてどうする。 治療は夢架ができるだろう」
「そうだよね・・・・・・、わかった、とりあえず、シールドを張っておくから、蓮はここにいて! 絶対、動かないで!」
力なく頷いた蓮は、大きく深呼吸して横になる。 そして去って行くパートナーの後ろ姿を見送った。
荒れ果てた地。 隆起したコンクリートを飛び越え、祭星は仄花の隣へと急ぐ。
「大丈夫?!」
「心配はいらない。 だが、これは・・・・・・私たちではどうにもできないぞ」
睨みつけたマグノリアの巨体。 試しに仄花が攻撃魔法を撃つが、すべて吸収されてしまう。
「今はクラウンと源三郎のおかげで私達に気づいていないが、時間の問題だ。 早くこいつの魔力を吸収する機能を止めなければ」
「どこかに源があるはず・・・・・・。 祭星、お前は右を。 俺は左を攻撃してみる。 なるべく物理で頼む」
利來はそう言うと、かろうじて残っていたビルに飛び乗る。 ちょうどマグノリアの顔の位置の高さだ。
「うおぉぉぉっ!!」
力を込めて振り下ろした剣。 紫色の魔力を纏った衝撃波はマグノリアの鋼の巨体にヒビを入れる。
「こいつもしかして、衝撃に弱いのか?」
「利來くん! マグノリアの弱点がわかりました!」
下の方から夢架の叫ぶ声が聞こえる。
「今から全員にマーカーで送ります!」
そう言った瞬間、その場にいた全員の右眼に浮かぶ赤いマーカー。 半透明のそれが、示したマグノリアの弱点。
「冗談じゃないぜ・・・・・・」
「これ、死ねって言ってるようなものじゃん」
もっとも狙いにくい場所、マグノリアの幾つもある爪のたった一つに付いている赤い結晶。
「爪は何回も再生されてる。 そのたくさんあるうちの一つを壊せって、そんなの・・・・・・」
嘆く祭星に続くように佐久夜がつぶやく。
「しかも爪に近づくということは、逆に言えば爪の攻撃を受けやすくなるということ。 捨て身覚悟の攻撃だよ」
全員が死を覚悟しなければならない。
仄花が士気をあげようと口を開いた時だった。
「みんな、下がってて」
祭星が一歩前に出た。
「メフィストくん、手伝ってもらえる? 初めてだからきっと制御できない」
「仕方ないね。 安心しなよ、死なせはしない。 ここにいる全員ね」
祭星の前に現れる大きな本。 彼女はそれを手にとり、スゥと息を吸う。
「メフィスト! 祭星さん! 一体何を!」
「夢架、心配しなくていい。 これはボクにも、彼女にも必要な試練だ」
「でも・・・・・・」
夢架の肩に仄花が手を置く。
「失敗したら許さないぞ、クレアシオン」
「何言ってるの仄花ちゃん。 失敗するわけないよ。 だって、私には」
にっこり笑った祭星。
「みんなついてるから」
魔法陣が幾重にも光り輝く。 それは天空に届く程の数だった。
クラウンは、その光を確認し、見上げる。
「死ぬなよ・・・・・・。 クレアシオン」
その言葉は、この術の危険さを孕んでいた。
「さぁ、何を創ろうか、祭星」
「とりあえず、なんでもいい・・・・・・。 なんでもいいから、ありったけの武器を!!」
「そういう無茶ぶり、ボクは嫌いじゃないよ」
メフィストが笑いながら、グリモワールに手を押し当てる。
「創造主クレアシオンの名の下に、我、ディスペアーが申す。 性質は鋼鉄、形状は刃、性格は獰猛。 ・・・・・・エスペランサ、我に応えよ」
2人の真横、大きな槍や剣が構築される。 空を覆い尽くすほどのそれは、空を斬り裂き、マグノリアの爪へと襲いかかった。
耳を劈く金属音。 甲高い音が一斉に耳に響き、全員が耳を塞いだ。
その音は急に鳴り止んだ。 仄花が目を開くと、マグノリアの爪から煙があがり、下には刃の折れた槍や剣が落ちていた。
「う、そ・・・・・・」
祭星が膝をつく音。
「どうして、一個も・・・・・・。 どうして! 一個も壊れてないの!?」
マグノリアの爪はヒビすら入っていない。 その爪には青い水晶が張り付いている。
「瞬間的に、爪を護ろうとして、あれを!?」
佐久夜が声を上げる。
「危ねぇ!」
利來は1人飛び出し、祭星とメフィストの前に出て、大剣で盾を作る。 それに弾かれ、爪が落ちた。
「おいしっかりしろクレアシオン! 立て!」
「何が足りなかったの・・・・・・、私が、弱かったから・・・・・・」
「~~っ! メフィスト!」
「わかってる」
メフィストは祭星を抱えて宙に浮かぶと、夢架の隣へ下ろす。
そして、祭星の手を握り、何かを念じるように目を瞑る。
「キミが今へこたれてどうする。 立ち上がれ、前を向け」
「メフィストくん・・・・・・」
「祭星さん、しっかりしてください!」
夢架は祭星の肩に手を置き、回復魔法を発動させる。
「大丈夫ですよ。 祭星さんは強いです。 だから絶対、大丈夫です!」
それを聞いて安心したのか、祭星は呼吸を整え、立ち上がる。
「ごめん。 ちょっと弱気になってたかも」
2人はにっこりと笑い、安心した表情になる。
「夢架、ちょっといいかい」
「はい?」
メフィストは祭星に聞こえないように夢架へ囁く。
「あいつ、精神的にすごく良くない・・・・・・。 何かあれば、キミが助けてやってほしいんだ。 男のボクより、女のキミの方が効果がいいだろうから」
「わかりました」
夢架はこくりと頷くと、前を向いた。 そしてマグノリアを睨みつける。



「利來、こいつを早く仕留めるぞ!!」
「わかった」
仄花が手を振り払うと、影の手がマグノリアを地面に縫い付ける。 その隙を見て、利來が確実に爪を一個一個砕いていく。
「くっ、祭星の魔法が効かなかったのもわかる・・・・・・。 こいつ、硬すぎる!」
「利來! 一つづつでいい! 確実に数を減らせ!」
「わかった!」
仄花はもう一つの魔法を発動させる。
太古の聖遺物はマグノリアには効かないだろう。 彼女がとった攻撃は、全員が見たこともない魔法だった。
「あれは・・・・・・」
「拒絶だよ、白いお嬢さん」
驚く祭星の隣に立ったのは、ルシファー。
「仄花が得意とする魔法。 といっても、君たちにはずっと隠してきたんだろう」
スッと手を前に出す仄花。
その瞬間、銀色の光が帯状になり仄花の頭上を舞う。 地面は音を立てて凍りつき始めた。
仄花が手を横に振り払った。 すると、マグノリアの爪を覆っていた青い水晶が弾け飛び、消えさる。
「なるほど、水晶の存在を拒絶したか。 やはり黒いダイヤモンドの名は伊達じゃない」
ルシファーが愉しそうに笑う。 それを見た祭星は、ムッとして悪魔に言った。
「あなた今までなにしてたんですか」
「ランスロット王に呼ばれててね。 我が来なくとも大丈夫だろうと思っていたが、君もあの悪魔も力不足だね」
悪魔は祭星が拳を握ったのにも気づかずに言葉を続ける。
「秋蘭という少年はまだ覚醒すらしていないし、利來も魔装が不十分だ。 全く、ダイヤモンドだけで成り立っていた支部とは・・・・・・」
そこまで聞いて耐えきれなかったのか、祭星はルシファーを力一杯平手打ちした。 乾いた音が響き、仄花が驚いて後ろを振り向く。
「黙って聞いてれば好き勝手言ってくれますね」
誰もが聞いた事のない、低い祭星の声。
「ルシファーかサタンか知らないですけど、あなたが私の仲間を侮辱するのは許しません」
「ガキが、大口を叩くな」
「ガキ? それはあなたの方でしょう。 ミカエルに負けて、天界を追放された! あなたのような負け犬が、今必死で戦っている人間を下に見るな!」
ルシファーが祭星の胸ぐらを掴んだ時、仄花とメフィストがほぼ同時に2人の名を呼んだ。
「下がれルシファー。 祭星を離して、私の言うことを聞いてもらおう」
白い悪魔祭星を乱暴に離すと、踵を返す。 よろけながら祭星はメフィストに支えられた。
「ルシファー、ボクの主人が無礼を働いたことを謝罪するよ」
近くに来たクラウンに祭星を預けながら、メフィストはルシファーへ声をかける。
「でもさぁ、見た通りだね。 キミは祭星とは相性が悪い。 合うのはボクだけだ。 その辺、立場をわきまえてくれよ? ルシファー様?」
「メフィスト・・・・・・お前は誰に口を聞いていると」
「はははっ、笑わせないでくれよ。 ボクはメフィストフェレスだよ? 所詮は綴られた大悪魔だ。 キミの仲間じゃないしキミから統制される悪魔でもない」
マントを翻したメフィスト。 そのままクラウンの元へ行き、二度とルシファーを見ることはなかった。
「ルシファー、残念だったな。 祭星が主だったら良かったと言っていたが」
仄花は皮肉を言い、羊皮紙を破る。
「魔界に帰って頭を冷やせ。 協力的ではないとわかった以上、もう呼び出さん」
それを捨てた仄花は、ため息を吐いた。そして祭星とクラウンの元へ向かう。
「なぜあんな馬鹿なことをしたんだ祭星」
「だって・・・・・・」
「だって、って・・・・・・。 まぁ無事でよかった。 娘が無事だと知れて父は嬉しいよ」
「まだその事引きずってるんですか」
「言ってやればいいじゃない祭星。 『お父様♥︎』って」
水鏡色の髪を靡かせながら、仄花がそう言った。 祭星は頬を膨らませて仄花に言う。
「仄花ちゃんまでそんなこと言って」
「ははは。 すまなかったな、あいつには私から言っておこう」
「元はと言えば喧嘩を売ったこいつが悪いけどね」
祭星の頭を小突きながらメフィストが笑う。 すると祭星はフンとそっぽを向いて言った。
「だってあの悪魔、秋蘭くん達のことバカにしたんだもん。 みんな頑張ってるのに」
その言葉に、仄花は上を見上げながら答える。
「それもそうだな」
つられて上を向くと、マグノリアの爪が眼前に迫っていた。
だが、それを砕いた一つの弾丸。
「大丈夫か!?」
「秋蘭くん!」
「逃げろといったのに、本当お前は命知らずだな!」
頼もしそうに仄花が笑う。 そして秋蘭の元へ行くと、状況を説明し始めた。
その間、祭星の元に夢架が走ってくる。
「祀星さん、大丈夫でしたか?」
「うん大丈夫! ごめんね心配かけて」
「いいえ、だって仲間ですから」
夢架がにっこり笑うのを見て、祭星は少し恥ずかしそうに一緒に笑った。 そして小さい声で、クラウンに言う。
「心配かけて、ごめんなさい。 ・・・・・・お父様」
それを聞いたクラウンは、わざとらしく聞こえないふりをする。
「ん? 何か言った?」
「心配かけてごめんなさい!」
「そのあとだよ?」
「お父様!」
「やっっと認めてくれたのかい!」
悔しそうに地団駄を踏む祭星を見ながら、夢架は利來の元へ帰ろうと踵を返す。
その時、鈍い音がしてマグノリアが爪を夢架に向かって振り払った。
「っ! 夢架! 逃げろ!!」
間に合わない。
そう思った利來が、遠くにいる夢架に手を伸ばす。

「夢架!!」

彼女の名を叫び、庇うように飛び込んだのは利來ではなく、メフィストだった。
彼の腹を爪が貫く。
「メ、フィスト・・・・・・」
掠れた夢架の声。 メフィストが血を吐き出しながらその場に倒れる。
「メフィストくん!!! メフィストくん!!?」
泣き叫びながら祭星が駆けつけ、悪魔を抱きかかえる。
「大丈夫!? しっかりして、目を、目を・・・・・・!」
「だい、じょう・・・・・・ぶ。 だ。 こんな、ところで・・・・・・1つ命数を使ったとしても、まだ腐る程、余ってるんだ・・・・・・」
夢架。
メフィストが切れ切れに夢架の名前を呼んだ。
「恩は、返した・・・・・・から」
「え・・・・・・」
「大丈夫、すこし、再生に時間はかかる・・・・・・けど、死んだわけじゃない」
メフィストは静かに目を閉じる。 すると彼の体は消え失せ、祭星のブローチが灰色に変わった。
「夢架ちゃん、怪我はない? 大丈夫?」
「は、はい・・・・・・」
「よかった・・・・・・」
祭星は立ち上がる。
「あの、ごめんなさい祭星さん。 私がちゃんと敵の動きを!」
「違うよ。 夢架ちゃんのせいじゃないし、夢架ちゃんに怒ってるわけじゃないよ」
てっきり憎まれたと思った夢架は、えっ?っと目を開く。
「私が怒ってんのはねぇ、メフィストくんの方。 なによ、なにが恩は返したよ。 女の子守って自分が死んでそれで満足? 守れた側の気持ちも何も知らないで、見ているだけしか出来なかった側の気持ちも何も知らないで!! なにが命数よ、死なないよ! あんたは人間としての体を持った人間でしょうが! だったらその命を投げ捨てるもんじゃないでしょ! ・・・・・・ほんっと」
パキンという音と共に、祭星のブレスレットについていたプレートが真っ二つに割れた。
「腹が立つ!!」
祭星が激昂した瞬間、彼女の周りを赤黒い魔力が吹き荒ぶ。
「祭星さん!?」
「夢架! 離れろ!」
こちらに走ってきた利來。
危険を感じとった利來が夢架を引き寄せる。
「彼女が1番目か」
その状況を見ながら、ランスロットは悠長に歩いてきた。
利來がランスロットへと詰め寄る。
「ランスロット王! 俺たちに渡したあのブレスレットは何なんですか!?」
「あれはそれぞれの魔力を糧に、特殊能力を行使出来るように解析が組み込まれたブレスレット。 感情を読み取り、それが最大値に達したらプレートは折れ、力が発揮される。 彼女の場合は『憤怒』の感情。 そして発動される能力は」
嫌味たらしい表情を浮かべたランスロット。 クラウンを横目に捉えながら、彼は笑った。
「ジェノサイドモード」
「ジェノサイド・・・・・・?」
「大量虐殺だ」
ランスロットの胸ぐらを掴んだ仄花。 そして彼に顔を近づける。
「やめさせろ、今すぐにだ」
「無理だね。 彼女は完全に憤っている。 もともと蓮の左腕が吹っ飛んだ時点でアレが発動してもおかしくなかった。 僕が抑えていたんだよ。 だけどアレが発動すればもう制御はできない。 心ゆくまま、彼女は全てを殺し続ける」
「それをやめさせろと言っている!!」
「無理だって言ってるだろう? ほら見なよ」
祭星の携えていた刀が赤く染まる。 刀は徐々に形を変えていっている。
「ランスロット、やはりお前は・・・・・・!」
涙を溜め、震える声で激怒する仄花。 彼女のプレートもカタカタと音を立ててヒビが入る。
「仄花ちゃん、やめるんだ!」
止めに入る佐久夜。
見ていられないと言ったようにクラウンが仲裁に行こうとした時だった。

「祭星!」

祭星の手を握る誰か。
「あ、きらくん・・・・・・」
「それで誰が喜ぶ。 人を殺して人を喜ばせるのか? 違うだろ。 蓮だってメフィストだって、みんなも俺も望んでなんかいない」
「そうです祭星さん!」
夢架が駆け寄って、彼女に言う。
「大丈夫です! 蓮くんの傷も、メフィストくんも、私が絶対になおしますから! だから!」
それを聞いた瞬間、糸が切れたように祭星は倒れる。
クラウンは祭星を受け止めると、ブレスレットを引き千切った。 そして秋蘭と夢架のブレスレットも同様に千切る。
「ご苦労。 ありがとうなお嬢さんに少年」
赤い髪をなびかせ、クラウンがランスロットに振り向く。
そしてスッと目を細め、仄花へと声をかけた。
「仄花、お前の感情は『後悔』だ。 ランスロットを信じた後悔はマグノリアを蹴散らした後にたんまりしろ」
それと。
クラウンは仄花に細い筒を投げ渡す。
「私は祭星と蓮の治療に入る。 夢架を貸してもらうぞ。 利來も一緒に来てはくれないか? 治療中に周りを守る人間が欲しい。 お前なら適任だろう」
「はい」
「了解した」
踵を返したクラウンが独り言のようにつぶやく。
「呼ぶか呼ばないかはお前の自由だが、呼べば真実を知れるだろう」
それだけ言って去って行った。



クラウンが去った後、仄花はゆっくりと筒を開ける。
その中に入っていたのは羊皮紙。 魔法陣が書かれている。
「仄花」
羊皮紙を奪ったのはランスロットだった。 焦ったような表情で、だが笑みを崩さない。
「呼ばない方がいい」
「黙れ」
無理やり奪い返すと、仄花はその羊皮紙に血を垂らす。
「信じていたのに裏切られたのはこちらだランスロット!」
白い光と共に現れた男。
銀色の髪にファーのついたコート。 紫色の目。
「・・・・・・おや」
その男は真っ直ぐにランスロットを見ると、フッと笑った。
「久しぶりだな、ランスロットよ」
「アーサー・ペンドラゴン・・・・・・」
アーサーと呼ばれた人間は困ったような顔をする。
「空間転移をクラウンに預けておいたのはいいものの、まさか食事中に呼び出されるとは思ってもいなかった。 それにここには懐かしい悪魔がたくさんいる」
そしてまたランスロットを見ると、彼は憎悪のこもった声で言う。
「私の弟が随分と世話になったようだねランスロット。 そこのお嬢さん方ともゆっくり話をしたいところだ」
スラッと剣を取り出すアーサー。 周りを取り囲む悪魔たちを眺め、剣を構える。
「ランスロット。 お嬢さん達を守りなさい。 かすり傷すら負わせるな」
「聖王の仰せのままに」
ランスロットは細い剣を手にし、地面に一線を残す。 その衝撃波が魔力を纏い、盾と化す。
「私もあまり乱暴なことはしたくないのだがね。 いささか機嫌が悪い。 それに早く弟に会いたいのだよ。 少し手荒い事をさせてもらおう」
黄金と黒の剣を掲げ、アーサーは剣の名を呼ぶ。
「目覚めなさい、カリバーン」
剣を覆うように魔力が集まって行く。
「我が心は神と共に、我が愛は涙と共に」
そういいながらアーサーはサッと剣を振るった。
たったそれだけで、全ての悪魔が粉々に切り刻まれ、力を失って行く。
振るった際に出来る空気の振動が魔力を纏い、力をつけ、悪魔を切り裂いた。
それだけのことだった。
空が晴れる。 それを背に、アーサーは微笑む。
「さぁ、お茶の一つくらいご馳走になってもいいぞ?」


その男の名は、アーサー・ペンドラゴン。 またの名をアルトリア。
かつて、ヴァチカンを創り、そしてこの世界を守っていた、最強にして最高の聖王だった。



ダイヤモンド伝説 6 に続く



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