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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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ダイヤモンド伝説 4-Ⅱ

No.16 ~愛する者~

夢架から話を聞いた利來は、彼女を連れて仄花の元へと向かっていた。
「なぁ、ダイヤモンドだけでいいのか?」
「はい。 私達のリーダーは佐久夜くんなんです。 やっぱり佐久夜くんは強いですし、他のみんなを止めるには彼の言葉が必要です」
「なるほど。 他の奴らはいいのか?」
「百木菜ちゃんはそんなに攻撃的な子ではないので。 ただ蓮くんは・・・・・・」
「危ないか?」
「はい。 彼、祭星さんに執着していたので」
言葉の途中で夢架の携帯の着信音が鳴り響く。 今時のタブレット端末を上着のポケットから取り出した夢架は画面に映し出された名前を見ると、スピーカーをONにして着信に出る。
「はい。 夢架です」
『夢架か。 蓮だ』
「どうですか? そっちの状況は」
『あぁ、終わったよ』
スピーカーをONにしていたお陰で利來にも蓮の言葉は届いていた。 我慢出来ずに利來は夢架の携帯に向かって声をかける。
「まさか祭星を殺したわけじゃないだろうな」
『誰だあんた』
もっともな意見が返ってくる。 利來が名前を名乗ろうとした時、携帯の向こうがギャーギャー騒いでいることに気がついた。
『ねー、誰とお話ししてるの?』
『うるせーお前には関係ない』
『さっき利來くんの声がしたよ?』
『利來? あー、あの無礼なやつな。 大体俺が祭星を殺すわけがねぇだろ』
『え? ねぇ殺そうとしてたよね? 殺そうとしてたでしょ? 激おこぷんぷん丸だったじゃん』
『黙れ殺すぞ』
『殺そうとしてるよね!?』
仲良さげに言い合っている2人。 夢架と利來は顔を見合わせて笑った。
「あー・・・・・・、祭星、生きてるんだな」
『利來くんも元気そうでよかったよー。 今どこにいるの?』
「とりあえず裏世界。 今外郭通ったところだ」
『外郭? 私達今外郭の中にいるの。 その近くに仄花ちゃんがいるはずだから、仄花ちゃんは利來くんに任せてもいいかな?』
「あぁ。 いいだろう夢架?」
「はい」
『夢架? 新しい仲間? 夢架ちゃん、私は杯祭星、蓮の幼馴染! よろしくね』
「はい。 野崎夢架と言います。 よろしくお願いしますね」
『そろそろ切るぞ。 そっちは頼んだ夢架』
そう言われ切られた電話。 夢架は携帯をしまうと利來に言う。
「じゃあ仄花さんのところに急ぎましょう」
「そうだな」
利來はいつにもまして黒く染まっている空を見て呟いた。



「はぁ、お前電話中にいきなり割り込んでくるなよ」
「利來くんの声が聞こえたから、つい」
携帯を赤いダッフルコートのポケットに入れると、蓮はゆっくり立ち上がる。
「さて、夢架が佐久夜のところに行くとしたら俺は百木菜の場所だな」
「百木菜?」
「16歳の俺達の仲間だ」
「私も行くよ」
「お前はここにいろ。 怪我してるだろ」
「別に痛くないから・・・・・・痛っ!」
立ち上がろうとした祭星はお腹を抑えふらふらと地面に座り込んだ。
「ほれ見ろ。 お前は俺に2回も刺されたんだぞ」
そう言いながら蓮は痛がっている祭星と同じ目線になるよう膝をつくと、白いハンカチを取り出して血が流れ出している傷口を抑えた。
「ちょっとこれ抑えてろ」
祭星にそう頼むと、腰につけている革の小さな鞄に手を入れ、小瓶と消毒液のようなものを取る。
「すまない、傷が深い。 今は応急処置しか出来ないな。 夢架は回復魔法を使える、あいつと合流するまで耐えてくれ」
もう一枚ハンカチを出して、その綺麗なハンカチに消毒液と小瓶の中に入っていた薬草を塗る。
「手外していいぞ。 そのハンカチはもう使えないからな。 ・・・・・・少し痛むけど我慢しろよ」
「~~~~っ!」
消毒液が傷口に染みて、祭星は足をバタバタさせながら顔を手で覆った。
「よし。 大丈夫かお前」
「すごく・・・・・・痛い」
「当たり前だろ」
「ねぇ蓮、一つ言ってもいいかな」
「おう」
「私、回復魔法使えるんだ・・・・・・実は」
その言葉に目を見開いて、蓮は暫く動かなかった。 少し経って顔を赤くして蓮は言う。
「なんで言わねーんだよ!! 俺が馬鹿みたいじゃないか!」
「だ、だって嬉しかったから・・・・・・」
「え、お前Mなの?」
「違うよ! なんだか昔のことを思い出して、懐かしいなって思ったの」
祭星は本を取り出すと、パラパラとページをめくり、回復魔法のページになった瞬間にそのページを破った。
破ったページを傷口に抑えると、淡く光り、血とともに傷口も消え去った。
「うんこれで大丈夫だね」
「はぁ・・・・・・本当お前って」
「これで私も行けるね!」
元気に立ち上がって祭星は言った。
そんな彼女を見て、蓮はため息を吐きながらダッフルコートを脱いで祭星の肩に羽織らせた。
「風邪引くだろ、びしょ濡れのままだったら」
「わぁ、ありがとう。 なんかあれだね、青春のラブコメみたい」
「アホぬかせ、行くぞ」
「・・・・・・昔はさ、よく私が迷子になってたよね」
「かくれんぼしてて、見つかった途端お前が負けず嫌いだから逃げ出して、そのまま近くの森に迷い込んだ時のことか」
「そうそう。 あの時、フラフラ彷徨い歩いて結局どこかわからなくなって・・・・・・。 やっと見つけたマンションの階段で座り込んで泣いてた。 夕方になって寒くなってきた頃に蓮が見つけてくれたんだよね」
「もう二度と道に迷うなよ」
「何歳だと思ってるの?」
「お前昔からぽやぽやしててよくコップとか落としてただろ。 今でも大差変わってねぇ」
・・・・・・あの時より随分身長が伸びたんだなぁ。
祭星はそう考えながら蓮を見上げる。
小さい頃は自分の方が高かった身長。 今では20cmも差があるのだろう。
そして祭星が何より気になったのは、蓮の長い髪の毛だった。
「ねぇ蓮はバスケやってるんだよね。 髪長くしてて大丈夫なの?」
そう聞いた祭星に、蓮は悲しそうな顔をしてつぶやく。
「覚えて・・・・・・ないのか」
「へ?」
「試合で3回スリーポイント入れるっていう条件でコーチから許可もらった」
「あ、そう・・・・・・」
話をはぐらかした蓮は真っ直ぐ前を見る。
『祭星が忘れていても、俺は忘れてないから。 それだけでいい』
そう考えて、微笑んだ。
「話はあとだ。 外郭をでるぞ」
重たい扉を押し開け、蓮は外へ一歩踏み出す。
闇に堕ちた青年は、やっと光へ辿り着いた。




佐久夜は蓮の禍々しい魔力が消え去ったのを確認すると、戦闘をやめ、空を見上げた。
「!?」
仄花は佐久夜のその様子に驚き、動きを止めた。
『なにをやるつもり・・・・・・?』
「へぇ・・・・・・。 あの白い女の子が蓮をね。 実力は見させてもらったよ」
佐久夜の立つ足元。 その影から黒い手が伸びる。
「なっ」
仄花と全く同じ魔法。
「空が黒に染まる。 もう手加減は必要ないということ!」
危険を感じた仄花は咄嗟にその場から飛び退いた。 彼女がもといた場所が黒紫色に変色し、コンクリートが溶ける。
「これ全部魔力そのものか!」
「ご名答、光を操るものは闇を知る。 言っても、君には関係のないことだろうよ!」
佐久夜は地を蹴った。 仄花を一気に追いつめた彼は、黒く染まった右腕で近くにあった標識を掴む。
するとそれは大きな黒塗りの槍へと変わった。
「お前の触れたものは全て魔力へ還るということか」
「流石はダイヤモンド。 ご理解が早いことだ!!」
その魔力で作られた槍を仄花の頭めがけ、佐久夜は突き出す。
「甘いな」
仄花はその場でバク転、佐久夜の持っている槍を足場にし、さらに高く飛翔する。
「その力を持ってしても、お前は私には勝てない」
「戯言を。 魔術師がいい気になるなよ? この俺、ギルガメッシュの眷属だった魔術師風情が」
「やはり、か・・・・・・」
小さく呟くと、仄花は自動販売機の上を踏み台にし、また高く飛び上がる。
ビルの屋上へ着地し、仄花は前世の事を思い浮かべる。
後ろからコンクリートに着地した音が聞こえる。 振り返り、佐久夜へ声をかける。
「お前、名前は? 前世じゃなくて今の」
「朝峰佐久夜」
「そうか・・・・・・。 佐久夜。 朝と夜の名を持つものか」


「あなたにぴったりの名ではありませんか、ギルガメッシュ」


仄花は一瞬で魔装を纏う。
「相変わらず、皮肉屋だな。 魔導師サクリフィス」
黒いローブを着た姿、水鏡色の髪は紫色へと変わっている。 そんな仄花を見て、佐久夜も魔装を始める。
銀と青の鎧。 金色の髪。 勝気な目が非常に目立つ。
「やはりお前が黒いダイヤモンドへ生まれ変わっていたとは」
「あなたは自分が黒いダイヤモンドになれるとでも思っていたのですか?」
睨み合う2人。
「サクリフィス、お前は非常に良い魔術師だった。 あのことを除けば」
「・・・・・・」
「己の一族を皆殺しにし、王家を焼き殺し、さらには自らの命を捨てようとした。 常人では考えられんな」
「・・・・・・ギルガメッシュが私を救ってくれた。 よく覚えています、今でも感謝していますよ」
「あぁそうだ。 俺はお前が死ぬ直前に、お前を拾った。 瀕死のお前を城に連れ帰って助けた。 それから魔術師として動いてくれた。 お前がいなかったら俺はあんなに名の知れた英雄にはなれなかっただろうよ。 だが」
ギルガメッシュはサクリフィスに一歩近づく。
「俺を殺す必要はあったのか?」
その言葉にサクリフィスは動じなかった。 ただ冷徹な目でギルガメッシュを睨んでいる。
「俺を殺した時の感覚はどうだった、気持ちは? 俺はお前から刺された時、呆然としてたよ。 なぜ心から愛している者から殺されるのか、意味がわからなかった。 お前の生まれた国の問題だとわかったのは死ぬ30秒前だ」
一歩、また一歩とサクリフィスに歩み寄るギルガメッシュ。
「あの時から何も変わっちゃいない。 お前も、俺も、状況も立場も。
さぁどうする。 お前はまた俺を殺すか? また俺を殺して自嘲めいた笑顔で俺を見送るのか?」
ギルガメッシュは自分の剣をサクリフィスへと投げる。
「決めるのはお前だ」
サクリフィスはじっと剣を見つめた。
・・・・・・同じ。 全く同じだ。
あの時もギルガメッシュの剣を奪ってギルガメッシュを刺した。
自分が殺した。 ギルガメッシュを殺したのは自分だ。
なぜ?
なぜ殺した?




『なに? 東と西が戦争を始めた?』
『はい。 その戦争の手助けにと、西がこちらへ来ています。 使者がお目通りを願いたいと』
『わかった、通せ』



あの時の言葉が、頭に響く。
今でも鮮明に思い出せる前世の記憶。 利來とも、那々星とも違う。 仄花は生まれた時から自分の前世の記憶を持っていた。
そして恐らく佐久夜も同じ。
サクリフィスがギルガメッシュを殺した理由。 それはとても簡単な事だった。
自国の危機だ。
サクリフィスが元々生まれ育ったのは東国だった。 サクリフィスは名家の出、王族に仕える一族だった。 サクリフィスもそれを全うしていたし、誇りに思っていた。
状況が変わったのはサクリフィスが23歳の時だ。
西国との関係に亀裂が入り、冷戦が始まったのだ。 東国の王は西国との戦いに控え、サクリフィスにこう命令した。
『お前は我が王族を殺したと偽ってこの国を出ろ。 そして西国に支援する南国の王、英雄ギルガメッシュを暗殺するのだ』
当時の西国は、南国という大きな国に支援されて存在してきたようなもの。 その南国の存在は大きく、戦略的支援は東国の5倍にあった。
サクリフィスはその命令を承諾し、すぐに決行した。 それはギルガメッシュが東国へ訪問に来ていた日だった。
王族を殺したように見せ、自ら自害しようとしたサクリフィスをギルガメッシュは止めた。
この時、サクリフィスの作戦は失敗だった。 元は死んだようにし、他国に『大魔導師サクリフィスが死んだ』という偽報を知らせ混乱させた後にギルガメッシュを殺すというやり方だったのだ。
まさかギルガメッシュから拾われると思ってもいなかったサクリフィスは、戸惑いを隠せずにいた。 すぐに殺そうと、ギルガメッシュの隙を伺っていた。
だが、そんな彼女はギルガメッシュに惹かれることになった。
ギルガメッシュはサクリフィスの心の傷を癒すために、様々なことをやってくれた。 自ら紅茶を淹れたり、南国の名所を一緒に見て回ったり、なにより『王族殺しの黒魔導師』という異名を背負ったサクリフィスを守ったのは他でもないギルガメッシュだったのだ。
ギルガメッシュの優しさに惹かれたサクリフィス。 同じようにギルガメッシュもサクリフィスの気高さと性格に惹かれたた。
サクリフィスは願った、このまま時が止まって、ギルガメッシュを暗殺することなんてなくなってしまえばいいと。 戦争なんて起こらなければと。
だが、時は進んだ。
サクリフィスの元に念話が入ったのは、戦争が始まろうとした時だった。
『急いでギルガメッシュを殺せ。 これは王としての命令だ。 聞かなかった場合はお前の一族を皆殺しだ』
王の命令、一族を盾にとられ、サクリフィスは遂にギルガメッシュを暗殺したのだった。


「ねぇ、ギルガメッシュ」
サクリフィスはポツリとつぶやく。
「あなたは私がいつ死んだのか知らないでしょう」
眉をひそめるギルガメッシュ。 彼女は剣を片手に持ち、続ける。
「私が死んだのは、あなたが死んだほんの1分後です」
「は・・・・・・?」
「自害、です。 あなたを殺した後、私は死にました。 あなたが最後に淹れてくれたあの美味しい紅茶に毒瓶を全部いれて、自害しました」
あんなに美味しくない紅茶、初めてだった。
そう、言葉を零した。
そしてサクリフィスは剣をコンクリートの床に突き刺す。
「私はあなたを2度も殺したくない・・・・・・。 これが運命だというのなら、私はそれを認めたくない! 私は、もう、この手で大切な人を殺したくない!! 誰かを、みんなを、大切な人を守れるような強い魔導師になりたい!」
仄花は魔装を解いた。 そしてギルガメッシュに言う。
「あんたのやりたいことは何かわからないけど、でも前世も今も、私は羽衣仄花でありサクリフィスで生き続けたい」
それを聞いて、ギルガメッシュはフッと笑った。
「変わらないな・・・・・・、俺はお前を殺しにきたのに、お前はやはり戦いを拒む」
魔装を解き、佐久夜は自分の手を見る。
「ありがとう、仄花さん。 僕は少しだけど、自分の気持ちに整理がつき始めた。 僕もサクリフィスと同じように、戦いに来たわけじゃないのに」
「二重人格なんでしょ、あんた」
「ご名答だよ。 朝と夜、言えば光と闇の人格を持っている。 僕は光、もう一人は闇。 それと僕がここにきた理由は」
「・・・・・・言いたいことは分かってる。 リオンの事だろう。 ギルガメッシュとサクリフィスとの再会を喜ぶのはまだ先だ」
真っ黒に染まった空を見上げる仄花。
「来るぞ、この世界が産んだ、災厄をもたらすホムンクルスが」


「災厄をもたらすとは聞き捨てならないなぁ」


男の声が突然聞こえた。 仄花と佐久夜は後ろを振り向く。
そこには青い髪を三つ編みにした男が立っていた。
「坂夜見リオン・・・・・・」
「全く、君には失望したよ佐久夜。 折角良い手駒になると思ってたのに。 蓮ももう光を見つけてしまったし、使えない」
やれやれと肩を竦めるリオン。 仄花はリオンに向かって言い放つ。
「お前にもう仲間はいない。 おとなしく投降したらどうだ?」
「仲間はいない? はははっ笑わせないでくれ。 まだ私にはいるじゃないか、強い手駒がね」
リオンは憎たらしく、微笑んだ。




裏世界のどこか。
白地に金の装飾が入ったコートを羽織った、黒い髪をした男がビルの上に立っていた。
「やっと動き始めたみたいだ」
世界の傍観者だった彼は、そうつぶやく。
「いつ行けばいい?」
その男の隣、ビルの手すりに座っている赤い髪をした男は、裏世界の景色を眺めながら聞いた。
「そう焦るなクラウン」
「こっちは血縁の命がかかってんだ。 お前みたいに傍観していられるとおもうか?」
「落ち着きたまえ、確かにクレアシオンを案じる気持ちもわかるが、今はまだその時ではないさ。 だが、そろそろ動く。 それだけを言っておく」
「私は私のやりたいようにやる。 ダイヤモンドはお前が助けてやれ。 可愛い部下なんだろ?」
「違いない。 交渉成立だな。 危険だと思ったら駆けつけてやれ」
黒髪の男は、赤と金色の王冠を頭に乗せ、不敵な笑みをこぼす。
「仄花、もう少しで、あなたに会える」
ヴァチカンの聖王、ランスロットは手にしていた剣に口付けをした。


No.17 ~獅子の鉤爪~

空が黒に染まっていた。
そんな空の下、走る2人の男女の前に現れたのは、茶色の髪をした女性。
「ごきげんよう、利來くん、夢架ちゃん」
優しそうな顔、ピンクの上品なワンピース。
「あ、愛華さん・・・・・・?」
「ごめんなさいね、主人の願いですもの。 私はそれに従うだけなの」
笑顔を崩さぬまま、愛華は地面を蹴る。
そして一瞬、利來の肩に触れた。
「?」
理解が出来なかった。
愛華が触れた肩の骨が、鈍い音を立てて砕けたのだ。
突然の痛み、利來は肩を抑え座り込む。
「くっ、あぁっ・・・・・・」
痛々しい声を零す利來。 夢架はその様子を見て顔を青ざめた。
「まさか、物の老朽を早めた・・・・・・?」
「そのとおり。 私は回復系だから、その魔法に一工夫付け加えたの。 治すことができれば壊す事だってできるの」
夢架は身の危険を感じ、利來の肩にそっと手をおく。 すると黒い蝶の紋様が現れ、淡い黄色に輝き出す。
「こ、これは・・・・・・」
「わたしの魔法です。 触れた傷を治療することができます。 利來くん、お願いがあるんです」
夢架は目の前の愛華から目を離さずに言った。
「戦ってはいけません、逃げ切りましょう」
愛華に勝てる見込みは残念だがない。
「何を言っている? 逃げることはしない。 それがリッターのやり方だ」
「ここで死ぬつもりですか」
夢架の容赦ない言葉に、利來は唇を噛みしめる。
「今は逃げる選択しかできないんです・・・・・・。 愛華さんを傷つけたら、関係のない人を巻き込むことになる」
「関係のない? そんなことはないわ。 私は主人のためだったら悪に手を染めるわ。 私が死にそうだった時助けてくれたのはリオンさんですもの。 リオンさんがもう二度と死ぬことのないようにそばにいて癒してあげるのが私の勤めですからね」
利來はその言葉に違和感を覚えた。
夢架も同じだったようで、利來と顔を見合わせる。
「二度と死ぬことのないように・・・・・・?」
まるでリオンが1度死んだかのような言い草だった。
「あら、あなた達は知らないのよね。 リオンさんはもともと違う世界にいた。 そこで殺され、魂として彷徨いこのヴァチカンの世界線にやってきた。
主人を殺したのは、ヴァチカン7冠者の1人、結城タクミ」
眉をひそめた利來。 愛華はにっこり笑って付け足す。
「結城タクミのことはあなたたちのお仲間、群青のクレアシオンに聞けばいいわ」
空を見上げ、演説をするかのように手を広げる愛華。
「ああ、始まるのよ。 リオンさんの求める、世界が!!」




秋蘭は、ある少女に出会った。
そして今はその少女と一緒に裏世界に来ている。
「だから~、あんたとあたしはパートナーにならなくちゃいけないわけ」
「お前なんなんだよ」
「あのさぁ、前世も覚えてないし魔法も使えないって本当?」
「悪かったな」
「うっそ、本当なわけ? ショックだわ」
その少女は末鸞百木菜と名乗った。 そしてであって早々言ったのはこれだ。
『わけあって大変なことになったから助けてくんないかな』
秋蘭はため息を吐く。
「大体こっちはリオンのことで頭がこんがらがってんのに」
「リオンの事知ってるならこれから起こることもだいぶ理解できるとは思うけど? ま、あたしもロクな魔法使えないし戦力にはならないと思うけどね」
「お前も団体の何かなのか」
「多分あんたらの敵。 だけど状況が変わっちゃった。 敵の敵は味方でしょ? ほら前見なさいよ」
そこには以前見た、青い髪をした白衣を着た少女が。
坂夜見ヴァーミリオン。 リオンの娘だったはずだ。
「私の名前は坂夜見ヴァーミリオン、朱い海と言われた軍人。 出し惜しみはしない、あなたたちを殺す」





蓮と祭星の前に現れたのは、一匹の悪魔だった。
その悪魔は人懐っこそうな笑顔を無くし、ただ蓮を睨んでいる。
「コープスくん? どうしたのこんなところで」
悪魔・・・・・・コープスに近づこうとした祭星を手で止めたのは蓮。 不思議そうな目で見る祭星に蓮は言う。
「・・・・・・下がってろ」
「へ?」
刀を構え、蓮はコープスに声をかけた。
「お前の目的は俺だろう? コープス」
コープスはベレー帽を外し、それを大きな剣に変える。 銀と紫色の、綺麗な剣だ。
「あ、あれ、私と同じ魔法・・・・・・!?」
驚く祭星にコープスは微笑む。
「そうッスよ。 自分は君の事が好きで、一緒の魔法が使えるようになるためにずっと君を見てきた。 君は最後までその気持ちに気付いてくれなかったッスけどね」
「好き? だって私とコープスくんは親友だって」
「そういう括った言葉でしか見てくれてないってことッスよ」
優しい笑みが消える。 光を失った目が那々星を見つめた。
「被害妄想もいいとこだ。 好きだと思った人間が自分のことを想ってくれてるとでも考えていたのか?」
祭星の前に立って、蓮は言った。
「気に入らないんスよその態度・・・・・・。 お前を殺せることができれば、それでいい!!」
コープスは一瞬で間合いを詰め、蓮に剣を振り下ろした。 刀でそれを受け止めた蓮はコープスの腹を蹴って距離をとらせ、後ろの祭星に向かって叫ぶ。
「下がってろって言っただろ! お前はシールド出して身を守れ!」
「は、はい!」
祭星が踵を返し、その場から離れようとした時。
「甘いッスね」
紫色の魔力を纏い、コープスは祭星の前に立っていた。 コープスが持つ悪魔の手が祭星の喉元に伸びる。
「くそっ」
触れる直前で、青色の刀がそれを遮った。 蓮が投げた刀だ。
「ごめんなさいコープスくんっ!」
祭星は急いでシールドを創り出し、コープスから離れた。
だが。
「言ったじゃないッスか。 自分は君と同じ魔法を使えるって」
シールドを通り抜け、コープスの手は祭星の手首を掴んでいた。
「そ、んな・・・・・・!」
狼狽える祭星。 悪魔は剣を振り下ろす。
祭星は目をギュッと瞑った。 きっと例えようのない痛みが襲ってくるはずだ。
ところが、その痛みはやってこない。 そっと目を開けると、今度は息を飲んだ。
蓮がその間に割って入り、祭星を庇って剣を受けていた。
蓮の着ている赤いダッフルコートが、さらに紅く染まる。 コートの下に着込んできた薄い、白に見える桃色のシャツは破け、その下からは痛々しい傷と血が流れだす。
「蓮!?」
蓮がコンクリートの地面に頭を叩きつける前に、祭星は彼を抱き留めた。
その拍子に、祭星の鞄の中から一冊の小さな本が転がり落ちた。 それとともにシールドも消え去る。
「エイボンの書、クレアシオンの魔力を司る最強の魔道書」
コープスはそれを拾い上げた。
「! やめてコープスくん! それは、それだけは絶対・・・・・・!」
本を落とし、剣を突き立てた。 エイボンの書は黒く変色し、パラパラと崩れ落ちる。
「あ・・・・・・」
体から力が抜けていくのがわかった。
魔法で身体能力をあげていた祭星は、唯一の魔力を司る本を失った。
今の彼女は、魔力を持っていないただの人間に等しい。
「二人とも一緒に、あの世行きッスね」
今度こそ終わりだ。 祭星はそう思った。
コープスの剣が眼前に迫った。


「調子に乗るなよ、悪魔」


そんな彼の剣を弾き飛ばしたのは赤い槍だった。
「誰だ!」
横から現れた乱入者。 コープスは怒りをあらわにし、声の主を探す。
「名乗るほどの者ではない。 と言いたいが、これは自己紹介するべきだろうな」
黄色いポンチョに、赤く長い髪、目深にかぶったコサック帽をくいっと上に上げ、男はフッと笑う。
「私の名は、クラウン・デイビット。 クレアシオンの名を持つ、ヴァチカンの騎士だ」
髪を翼の形にした男、クラウンは祭星と蓮の前に立った。 そしてコープスに言う。
「今は退くのが最善の選択だぞ、コープス? リオンの元には我が聖王、ランスロットがいる」
「・・・・・・」
コープスは苛立ちを隠し、剣をベレー帽に戻して踵を返す。
「蓮、次は必ずお前を殺す」
最後にそう言い残して消え去った。
「おー、こわいこわい」
クラウンは髪を元に戻す。 横のもみあげに黒いピンを2つつけると、祭星と蓮を抱える。
そして耳にはめたインカムでランスロットへ通信を繋げた。
「ランスロットか? こっちは終わったが、二人ともヤバイ状態だな。 一足先にヴァチカンへ帰還する。 あ? 他のやつら? お前に任せるわけにはいかないか。 私が一緒に空間移動させておく」
通信を切り、クラウンは抱えている二人を交互に見る。
「頼むから死ぬなよ」
それだけ言い残して、その場から消えた。



リオンと仄花の間に割って入ったのはヴァチカンの聖王だった。 リオンは聖王を嫌そうに見つめ、仄花はびっくりたように目を見開いている。
「リオン、残念だ。 ホムンクルスに乗っ取られるなんて」
やれやれと肩を竦めるランスロット。
「黙れ・・・・・・」
「おやおや、随分反抗的だね? だが今は退いたほうが良いよ。 クレアシオンが創り出した裏世界、彼女の魔力が消えたことによって不安定になりつつある」
「・・・・・・」
「君はクレアシオンを利用しようとしているだろうが、それはもうできない。 事の重要性を考えたヴァチカンはこの団体の全員をヴァチカンに招き入れることにした。 次会うときは全員が君の敵だ」
ランスロットは剣を鞘に収めながら不敵な笑みをこぼす。
「さぁ、どうする?」
無言でリオンはその場から姿を消した。
それを見たランスロットは面白そうに笑った。 そしてくるりと後ろを向く。
「久しぶりだね仄花」
そう言って仄花にハグするランスロット。 佐久夜はそれを驚きもせずに見ている。
「やめろ、離せ、離さんか!」
ランスロットを引っ叩き、仄花は乱れた髪を整える。 咳払いをすると佐久夜にランスロットを紹介しはじめた。
「佐久夜、こいつはランスロット。 ヴァチカンの聖王だ」
「えっ、初めましてランスロット王。 朝峰佐久夜といいます」
ランスロットは佐久夜を見ると、うーんと唸った後、ため息を吐く。
「仄花はこういう優男がタイプなのかい? 僕とはちょっとかけ離れてるタイプなんだけどなぁ」
「いつからお前が好きだと言ったランスロット。 言っておくがお前の妃になるつもりはないぞ」
イライラしながら仄花はランスロットを突き放す。 当の本人は知らぬ顔だ。
「じゃあ行こうか、僕の城、ヴァチカンへ」
ランスロットはそう言って魔法陣を足下に作る。
「君達の力が必要になるから、ね」


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