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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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女王の踵


女王はその手で国を守りたいと、即位した時からずっと思っていた。
それがどんなに困難なことであろうと、彼女は胸に思いを秘めていた。 決して自分から望んで傀儡になったわけではない。 ただ、可愛い人形は、傀儡に向いているものであって、自分を望む者はこの世にいないと、そう思って生きてきた。
空を望み、空に手を伸ばした少女。
そしてその少女を敬い、空へと翼を広げた少年。
その2人は、やっと・・・・・・。



「疲れましたわ・・・・・・」
ティアーはゆっくりとソファに座った。 この頃は働いてばっかりだ。
5ヶ月前、東との対談が終わった。 王女を無事に返還し、平和同盟を結ぶこととなった。
だが、領地と空を手放すことになった。
いや、それでいいのだろう。 とティアーは思う。
「これからは空だけではないでしょう。 わたくしたちは空に囚われすぎていた。 もっと自分達や国民の足元を見つめ、上を見なければならなかった」
いろんな犠牲があった。 だが、女王はその手で国を守り抜いたのだ。
それがどんなに愚かな選択でも、刃向かう者がいようとも、女王は立ち向かうだろう。
「もう1人ですもの・・・・・・。 1人で、やらないといけない」
ジャックはもういない。 だから何から何まで自分で行う。 新しい執事をつけてはどうか、と言われたが、生憎ジャックの紅茶の味に勝る腕利きの執事はこの城にいない。
他のことにはわがままを言わないティアーだが、執事だけは自分の本当に信頼できる人間を選びたい。
・・・・・・とか言いながら、実は彼が辞める少し前に大喧嘩をした。
あれは確か、また5ヶ月前の話だ。




「ティアーさま、研究所にいた人工の翼に対する処遇ですが」
「全員城に引き受けると、先日大臣にも申しましたが・・・・・・?」
「これは僕が思うだけで、確信ではないのですが」
ジャックはティアーの目を見つめて、ハッキリと言った。
「なぜ人工の翼を城で引き受けるのですか?」
「前にも説明したでしょう。 このまま街に放り出すわけには行きません。 彼らはお金も持っていませんし、薬が」
「街には金が無く食べるものも着るものも、病気を治す薬もない人がいます」
ティアーはそれを聞いて口をつぐんだ。
「あなたは、もっと違う理由で人工の翼を助けようとしているのでしょう。 そんな考えを持つお方ではなかった。 やはり、あの人工の翼の青年と出会ってしまったのが間違いですね」
「わたくしの選択は間違っていると」
「いいえそういうわけではございませんよ。 ただあの男と出会ってあなたは考えが変わったように思います」
そんなにあの男に忠誠心に惹かれましたか?
ジャックはティアーを試すように聞いた。
「あの時止めるべきでした。 いや、あの場ですぐに城からつまみ出せばよかったのですね」
そこまで静かに聴いてきたティアーは急に立ち上がり、細い指でジャックの胸ぐらを掴む。 それはティアーが今までやってきたことのない行動であり、彼女が抱えたことのない感情だった。
「あの方の、あの行動が、悪かったみたいに言わないでもらいましょうか! わたくしには、あなたがあの方みたいに勇気のある人間だとは思わない。 いくらあなたがわたくしに仕えていようと、彼の方の忠誠心を超えることはないと今ハッキリわかりましたわ!!」
「えぇ。 だからそのことを言いたかったのです」
ジャックはティアーの手を握って笑う。
「あなたを本当に守れるのは僕じゃない、きっとグリファス様でしょう」
「は」
「ほら熱くならずに手を離してくださいな。 女王陛下ともあらせるお方が感情に振り回されてはいけませんよ」
そういったジャックの目は、優しさと、悲しさで濡れていた。
なぜその時ジャックが泣いていたのかわからない。 ティアーはそのあとジャックにすぐ謝ったが、ジャックはたださみしそうに微笑むだけだった。
その微笑みは儚く、そして消えそうなものだった。
それから少し経って、ジャックは執事をやめたのだった。


全て思い出したあと、女王は夜空をみる。 綺麗な星が輝いている。 この国を見守るように輝いている。
自分が望んでいた夜空はこうやって毎日見ることができる。 だったら、私がもっと求めるものは。



次の日の朝、ティアーは普段とは違う質素な服を着て、ティアラを取って、街へとこっそり抜け出していた。
街は復興途中で、様々な器材や端材が並んでいた。 それを一生懸命に担ぎ、大人も子供も働いている。
「あっ!」
1人の少女がバランスを崩し、担いでいた器材を落とす。 その下には少女の弟が立っていた。
「危ない!」
ティアーは飛び出し、少年を庇うように抱きしめた。 その反動で彼女の被っていたフードが外れる。
器材はティアーの背中や肩にぶつかり、地面に倒れた。
「す、すみません! 大丈夫です・・・・・・!? あ、あなたはティアー女王陛下!」
深い夜空の色をした髪、青い瞳、少女もその周りにいた人間も皆女王を見てびっくりしている。
「ティアー様、ごめんなさい! ごめんなさい! 私が・・・・・・」
頭を深く下げて、泣き出しそうな声をして謝る少女に、ティアーはにっこり笑った。
「いいのです。 この子が無事で何よりですわ。 あなたも怪我はありませんか?」
「は、はい」
「ならば結構ですわ。 さ、わたくしもお手伝いさせてくださいな」
少年を離し、ティアーは器材を抱える。
「ティアー様! 御手が汚れます!」
「大丈夫です女王陛下! この仕事は私達の」
止める国民達の話を聞かず、ティアーは歩き始める。
「わたくしは、国を守っただけです」
歩みを止めず、女王陛下は静かに語った。
「国を守っただけであって、それはあなた方国民を守ったことにはならない。 わたくしは、人と人とが手を差し伸べあう、そんな平和な世界を望んでいます。 でも望んだだけではなにも変わらない。 今、みんながどんな辛いことをして、どんな生活をしていて、それを知ることが大事だと思ったのです。 この手が汚れても、あなた達の寝床が出来るのならば、この足が動かなくなっても、あなた達の食料が確保できるのなら、わたくしは働きましょう」
皆、その話を聞いていた。
「国を統治するものが、国民の苦しみを知らずしてどうやって政治を行うのでしょう。 今までのやり方が悪かったのです。 わたくしは、前国王のように、気高く優しい王になりたい。
まだわたくしは斧の使い方も、トンカチの使い方も知りませんわ」
器材を置き、斧を持って、ティアーは困ったように微笑む。
「どなたか教えてもらってもよろしいですか?」
それを聞いて、青年が「僕が教えますね!」と言って前に進み出た。 それが合図になったのか、周りの大人たちもまた作業に戻り、ティアーに設計図を見せる。
「まぁ、大きい家が建つのですね」
「はい。 元々集会場だったんですが、器材とかをグレイス家が持ってきたんです。 だから集会場を変えて、みんなが楽しく話せる食堂を作ることになって」
「食堂?」
「ご飯を食べるところですよ!」
「楽しみね! 出来上がったら、ぜひわたくしもここでご飯を食べて見たいですわ」
「陛下が手伝ってくれるんだ、きっと素敵な食堂になりますよ」
賑やかな声が街に響く。
その日はティアーも汗を流しながら、器材を運び、設計図通りに柱を立てた。 お昼には、街のおばさんたちが作ったというシチューを食べた。
「美味しいですわ。 城の食事はいつも同じようなものばかりで」
「普段はどんな食事をとられているのですか?」
「そうですね・・・・・・、昔はかなり豪華だったのですが、最近はわたくしも忙しいことが多くて、パンに野菜やお肉を挟んだものや、スープが多いですわ」
だからこのシチューが美味しく感じるのかもしれない。
「前はとても腕利きの執事がいて、パイやクッキーも美味しいものを焼いてくれてました。 まだ彼がいたのなら、焼いてもらって持ってくることができましたのに」
そう言っていると、1人の少年があっと声をあげた。
「グレイスさんが来たよ!」
すると周りは嬉しそうにそちらの方向を向いた。
「女王、紹介いたしますね! こちらの方はグレイスさんと言って、よく私たちに木や食材を分けてくださるんです」
隣にいた男性が女王へ言う。 だが女王はそれを聞いている様子はない。 男性が不思議そうに尋ねると、女王は立ち上がった。
目を見開いて、掠れた声で、あの執事の名を呼んだ。

「ジャック・・・・・・」

5ヶ月前、自分の元を去った従者。
長い間、ずっと自分のそばにいてくれた。 小さい頃はまるで兄のように慕い、両親が亡くなった後は、親代わりのようなものだった。
彼女にとって、大切な存在。
そして彼にとってもまた、彼女も大切な存在。

「ティアー、様・・・・・・」

カゴをポトリと、地面に落としてしまったジャック。 カゴからはリンゴやぶどうが転がった。 だがそれを拾うものは誰もいない。 誰もが、女王とその執事を見ていた。
「久しぶりですわね、ジャック」
女王はいつもと同じように、前と同じように微笑んだ。 だがジャックにとってはその微笑みが懐かしく思え、涙が溢れ出す。
「あら、男でしょうジャック。 たった5ヶ月ですわよ。 大袈裟ですわ」
「僕にとって、あなたがいない5ヶ月は、100年にも近い苦痛と同じでしたから・・・・・・。 以前のようにあなたの声も聞けない、気を遣いながらお茶を淹れることもなく、自分の好きな焼き菓子を作れる。 そう思っていました。 でも、それはとても、退屈なことで、何も自分の心を満たしてくれるものはないんだと」
「ガールフレンドでも作ればいいのですわ」
「ははは、無理ですよ。 僕の初恋はティアー様、あなたなんですから」
「言ってくれますわね。 だいたい、この身が朽ちるまで女王と共に。 と言っておいてすぐに執事をやめるとは何事ですか」
「お暇をくれたのはあなたの方からでしょう?」
ジャックはティアーのすぐそばまでくると、跪き、彼女の手の甲に口づけをする。
「5ヶ月ぶりですわね」
「そうですね」
さっと立ち上がり、ジャックはいつもの表情に戻る。
女王を叱る時の、表情に。
「ていうかなにをなさってるんですか! 早く城に帰りなさい! 今あなたが大変な時期だって僕知ってるんですからね」
「うふふ・・・・・・」
「うふふじゃないです。 笑ってごまかさないでください。 ほらクッキーあげますから、パイもありますから」
そこまで言った時、静かに聞いていた青年がそっと手を上げて質問する。
「グレイスさんと女王は、一体どんな関係で・・・・・・」
「執事ですわ」
「君主です」
街の広場で、驚きの声が響いた。



「なるほど。 街の状況を知るために城からこっそり抜け出したのですね。 それでお手伝いをしていたと」
「ですわ」
ふむふむと、ジャックは腕を組んで考えた。 そして近くにいた男性と女性に言う。
「なぜもっとこき使ってやらないのですか!? いいですか女王は何も知らない方なんですから思う存分こき使ってやっていいのです!」
「ジャック?」
「それは冗談として」
凄みのある女王の声を聞いて、ジャックは冷や汗を流しながら姿勢を正す。
「今日は帰ってください。 そしてもう来てはいけません。 最近治安が良くなってきたとしても、あなたが来て良いところではない」
「・・・・・・わかりましたわ」
でも、とティアーは真剣な眼差しで街の人たちをみる。
「わたくしから大臣に言って、資材や人材を送ります。 こうやって頑張っている方達を知らない顔して城にいるのは嫌ですから」
皆、手を取り合って喜んでいる。 それをみてティアーは微笑み、ジャックはため息を吐いた。


城に帰る途中、ティアーはジャックに聞いた。
「今は何をしているのですか?」
「何もやってませんよ。 ただ一日をぼうっとしながら過ごしてます。 書物を読むにしてもこの目じゃキツイですし、ああやって街の方にパイや焼き菓子を持って行っているくらいです」
「そう・・・・・・」
ティアーは足を止めた。 そしてクルリとジャックの方を向く。
彼の手をとる。
「城へ戻ってきてほしいのです。 執事としてではなく、パティシエとして」
「は?」
「パティシエでは嫌ですか? ではシェフ、いえソムリエ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! どうして僕がまた城に? 僕の代わりくらいいくらでも」
「いませんわよそんなの!」
グイッと女王から手を引っ張られ、ジャックは引きずられて行く。 目指すは城だ。
「は、離してください、ティアー様!」
「あなた、離したら絶対に帰りますわ! そういう人間ですもの!」
「帰りませんし! もう逃げません!」
女王の手を優しく振り払って、ジャックは仕方なさそうに笑う。
「・・・・・・パティシエとして、ですよ?」
途端に明るくなった女王の笑顔。
「女王専属のパティシエですからね?」
「ええ構いませんわ! またあなたの作った料理が食べられる。 それと」
「それと?」
「教育もしてほしいですわ。 新しい執事をつけなければならない」

こうしてジャックは週に2日だけ城に泊まり、執事達に指導を行った。 その合間に、女王へ渡す焼き菓子を作った。
だが、どんなにジャックが指導しようと、女王の望むような執事はいなかったというのが事実だった。


これから少しして、遂に女王とジャックが認める従者が来るのだが、それはまた、別の話である。






10年後の城は、いつも賑わっていた。
双子の笑い声。 女王の忙しそうな足音。 そして王配の叫び声。
だがこの日はいつもよりずっと静かだった。
「デイビッドー! フェリシアー!」
29歳になった女王は、城を走り回りながら子供の名前を呼び続ける。
「おかしいわ・・・・・・どこにもいない」
ティアーはキョロキョロと周りを見ながら、一つの部屋のドアを開けた。
「リフ!」
夫がいる部屋。 リフはティアーの声にびっくりしたのか、羽ペンを落とす。
「どうかしたのか? そんなに慌てて」
「デイビッドとフェリシアがどこにもいないの! 城中を探したのだけれどどこにも!」
慌てふためき、パニックになっているティアーを落ち着かせ、リフはティアーに聞く。
「離宮には行ったのか?」
「えぇ。 厨房も大臣の部屋も見て回ったけど」
「庭は?」
「みましたわ」
「風呂場」
「もちろん」
「オーブンの中」
「入れませんわ・・・・・・」
うーんと唸るリフ。 彼も不安そうな表情だ。
「今日なにかお祭りでもあってますか?」
「いや、あったらティアーか大臣に連絡が行くはず」
外を見た。 雲行きが怪しい。
リフは決心すると、コートを羽織った。 そしてドアへ向かう。
「どこへ!?」
「外を見てくる。 ティアーと俺の子供だからお転婆が過ぎるところがあるから」
「わたくしも行きます!」
「危険だ。 女王陛下が外に出るなんて」
「何あったら、リフが守ってくれると信じてるから」
女王もケープを着て、彼の隣に立つ。 仕方なさそうに笑ったリフは、彼女の手を握り、進み出した。




外はたくさんの人で賑わっていた。 いつもこのくらい賑わっているのだが、今日はなぜかいつもより人が多く感じる。
「人が多いですわ・・・・・・」
ティアーがそう言いながらあたりを見渡す。 子供はいない。
しばらく見て回ったが、どこにもデイビッドとフェリシアはいなかった。
場所を移そうとした時、向こうにある店でガラスの割れる大きな音と、悲鳴が聞こえた。
「なんですの?」
「盗賊か?」
人だかりができた間からはっきりと見えた。 黒い服をきた男が店から出てきて、近くにいた子供を人質にとっている。
「フェリシア!?」
「なんだって!」
リフが人だかりを掻き分けながら前へ進む。 ティアーもその後を追いかける。
「道を開けろ! この子が死んでも知らねぇぞ!」
男はフェリシアの首にナイフを近づける。
今にも泣きそうなフェリシアを見て、リフは飛び出した。
そして目にも止まらぬ速さで男を殴った。 鈍い音が響き、男は痛さに呻き、フェリシアを離した。
起き上がろうとした男にとどめをさしたのはリフでもなく警官でもなく、ティアーだった。
彼女は店先にあった木の杖を持って、男の鳩尾を強く突いた。 ジャックから護身術でフェイシングをすこし教えてもらったおかげだ。
だが、反動で被っていたフードが外れた。 周りは女王の姿をみてより一層騒がしくなったが、ティアーもリフもそれに構うことなく、フェリシアとデイビッドを抱きしめた。
「全く、心配したんですよ!?」
「ごめんなさい、お父様お母様」
「デイビッド、あなたがいながらなぜこんなことを」
「ちがうのお母様! お兄ちゃんは悪くないの、わたしが、わたしが・・・・・・」
わぁぁああっと泣き出したフェリシア。 それを見てリフはフェリシアを慰める。
「ちゃんと今度からは、誰かに行って街に来るんだぞ?」
「はい・・・・・・」
「よし、いい子だ」


盗賊の男は城の兵に連れて行かれた。 当然ティアーもリフも抜け出してきたので普通は怒られるのだが、盗賊の事と、子供たちの件もあってか、何も言われなかった。
4人で帰る途中、リフはデイビッドに聞く。
「どうして街に?」
「実はね」
デイビッドは父と母にプレゼントを手渡す。
「二人とも今日が結婚記念日って大臣が言ってたから、フェリシアと2人で驚かせようって話になったんです」
「まぁ。 開けてもいい?」
「うん! 開けて開けて!」
可愛らしい包みを開けると、中には綺麗な深い青の傘が入っていた。
一本だけの傘。
そしてタイミング良く、雨が降ってきた。
フェリシアとデイビッドはそれぞれ傘をさす。
ティアーは青の傘を開いた。 大きな傘を、リフが濡れないようにさす。
「これじゃティアーが濡れてしまう」
「えぇ。 だからもっと近づいてくださいな」
ぴったりリフにくっついて、ティアーが言う。
「行きましょう。 肩が濡れないよう、2人で一緒に。 どんなに雨が強くても、風が吹き荒れていても、あなたを、わたくしを非難する方がいても、悲しいこと辛いことがあっても、受け止めていけるように。 道を踏み間違わないように。 これからも2人でずっと、一緒に」





執事の懺悔 へ続く
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