FC2ブログ
楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
ダイヤモンド伝説 4 Ⅰ
追記から小説です



No.012 ~女帝~


体育祭が終わり、すっかりもみじも色付いたころ。
生徒会選挙があった。
仄花と利來は任期を終えて、会長、副会長の座を降りたということになる。
新たな会長になったのは佐々木朋という女子生徒だ。 女の会長というのはこの高校ではかなり久しぶりのことらしく、1週間ほど高校全体がざわついていた。
この佐々木朋は1年生の頃から生徒会に入っており、どうやら同じ部活の祭星によると部活でも1年生のリーダーをやっていたそうだ。
そして2年生となった今年もぶっちぎりの投票数で会長となった。
団体ではそんな彼女のことを『女帝』と呼んでいるらしい。 そして俺は団体に入ってない人まで真名をつけなくても良いのではないか、という気持ちを隠している。

今日は9月15日。 高校は休みだ。
しかし俺は会長と共にいる。 それはなぜか。
「なんで仄花と祭星の遊びにこっそりついてこなきゃいけないんですか」
「あまり大きな声を出すな。 静かにしておけ」
「いや・・・・・・だって女2人ですよ? わざわざこんなことしなくても」
「気になるだろう女2人で遊びなど」
だめだこの先輩。
「それに、祭星と俺が前世の記憶を取り戻した。 順番的に言って次は仄花か秋蘭、お前だろう。 今までの前世の思い出し方に乗っ取れば、必ず第三者の介入があるはずだ。 そうなったら祭星は仄花を守ることはできないからな」
「え、祭星は魔法があるじゃないですか」
「あいつは戦う時だけ魔法で極端に運動神経をあげている。 魔力のほとんどをそっちに回しているから本来の魔法はあまり使えないんだ」
「へー・・・・・・」
「なにかあれば俺やお前が飛び出せば大丈夫だ」
「そこまで考えてんすか」
「当たり前だ。 ダイヤモンドだからな」
やはり会長と祭星の中心、あの団体の中心はダイヤモンドなのだ。
「ん? あ、あれは悪魔ですね」
「ふつうに仄花スルーして行ったな」
恐らく休日だから気にしていないのだろう。
「あの、先輩」
「なんだ」
声を潜めて、会長に言った。
「坂夜見リオン、あいつは一体何者なんですか」
会長はそれを聞くと、驚いたような顔をした。 そして「場所を移すぞ」と言って立ち上がり、近くにあったカフェに入って行った。 俺もそれに続く。
「いいんですか、ダイヤモンドつけてなくて」
「お前が坂夜見に興味を持ったということは、ダイヤモンドの考えはあっていたということだ」
「・・・・・・というと?」
「禁煙席でいいだろう。 お前はタバコ吸わないからな」
窓際のテーブルを選んだ会長は、椅子に腰掛けるとやってきたウエイトレスに勝手に注文を頼んだ。
「コーヒー二つ」
「待ってください、コーヒーと紅茶でお願いします」
ウエイトレスはかしこまりましたと頭を下げて調理場の方へ入っていく。
「何だお前コーヒー飲めないのか」
「苦いのはちょっと」
「まだまだ若造だな。 さて、坂夜見の話だな」
会長は水を一口飲むと、いつになく真剣な顔で口を開く。
「世界政府管轄組織ヴァチカンの事を知っているか?」
「いや、初めて聞きました」
「だろうな。 それが普通だ」
運ばれてきたコーヒーの水面を会長は眺める。 そして角砂糖を一つ入れ、かき混ぜた。
「まず、ダイヤモンドのことについてだ。 ダイヤモンドは世界の覇者。 だがその世界の覇者は1人じゃない」
「他にも世界の覇者がいる、と」
「簡単にいえば四天王のようなものだ。 強い奴らが4人、各地にいる。 ダイヤモンドはその一人。 そしてお前が会った中で、もう一人四天王がいる。 それが坂夜見リオンだ」
会長は角砂糖を四つ並べた。
赤、青、黄、黒の包装紙で包まれた角砂糖。
「例えばこの黒の角砂糖がダイヤモンドだ。 そして赤が坂夜見リオン。 青と黄は他の四天王。 名前だけ言うと、青がリチャード、黄が青龍」
そういいながら彼は角砂糖を縦に積み始めた。
下から順に黒 黄 青 赤だ。
「これが四天王の強さだ」
「ダイヤモンドが、1番下・・・・・・?」
「その通り。 ダイヤモンドは強い。 だがその強さは四天王では1番下の強さ。 まぁお前はダイヤモンドの力を見たことはないだろうがな」
口の中がカラカラだった。
ダイヤモンドは四天王の中で1番下・・・・・・。
とりあえず紅茶を飲んだ。 受け入れ難い話だ。
「そして四天王の頂点に君臨する坂夜見リオン。 こいつはヴァチカンの統治者でもある」
「ヴァチカンは、団体のようなもの。 ということですか」
「察しが早いな。 その通り。 俺たちの教団を纏めるもの。 簡単にいえばヴァチカンが本部、各地にある教団が支部のようなものだ。
そしてそのヴァチカンの中にも階級がある。 そのことを7冠者という。 俺たちはヴァチカン7冠者と呼んでいる」
「坂夜見もそのヴァチカン7冠者に?」
「あぁ。 7冠者のリーダーであり、ヴァチカンの統治者。 大体ダイヤモンドが坂夜見と親しかったから俺らの教団に坂夜見が関わっているというわけだ。
だが、今は違うな。 ダイヤモンドは彼の豹変に気がついた。
坂夜見はあんなに怪しい奴じゃなかった。 俺も初めて会った時はびっくりしたよ。 あいつは正義感の塊だ。 例えるなら勇者だ。 坂夜見は悪人を打ちのめし、善人や弱者を助け、自分を犠牲にする男だった。 今の彼にそんな勇者のような素質があるとは思えん。 それに」
会長は自分の右頬を人差し指で突つく。
「元々右頬にあった紋章が消えている。 ということは封印が解かれたということだ」
「封印? なんのですか」


「あいつはな、ホムンクルスなんだ」


ホムンクルス。
フラスコの中の小人。
「で、でもホムンクルスは小さくて、フラスコの中でしか生きられないんじゃ」
「坂夜見リオンの体がフラスコであり、ホムンクルスは彼の人格だ。 彼は人造人間、そして研究として作られた最強の男。
彼の本名はリオン・レベッカ。 レベッカ財閥という大企業の一人息子だ。 そのレベッカ財閥の社長は元々ある決まりがあった。 それは『社長は代々二重人格であること』 レベッカ財閥は表では医薬品を作っている。 その裏で重火器やミサイルの製造をしているがな。 だから二重人格にならないと身が持たない。 考えてみろ、表では人の役に立つものを作る。 しかしその裏で人を死に追いやり、世界を滅ぼしかねない仕事をする。 だから二重人格が必要と先代は考えた。
だが、坂夜見は産まれて何年経っても二重人格にはならなかった。 だから彼が16歳の頃、人体実験でホムンクルスの人格を植え付けられた。 その際に悪魔の血肉を体の中に入れ、眼球も悪魔から抉り出したもの、それを強引にいれて、融合させ、完成したのが坂夜見リオン。 ということだ」
話に頭がついていけなかった。
意味がわからない。
「話についていけてないようだな。 まぁ無理もない。 俺もヴァチカンの聖王から聞くまでは全く知らなかったことだ。 聞いた一週間は嘘だろうと思い込んでいたからな」
「ま、待ってください、ヴァチカンの聖王・・・・・・? ヴァチカンの統治者はリオンなんじゃ」
「あぁそうだ。 世界政府管轄組織ヴァチカン、その統治者はリオンだが、創始者は違う。 その創始者は今や聖王として祭り上げられ神格化してる。 その聖王が実質的なヴァチカンのボス。 現在は全ての仕事を7冠者に任せっきりだけどな」
頭の上にクエスチョンマークが何個も浮かんでいるような気がする。
それを会長も悟ったのだろう。 「すまないな、難しい話をして」と言って苦笑いした。
「まぁ簡単に言えばこうだ。
1.世界にはダイヤモンドのように強い人間があと3人いる
2.そのうちの1人がリオン
3.リオンは人工的に造られた二重人格であり、ホムンクルス
4.世界政府管轄組織ヴァチカンというものがあり、7冠者がいる
5.聖王が俺らのボス
いきなり全部理解しろとは言わない。 祭星なんてこれを理解するのに1年半かかった。 少しづつでいいから頭の隅にでも置いておいてくれ」
「は、はい。 ・・・・・・リオンが敵なら、あのリオンの側近の3人も敵という事ですか」
「いや彼女達は何にも関係ない。 だがリオンとは近いうち戦う事になるだろう。 お前は入ったばかりだから戦闘に参加するかわからないがな」
「そうですか・・・・・・。あの3人って強いんですか? なんか普通の人間って感じがしますけど」
「妻の愛華は1度に100万人の重症患者を素早く治すことができる。 娘のヴァーミリオンは前世が軍人で、『朱い海』という二つ名で有名だった。 彼女が通った戦道は必ず血肉で染まるらしい。
そしてコープスはS級の人型悪魔。 魔法を使うこともできる。 この魔法は祭星と同じ魔法だから敵にまわすと厄介だな」
「な、なんかすごいですね」
「あぁ。 全員化け物並みだ。 それにコープスは元軍人でヴァチカン7冠者より上の階級だったからな。あいつは本当の化け物だ」
あんなほわほわしてる感じの外見からは思いもつかない強さということか。
「おっと、随分長く話すぎたな。 そろそろ出るか」
会長からそう言われ、俺は席を立った。
その時はまだ気づかなかった。
今日、あんなことが起きるとは。



No.13 ~逢魔が刻~

「ふぅ。 だいぶ買っちゃったね」
「そうだね。 ここまでいっぱいになるとは思わなかったけど、でもいい買い物が出来た!」
夕暮れの街を仄花と祭星は紙袋を下げて歩いていた。
年頃の2人は沢山買い物をしたらしい。
祭星は紙袋を見て満足げに微笑んだ。
「ねぇ。 祭星は彼氏とか作らないの?」
「作らないよそんなの。 邪魔だし」
「そ、そっか」
「私の人生だもん。 他の人に縛られたくなんかないし、そんなに親しすぎる関係は切羽詰まった感じがして好きじゃない。 きっと私が誰かを好きになっても、その人とうまくいくって限らないし、遠慮ばっかりしてぎこちなくなるだけ。 それに・・・・・・私が、誰かを好きになったとしてもその人は私の事理解してくれないから」
「本当後ろ向きね」
「仕方ないよーそういう性格だし。 それに仄花ちゃんだって、私が異性から気に入られるようなやつじゃないって思うでしょ?」
「いや、私が少なくとも私が知ってる中でなら1人いるけど」
「えぇ!? 物好きだなぁその人・・・・・・。 きっとどこかで頭打っちゃったんだよ」
「う、うん」
『言えない・・・・・・。 "あんたがいつも仲良くしてるコープスだよ" とか絶対言えない・・・・・・』
変なところで鈍感な祭星を見て仄花は苦笑い。
にしても、コープスの恋はいつ花を咲かすのだろうか。 随分先のように思う。
もしかしたらこのまま実らないとかもありえることだ。
「考えるのやめとこ」
「へ? どうかした、仄花ちゃん?」
「なんでもない」
仄花は目線の先にある夕焼けを見た。 オレンジに濡れたように彩られた空は随分綺麗なものだ。
「そういえば小学校の頃、神社のイチョウ見に行ってたよねこの時期」
「もうイチョウ切られちゃったけどね」
「そうだね。 祭星も引っ越しちゃったし、最近は色々あって全然遊んだりすることないから」
そうやって昔のことを振り返っていた途中、突然祭星が険しい顔をした。
「祭星?」
「ちょっとこれは・・・・・・。 ダイヤモンド、今から裏世界に行きます」
仄花の返事も聞かず、祭星は足元に魔法陣を展開、2人ごと裏世界へと運んだ。
「いてて・・・・・・急にどうしたの?」
「昼と夜の境目、影が細く伸びる夕焼けの光、人と人との心を冷やし、独りを深淵へ誘い込む・・・・・・これは逢魔が刻だよ」
逢魔が刻、暗くなり魔に遭いやすくなる時間の事である。 普通の人ならば気にしない時間だ。 仄花も今までは気になってなどいなかった。
「ダイヤモンド、一体どうしたの? 今日一日、悪魔の気配が全然見えてないみたいだけど」
「え?」
「後ろ! 危ない!!」
クレアシオンから手を引っ張られ、ダイヤモンドは前に倒れこむ。
ダイヤモンドが起き上がるそれより前にクレアシオンは刀を創り出し、目の前の悪魔に切りかかった。
紫色の血が飛び散り、耳障りな叫び声をあげながら悪魔は砂のように崩れ去る。
刀にベットリとついた血を払うと、クレアシオンはまた刀を構え次から次へと湧き出てくる悪魔へと対峙した。
それをダイヤモンドは呆然と立ち尽くして見ている。
『な、なんで・・・・・・。 悪魔が微かにしか見えない、今までこんなことなかったのに』
「ダイヤモンド! 一旦ダイヤモンドだけ退いて! これじゃ巻き込まれる!」
「でも「いいから早く!」
ダイヤモンドは裏世界を全速力で走った。
そのときにダイヤモンドは気がついた。

微かだが、裏世界に3人の気配があることを。

2人はわかる。 自分とクレアシオンだ。
だがあと1人は?
クレアシオンが座標を間違えて裏世界を展開するはずがない。 だったら魔力で介入してきたものに限られるはずだ。
必死で走りながら、次の曲がり角を曲がった時だった。

「こんばんは、黒いダイヤモンド」

十字路の真ん中に立っていたのは茶色い短めの髪をした青年。
驚くほど容姿が整っている。
「誰だ」
「失礼、今日1日君の魔力を探らせてもらったよ。 おかげで良い情報が手に入った。 これであの人も喜んでくれるだろうね」
「! まさかお前が」
「そうだね、今君の魔力が低下してるのは僕のせい、かな? 生憎もうこれ以上は情報いらないから、魔力を元に戻してあげる」
青年がにっこり微笑んだ瞬間、フッとダイヤモンドに魔力が戻る感覚がした。 そしてクレアシオンの元に一つの大きな魔力があることも確認できた。
誰のものかは分からない。 だが異常なほどの禍々しさを感じた。
「祭星!」
思わずクレアシオンの名を呼んで、ダイヤモンドはあっと口を塞いだ。
「へぇ、あの白い子の名前は祭星って言うんだ。 大丈夫、呪いとかに使ったりしないよ。 ただ彼はあの白い子の事なんにも話そうとしないからさ」
「彼・・・・・・?」
「おっとここまで。 さぁ始めようか。 黒いダイヤモンド」
青年は怪しく笑って、そう言った。

No.14 ~群青~


風が二人の間を吹き抜けていった。
どちらも動こうとはしない。
祭星は相手の余裕そうな態度を睨みつけた。
赤いダッフルコートを羽織り、キャスケット帽を目深に被っている男はポケットから丸い棒付きキャンディを取り出し、包み紙を捨てて口に入れた。
「おいおい。 なんだよそんなにカリカリして」
男は祭星にそう言う。
「自分から呼び出しておいて名乗りもしないなんて、無礼にもほどがある。 ・・・・・・って、利來くんが言ってたから」
「名前ね。 お前は俺の名前を知ってるはずだ」
男は鞘から刀を引き抜いた。 その刀身は黒く輝いている。
「さて、じゃあやろうか」
次の瞬間、祭星は大きく後ろに吹き飛ばされていた。
廃ビルの脆い壁に叩きつけられ、瓦礫の下敷きになる。 彼女は瓦礫を押し上げて立ち上がると、咄嗟に刀を創り出した。 青く輝く刀身を見ると男は声をあげて笑い始めた。
「ふふふっ・・・・・・ははははははっ!! 建速須佐之男命の天叢雲剣か? そうか、前世と融合したことでそれを託されたんだったな! だがそれでお前が勝てると思っているのか?」
「なにを!」
「その剣は誰のものだ? お前のものか? 違うな」
男はキャスケット帽を脱ぎ捨てた。
風に靡く灰色がかった水色の長い髪、赤い双眸。
「俺のものだ」
祭星はその男を知っている。
自分を1度殺した男? いや違う。
もっと昔に、会って、話を交わした。
「れ、蓮・・・・・・」
「そう。 久しぶりだな、祭星。 10年振りか? 随分印象が変わったな」
「どうして蓮が・・・・・・!」
白石蓮。
祭星の幼馴染だ。
今は違う県に住んでいると祭星はそれだけ聞いていた。
「どうして? はははっ笑わせるな。 決まってるだろ、お前を殺しにだ!」
蓮はコンクリートの地面を蹴ると、黒い刀を祭星の心臓目がけて突き立てる。
天叢雲剣を使い、祭星はその刀を防いだ。 だが蓮はそれが狙いだったようで、怪しく笑った。
「その剣は俺のもの。 つまりは」
蓮は天叢雲剣の柄を握る。
蓮の手が触れた祭星は、体に電流が走ったような感覚に襲われ、思わず柄から手を離した。
「建速須佐之男命の生まれ変わりは俺だ。 そしてこの剣は持ち主にのみ本当の力を見せる」
青い刀身が紫色に変わっていく。
「そ、そんな・・・・・・」
だがそれだけではなかった。
彼を包んだ黒い光が消え去った時、そこにいたのは魔力も服装も全く違う蓮だった。
「魔装・・・・・・!?」
魔装とは、契約している武器とその武器に宿る悪魔の力を使い、魔力を身に纏うこと。 相当の実力者にしかできない技であり、肉体の疲労も激しい。
彼の今の服装は青と黒の袴。 そして長い髪は八つに分かれている。
「八岐大蛇と契約を・・・・・・!?」
「御名答」
「そんな! 蓮が、魔装? だって小ちゃな頃は、魔力なんてなかったのに!」
「皮肉なもんだよな。 あの時の大事故で俺は家族を失ったのに、力を得た」
「事故?」
「なんだ、知らなかったのか? はははっ、通りで音沙汰も無いわけだ。 俺が9歳の頃、家族は全員交通事故で死んだ。 生き残ったのは俺1人だ」
初めて知った真実、祭星は俯きながら蓮に言う。
「ご、ごめんなさい、私そんなこと全然知らなくて・・・・・・」
「別にいい。 だが、その罪は」
魔装を纏った蓮は素早く祭星の後ろに回り込むと、紫色の刀を振りかぶる。
「死で償え!!」


蓮の攻撃を頬に掠めながらも祭星はその場から逃げ出す。
魔装状態の蓮の魔力、それに勝てる見込みは多くて30%だ。 相手の魔力が減ってから仕掛けた方がいい。
とりあえず逃げ込んだのは外郭放水路。 地下に雨水を貯めておく場所だ。
大きな立坑以外は水が入っていないはず。 中は広いので祭星はその場所を選んだのだろう。
扉を開け、長い廊下を進み、やっと開けた場所に出た。
「!!」
大きな穴。 底は暗くて見えない。
「立坑に逃げ込むとは中々粋なことをしてくれるな」
すぐ後ろから蓮の声が聞こえた。
振り返り、刀を構えようとしたが、彼の紫色の刀で阻止される。
そして、その紫色の刀で蓮は祭星が一つ結びしていた長く白い髪をバッサリと斬った。
はらはらと髪の毛が足元に落ちる。
「なっ・・・・・・!?」
彼女が動揺した隙に、蓮は天叢雲剣を祭星の首筋にピタリと押し付けた。
「動くな。 そして今から俺が聞く質問に全て『はい』で答えろ」
「そ、そんな」
蓮は冷徹な目をして、何も持ってない左手に刀を創り出すと祭星の腹部に突き刺した。
「っ!?」
「はい で答えろと言った。 余計な事は言わなくていい」
蓮の使う魔法、それは祭星と全く同じ魔法だった。
蓮は祭星に問う。
「お前は弱いか?」
「・・・・・・はい」
「仲間が大切か?」
「はい」
「そうか、じゃあ最後だ」



「お前は今まで、俺の事を忘れていたか?」



その言葉は祭星の心臓を一気に締め付けた。
だが、祭星が答えた言葉。


「いいえ!!」


そう言って蓮の刀を手の甲で払いのけ、彼と距離を取ろうとした。
「いいえだと? 笑わせるな!」
蓮は祭星の手首を痛いほど掴んでいた。
「ふざけるのも大概にしろ、よくそんな嘘が軽々しく吐けるものだ!!」
「嘘なんかじゃない! 私は1日も蓮を忘れた日なんてなかった!」
「ぬかせ! いつも鈍臭くてぽやぽやしてて、何考えてんのかわからないようなお前が!」
祭星の手首を掴む手に力を込める蓮。
痛みに顔を歪ませた祭星。 だがその手を振り払うことなどは一切しなかった。
「・・・・・・お前見てると本当頭にくる。 なんでお前が! 俺じゃなくてなんでお前が仲間と一緒なんだ、なんで、なんで・・・・・・。 どうしてお前はいつも俺を独りに・・・・・・!」
最後の言葉はくぐもっていてよく聞こえなかった。
目に涙を浮かべた蓮。 その青い目にゆらりと黒い影が動く。
「まさか蓮、堕天して・・・・・・!?」
そう言った瞬間、蓮は刀を祭星の腹部に突き刺した。
「うっ、がはっ・・・・・・」
祭星は血を吐き出した。
鮮血が外郭放水路のコンクリートにボタボタと零れ落ちる。
地面に崩れ落ちた祭星はあまりの痛さに涙を流しながら、蓮を見上げた。
すでに勝ち目はなかった。
自分の腹部の刺さっている天叢雲剣を引き抜こうと祭星は剣に手を伸ばす。
それに気づいた蓮は祭星と同じ目線になるように膝を折ると、剣の柄を握って深く剣を突き刺す。
声にならない悲鳴を上げた祭星に、蓮は言った。
「お前は俺を見捨てた。 両親を失い、弟もいなくなり、たった一人になった俺を」
「ち、ちがう・・・・・・」
「ちがう? なにがだ。 お前は俺から逃げていただけ。 だから俺はお前に同じような目にあってほしい。 両親を失い! 姉も失い! そして仲間を殺され!! こんなに楽しいパーティーがどこにある? なぁ、楽しいだろ? 祭星!」
蓮はそのあと、楽しそうに言った。
「許してほしいか? だったら一つだけ方法がある。 簡単なことだ」
そして意識が朦朧となっている祭星の耳元で囁く。
「仲間を裏切れ。 お前が堕ちればいいんだ」
それを聞いて祭星は目を見開いた。 だが時すでに遅く、祭星は蓮からトンっと肩を押され、後ろにあった巨大な立坑へ落とされた。
その感覚はまるで堕ちるようで
自分の中の何かが、ざわざわと蠢いている気がした。
やがて、どぶんと立坑に貯められていた水の中に入った。 水は冷たく、体温を奪ってゆく。
『息が出来ない。 このままじゃ溺れてしまう。 だけどもう、いいや』
深く考える事を放棄し、祭星はユラユラと水中を漂う。
まだまだ底は見えない。 下は真っ暗だ。
『なんで、昔はとても優しくて、暖かくて。 でも今は全然違う。 冷たい。 そう』
「寒いよ・・・・・・蓮。 助けて」
そう呟いて、祭星はゆっくり目を閉じた。
『力がほしいですか?』
頭に声が聞こえる。
「当たり前だよ。 力があればみんなを守ることができるのに」
『彼が心配ですか?』
「彼って、蓮のこと? 心配だよ。 私が早く気づいていれば」
『ならば目を覚ましなさい、群青のクレアシオン。 大丈夫、あなたは水を司る者。 きっと彼も助けれる』
その言葉を聞いて、祭星は水の中で目を開く。
そして水を蹴って、上へと急いだ。
『よかった。 私の言葉に気がついてくれた。 もう大丈夫、あなたは水と共に戦う術を手に入れた。 呼吸も水の中で容易くできます』
「ほ、ほんとだ・・・・・・。 あなたは確か」
『はい。 小八荼です。 こうしてあなたと話すことができてとても嬉しいです。 祭星さん、あなたは彼を助けたいでしょう。 ですから私の力を使ってください。 私も師匠・・・・・・、いえ、スサノオ様を助けたい』
「そういえばなぜ蓮は八岐大蛇と契約なんか、前世がスサノオなら、スサノオと契約をすればよかったのに」
『彼は堕ちた存在。 本当の力を手にすることはできない。 そしてスサノオ様も彼を助けたいと願い、苦しんでいる。 私たちにしかできないことです。 やれますね?』
「当たり前! 魔装でもなんでも、蓮とスサノオを助けるためだったら!」
『そう・・・・・・。 でも気をつけて。 あなたにはまだ堕ちる運命がある』
まっすぐ前を見つめる少女の行く末を祈り、小八荼は力を託した。



「そうだ、これでよかったんだ・・・・・・」
蓮は立坑の中を見ながら、そう呟いた。 祭星の姿はもう見えない。
『本当にこれでよかったと思っているのか』
頭の中に、須佐之男命の声が響く。
「これしか方法がなかった」
『あの男に頼ることしか方法がなかったのか』
「俺は力がない。 弱い。 だから誰かの力を借りないといけなかった」
『ふん。 手弱女1人救えぬ若造か。 くだらぬ。 本当に心から想っているのなら、自分の力で、弱くとも助けるのが男だ』
「俺もあんたも似た者同士だ」
『愚か者だな。 お前は刀に宿った悪を信じた。 その心に巣食う悪を仲間だと思っていた。 だが違うだろう、仲間とはなんだ。 仲間はあの小娘ではないのか』
「笑わせるぜ」
『そんなにあの娘が好きなのならその手を引いて共に歩めば良いだけであろう。 それが仲間だ。 遠くにいてもずっと同じ関係。 それともお前はあの娘が言ったことを信じたくないのか。 そのような歪んだ心は捨てろ。 本当に好きなら寄り添って、相手を信じ、守るのが男のやることだ!』
「違う、あいつは俺の仲間なんかじゃ・・・・・・!」
その時だった。 蓮は背後から凄まじい殺気を感じとる。
「うぐっ!」
胸ぐらを掴まれた蓮は、その姿を見て驚いた。
「ま、祭星・・・・・・!?」
立坑に落ちたはずの祭星がいた。
今の祭星の服装が変わっていることに気がついた蓮。 そして白い髪は半分黒く染まっている。
「おまえ、まさか魔装を」
蓮が掠れた声で呟いた時、祭星は手を離し、前のめりにガクッと倒れこむ。
蓮も一緒になって倒れてしまった。
「お、おい!? 大丈夫・・・・・・」
「やっと。 やっと捕まえた」
「え?」
祭星は蓮の長い髪を掴み、泣きながら言う。
「ごめんね、ごめんね蓮。 私蓮のこと何も考えてあげられなくて、蓮がどんなに辛かったのかなんて何にも知らなくて」
嗚咽を殺しながら、祭星は続ける。
「許してなんて言わない、だけど、もうやめようよ・・・・・・。 私は蓮と戦いたくなんてない」
コンクリートに頬を押し付け、涙を拭う。
すると蓮は祭星に言った。
「謝るのは俺の方だ」
体を起こした蓮は自分の頭を抑える。
「俺達があいつに逆らう術でも持っていれば・・・・・・。 今頃こんな事にはなってなかったのに。 いや、他人に押し付けるのはよくないな。 俺が悪いのは確かなんだ」
「逆らう術? 蓮それってどういうこと!?」
慌てて起き上がる祭星。
「俺だけじゃない。 他の奴らもきっと、お前の仲間を殺しに行っている」



No.15 ~赤~


利來と秋蘭は既に家へと帰り着いた頃だった。
玄関を開けようとして、利來は不思議な気配を感じとった。 後ろを振り向いても誰一人いない。
疑問に思いながらも、利來は玄関を開けた。
途端、ぐにゃりと視界が歪み、気を失って倒れこんだ。


利來が目を覚ましたのは見覚えのない場所。 周りには機械的な文字が浮かんでいるだけで、何もない。
「気がつきましたか・・・・・・?」
何かに怯えたようなか細い声がして、利來は咄嗟に大剣を闇から取り出し、身構えた。
「い、いえ違うんです! あなたとは戦いたくないんです」
ヒョイと暗闇から姿を現したのは体育祭の時のあの少女。 黄色いツインテールの少女だった。
「っ、お前は!!」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! 別に悪気はなかったんです、ほんとうです! 今日ここに利來さんを呼んだのも本当に助けたいからで・・・・・・」
「お前、名前は」
「えっ、あ。 野崎夢架、18歳です」
「話ってのは」
「はい・・・・・・。 実は、助けてあげてほしいんです」
「は?」
「・・・・・・全てお伝えしましょう。 私達を助けてくれたリオンさんの事。 そしてこれから起こりうる災厄と私達の事について」
夢架は赤い目を瞑り、静かに語った。


「私は小さい頃、親に捨てられました。 連れて行かれた孤児院ではいつも泣いてばかりで、安心できる場所がひとつもありませんでした。
そんな時に私を引き取ってくれたのがリオンさん。 あの時のリオンさんはとても優しくて、私達のことを一番に考えてくれました。
『君はもう泣かなくていいんだよ。 私達と一緒に行こう』
手袋をわざわざ外したリオンさんを見て、私はこの人を信じてみようって思ったんです。
リオンさんの家に行くと、私と同じような子供が3人いました。
1人は朝峰 佐久夜くん。 親からの虐待で孤児院に引き取られたらしいです。
2人目は白石 蓮くん。 交通事故で家族全員失って、孤児院に来たと言ってました。
3人目は末鸞百木菜ちゃん。 災害孤児で、身寄りがなかったところを直接リオンさんが引き取ったらしいです。
私達4人は仲良く暮らしました。 リオンさんの家族とも楽しい日々を過ごしていたんです。
でもいつからかリオンさんは人が変わられて、貪欲になられました。 世界を悪魔で埋め尽くして我が物にしようと企むようになって。 それで利用されたのが私達引き取られた孤児でした。
どうやら私達は魔力を持っていたらしく、当時のリオンさんはそれを知って里親を申し出たんだと思います。精神が不安定な私達は魔力という物に目を背け、死んでいく。 それを恐れたリオンさんは私達を助けるために引き取り、守ってくれていたんだと。
でもリオンさんは・・・・・・。 私達を利用しました。 引き取ってくれた、育ててもらった、私達の弱みを握り、そして唯一の大切な人を殺す、と私達を脅しました。
だから私達はあなた達を殺さなければならない・・・・・・」


「今、仄花さんのもとに佐久夜くんが。 祭星さんのとこに蓮くん、秋蘭くんに百木菜ちゃんが、行ってます。
許してほしいとは言いません。 でもお願いします、彼を、リオンさんを助けてください」
「・・・・・・ひとつ聞いてもいいか」
利來は剣を降ろしながら夢架に尋ねる。
「お前達の大切な人とは誰なんだ? そいつを守ればリオンも大切な人も守れて一石二鳥だぞ」
「大切な人は私の目の前にいます」
恥ずかしそうに答えた夢架。 利來は一瞬その意味が分からず、固まった。
「お、俺か!?」
「うぅ~、恥ずかしいです・・・・・・」
「俺とお前はまだ1回しか会ったことないぞ!」
「現世では、ね」
夢架の目の色が青に変わる。
「私はヴァルキリーの生まれ変わり。 利來さんはジークフリートの生まれ変わり。 お分かりいただけますか」
「だからあの時前世の記憶が」
「はい。 私達は生まれた頃、もしくは魔力が覚醒した頃から前世のことを知っていました。 だから生まれ変わりのあなた達がたった1人の大切な人なんです」
「だが、お前達はその俺達を殺しに来てるんだろう?」
「そうです。 ですがこうやって一対一でしっかり話をすれば、きっと分かってくれると思っていました。 ですからこっそり4人で計画を立てていたのですが・・・・・・。 私以外の人はそのことを忘れているみたいです。 みんな攻撃系の魔力なので」
「お前は回復系なのか」
「はい。 戦うことはできません」
夢架は利來に向かって深々と頭を下げる。
「お願いします、リオンさんを助けてください」
「嫌だ」
利來のぶっきらぼうな言葉に、夢架は顔をあげた。 そして泣きそうな顔をする。
「助けるならお前達もだろ。 ふざけんなよ・・・・・・、お前達は加害者じゃなくて被害者にしかならねぇ。 被害者が頭を下げるな」
「で、でも」
「文句があるなら坂夜見リオンに言え。 きっと誰に聞いても、お前達も助けるっていうはずだぜ、俺達4人なら」
夢架は利來の言葉を聞いて、涙を流しながらまた頭を下げた。
「お願い・・・・・・、助けて・・・・・・」
震えた声、利來は夢架の頭に手を置くと自信満々に答えた。
「任せとけ」




Ⅱへ続く

スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
copyright © 2006 楽園の冠 all rights reserved.
Powered by FC2 blog. Template by F.Koshiba.
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。