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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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満月の夜
追記よりナンバーズ2話です
ナンバーズ
ファイル 002

満月の夜

「ヴォルフ、そろそろ儀式の時間だ」
本を読んでいた狼はその言葉を聞いて耳をピクリと動かし、椅子から立ち上がった。 読みかけの本を置いて、ヴォルフは背伸びをした。 そして赤いロングコートを羽織ると入口にいた男に話しかけた。
「あと何分だ」
「10分」
「十分間に合うな」
「・・・・・・儀式、辛くないのか」
「ん? あぁ辛いさ。 でも神が俺に下さった今の使命は儀式の管轄だ。 それなら俺がやらないと」
自分の頬に出来ている一生消えない傷跡を親指でなぞる。
「儀式で負った傷が一生消えなくても構わない。 それでも成し遂げないと」
ヴォルフの強い意志に、男は素直にすごいと思った。
部屋を出る前、ヴォルフは机の上に置いてあった写真立てにむかってにっこり笑った。
「行ってくるよ」


そこでヴォルフは目が覚めた。
上半身だけ起こして、時計を見る。
夜中の1時だ。 ため息を吐くと、またベッドに倒れる。
「100年も前の夢を見るなんてな・・・・・・」
暗闇を見つめ、ヴォルフは目を閉じた。
それから2時間経ったあとだ。
実際に寝ているとたったの5分程度にしか思えない感覚なのだが。
唐突にチャイムが鳴った。 それと共にシエルの声もきこえる。
「ヴォルフさん、ヴォルフさん!!」
声はどこか緊張している様に思える。 その声を聞いて起きたヴォルフは、扉を開けた。
「どうした、シエル」
「た、大変なんです! 月夜さんが、月夜さんが!!」


医務室は深夜にも関わらず、蜂の巣をつついたようなうるささだった。 ヴォルフとシエルが駆けつけた時にはもう既に月夜は人工呼吸器をつけられ、ICUに運ばれていた。
「一体何があったんだ」
「悪魔に魂を奪われたんだ」
そう言ったのは赤い短髪の男、ガイナだった。
「悪魔に魂を? どういうことだ」
「神官様は任務中に悪魔に魅入られて、その身に悪魔を宿した・・・・・・。 見えるだろう? あの濃い紫色の気」
横たわっている月夜の体からは濃い紫色の気が立ち昇り、渦巻いている。
「彼女が悪魔を屈服することができればまた目を覚ます。 だけどそれは奇跡に近い確率だからね」
「月夜さん・・・・・・!」
「悪魔に魅入られし魂、か」
「元々異界の住人だったから、匂いが違かったんだろう。 それに神官様は桁違いに強かったから」
「流石は青の創造主だな」
ガイナはしばらくその場に立っていたが、踵を返した。
「ヴォルフ、シエル。 少し手伝ってほしいことがある」
「なんだ」
「この一件、偶然とは思えない。 もしかしたら政府の差し金かもしれない。 君たちが前受けた任務も政府絡みだったと聞いた」
「! だったら」
「特殊任務だ。 神官様が任務にあたった場所、セレス広場に行こう。 きっとなにかあるはずだ」

セレス広場は街の資料館が所有する敷地だ。 当然広場には資料館も建っている。
深夜のセレス広場には人1人いなかった。 だが、禍々しい空気が漂っている。
空は厚い雲で覆われ、月の光すら届いていない。
「やはり、まだ気が残っている」
ランタンを持ったフォルテが、周りを見て呟いた。 それを聞いて一瞬身を引いたシエルに、ヴォルフは気がついたようだ。
「大丈夫だ。 フォルテもガイナもいるから。 怖くなったら、俺の後ろにいろ」
「は、はい・・・・・・」
ヴォルフがそう言った直後だ。


「カルヴァリーの執行人が4人も勢ぞろいとはな。 運がいい」



闇から声が聞こえた。
「この声は・・・・・・」
「ごきげんよう神の召使達。 お会いできて光栄だ」
真っ黒の闇から現れたのは紫色の短髪をした男。 それと薄い水色とピンクのショートカットの少女。
それぞれ政府の制服を着ている。
「ガナッシュ・ミヴァイム!」
「久しぶりだな、シフォン。 私の可愛い可愛い弟よ」
ガナッシュ・ミヴァイム。 政府を統括する者だ。 政府軍の総帥にあたる人物。
「いや、今の姿ではヴォルフ・クレール・ドゥ・リュヌと呼ぶべきかな?」
そして、ヴォルフの兄。
「きさまなぜここに!」
「実験の為だよ、なぁユイメリア」
ミヴァイムは隣にいる少女に話しかけた。 ユイメリアと呼ばれた少女はコクリと頷く。
無表情がよく似合う少女。 そんな少女を見て、フォルテは目を見開いた。
「ユメ・・・・・・、ユメ!?」
フォルテは一歩前に出ると、少女に向かって話しかける。
「俺だユメ、フォルテだ! お前はユイメリアだろう?」
「・・・・・・お兄ちゃん」
「そうだ! お前の兄だ!」
その会話に驚いたガイナとシエルは顔を見合わせた。
まさかフォルテに妹がいるなど思ってもいなかったのだ。
「よかった・・・・・・こんなところにいたとは。 ずっと探してたんだ」
ユイメリアは下を向いている。 そしてフォルテの元へ歩いていくと、突然剣を取り出して彼の腹に突き刺した。
「なっ・・・・・・」
「ふざけないで!!」
広場にユイメリアの怒号が響いた。
「何が兄よ、ずっと探してたよ!! お前は私の全てを奪った、台無しにした、見放した!! 奴隷になった私を、お前は助けてくれやしなかった! それがどうした、今やっと会えたにもかかわらず、探してただ? よくそんな口が聞けるな! お前のような薄汚い人狼が、私よりも幸せな人生を送ってきたと思うと反吐が出る! 人狼のくせに、人を殺めることしかできないくせに!! 私はお前なんて大嫌いだ!」
そう言いながら、ユイメリアは剣を引き抜いた。 鮮血に彩られた剣、フォルテは血を吐きながらよろける。
無防備なフォルテにユイメリアがとどめを刺そうとしたとき。
「図に乗るなよ、チビ」
彼女の剣が突如として消えた。
「!?」
驚くユイメリアの喉元ギリギリに、ガイナはナイフを突き刺す。
彼は手品師。 武器の一つや二つ、消すことなど容易なのだ。
目深にかぶった山高帽を抑え、ガイナは笑った。
「さぁ、ショーの始まりだ!」
その言葉を合図に、ミヴァイムとヴォルフも動き出した。 ミヴァイムは持っていたトランクを開けると、中に入ってるおぞましい悪魔に指示を出した。
「PNDЯ、狼を噛み砕け!」
PNDЯ(パンドラ)、その名にふさわしい災厄をもたらす悪魔だ。 従わせるのはかなりの魔力が必要なのだが、ミヴァイムにとってはただの手駒でしかない。
「PNDЯ・・・・・・! 馬鹿な、あいつは古代の上級悪魔だったはずだ!」
「その筈です! 確か、封印されていて解読不能だったと」
狼狽するカルヴァリーの二人にミヴァイムは笑いながら言った。
「私がその辺にいる悪魔と契約するとでも思っていたのか? PNDЯ、こいつこそ最強の悪魔! そしてこいつの剣となるЯUNEもすでに契約済だ」
もう片方のトランクに目をやるミヴァイム。
「まぁ話はお前をたっぷり遊んでやってからにしようかヴォルフ?」
「ヴォルフさん、異常な魔力濃度です! 余計な戦闘は極力控えてください!」
「了解した! シエルは側面に周り、援護を頼む。 あいつのコアは任せてくれ!」
「わかりました!」
ヴォルフの指示に従い、シエルは拳銃を構えてPNDЯの側面に向かう。
そしてヴォルフはPNDЯの鋭い爪の攻撃をナイフで受け止める。
だが、PNDЯの持つ瘴気でナイフは紫色に腐れかかっている。
「くそっ」
腐敗したナイフを捨てると、ヴォルフは予備のナイフを取り出した。
その隙を見てPNDЯは一気にスピードをあげてヴォルフに向かってくる。
襲いかかるPNDЯを避け続けるヴォルフ。 それを見てミヴァイムは笑った。
「それでいいのか? ヴォルフ」
「なに?」
「PNDЯ!」
ミヴァイムの新しい指示を聞き、PNDЯは目標を変えた。 その新しい目標とは、シエルだった。
「!」
横から援護射撃をしていたシエルの体や腕にPNDЯは巻きつく。
「いやぁぁぁあっ!」
「シエル!」
ミヴァイムはトランクを持ってPNDЯと共に資料館に逃げ込んだ。 ヴォルフもその後を追う。
資料館は埃っぽく、薄暗い。
通路まで来たミヴァイムは立ち止まった。 そしてヴォルフに問いかける。
「いもしない神にその身を捧げてどうする?」
「神はいる。 お前が神を見ようとしないだけだ!」
ミヴァイムはそれを聞いて笑った。
「神などいない! それは1番私たちが知っているはずだぞ、ヴォルフ!」
「過去に囚われ続けて何の意味がある!」
「ヴォルフ、どうやらお前とは分かり合えないようだ」
そう言ってミヴァイムは右手を上げる。
するとPNDЯがシエルをきつく縛り出す。
「ううっ・・・・・・」
「シエル!」
ヴォルフは持っていたナイフをPNDЯの目に放った。
PNDЯは苦しそうに身を攀じる。 そしてシエルを放り投げ出した。
シエルを抱きとめ、彼はホッと息を吐き出した。
「大丈夫か、シエル」
「はい、大丈夫です」
そんな2人を見て、ミヴァイムは少々苛立ったようだ。 手にしていたトランクをレンガでできた壁に投げつけた。 すると壁は大きな音を立てて崩れ落ちる。
「ヴォルフ、見ろ! 月を、満月を!」
雲と雲との切れ間。 そこに浮かんでいたのは赤い満月だった。
それをはっきりと見てしまったヴォルフ。 その瞬間、彼の中で何かが音を立てて崩れ去った。
緑色に染まる毛先、真紅に変わっていく鋭い双眸。
「ヴォルフさん!」
暴走。 それとよく似ていたが違う。
これは狼化だ。
「ふふふっ、あっはははははははははっっ!!! いいぞ、それでいい、ヴォルフ!」
しかし。
「ぐっ・・・・・・! 」
ヴォルフは必死で狼化を抑えていた。
「なっ!? まさか、あの女の力か!」
シエルの肩をしっかりと抱いたヴォルフ、死に物狂いでなんとか狼化を抑えている。
「ヴォルフさん・・・・・・!」
「シエル・・・・・・お願い、だ」
冷や汗を零しながら、ヴォルフはやっとの事で声を出した。
いつもの彼の声とは思えないほどの、低い声色。
「は、はいっ!」
「俺から、ぜったいに、離れないでくれ・・・・・・!」
そう言って、彼はシエルを抱く力を強めた。
痛さに顔を歪めたシエルだったが、ヴォルフの願いに、大きく頷いた。
「ゔっ、あ"ぁぁっ・・・・・・!」
片手で左眼を抑えるヴォルフ。 左眼はすでに狼化が進んでいるのだ。
今のヴォルフは半分狼化しているようなものだ。 それは暴走や狼化よりも、遥かに辛いもの。 肉体にダメージを蓄積しやすい状態だ。
呻き声を漏らし、ヴォルフは歯を食いしばって狼化が進む自分の体を制御しようとした。 だが、ジワジワと狼化は進んでいく。
「くだらん。 実にくだらないな。 ヴォルフ、何を今更守ることを選んだ? お前は200年前、家族を捨てて自分だけ生きることを選んだ汚らわしい狼だというのに」
それを聞いて、ヴォルフはミヴァイムを睨んだ。
「神などいないと、そう絶望していたのはお前自身だろう?」
ミヴァイムはそう呟いた。 ヴォルフに歩み寄り、そして。
「ヴォルフ、お前の大切な女を、私が痛めつけよう」
そう言って、シエルをヴォルフからスルリと奪い取ると、腹を思い切り蹴たぐった。
「かはっ・・・・・・!」
シエルは遠く後ろへ飛ばされ、石の床に叩きつけられた。
それを見たヴォルフは、ついに理性を失った。
「そうだ、それでいいんだ」
ミヴァイムは一人楽しそうに笑った。

「くっ・・・・・・」
シエルは起き上がって、右手を使って立とうとするが酷い痛みで立てなかった。
みれば右腕の二の腕に深々とレンガの破片が突き刺さっていた。
「う、あ」
あまりの衝撃で、目をそらした。
そして這うようにして窓の近くまで移動し、外を見た。
大きな狼が、灰色の服を着た男と戦っている。 それがぼんやりと見えた。
戦っている、というより、狼は我を忘れているようにしかみえない。 そして男はそれを弄んでいる。
「ヴォルフさん・・・・・・!」
狼が自分の上司だと気づくと、シエルは窓から身を乗り出した。
「っ!!」
右腕に刺すような痛みが走る。
彼女は自分の二の腕とヴォルフを見比べ、そして意を決したように1人頷いた。
壁に寄りかかって座り、横結びしている長く白い髪を口で挟む。
二の腕に突き刺さっているレンガを、シエルは掴み、思い切り引き抜いた。
「~~~っっ!!」
涙を堪え、呻き声を洩らした。
額には冷や汗が滴り、二の腕からは鼓動と一緒に血がどくどくと流れ出す。
痛みで我を忘れる前に、シエルは急いで何かを組み立て始めた。 出来上がったソレを肩に担ぐ。
ソレとはRPG。 ロケットランチャーだ。
女性が持つには重すぎる兵器を、重症で持ち上げ、そして引き金をひいた。
凄まじい勢い、風と共に大きな薬莢はシエルの狙った広場の噴水へ飛んでいく。
反動でシエルはその場から10mほど飛ばされ、壁に体を強打した。
床に倒れていた状態からなんとか体を起こしたシエルが見た光景。

「お前、女にしては良くやるようだな」

政府の総帥、ガナッシュ・ミヴァイムが目の前に立っていた。
「ど、どうして・・・・・・だってさっきまで、向こうに・・・・・・ひっ!」
その問いには答えずに、ミヴァイムはシエルの首を絞める。 そしてそのまま片手で彼女を無理やり引き上げた。
「本来ならば殺すのだが、ヴォルフから気に入られたお前には少し興味がでてきた。 連れて行くことにする」
「くっ・・・・・・あっ・・・・・・!」
「利用すれば、あいつを堕とす材料になる。 なに、悪いようにはしないさ。 今はゆっくり休むことだ・・・・・・」
ミヴァイムは怪しく笑った。


「邪魔」
今まで押され続けていたユイメリアはそう言うと、手を振り払った。
すると一瞬にして彼女の影から無数の手が伸びる。
「ミヴァイムさまがお帰りになるようだわ。 私もここで身を引く」
「ユイメリア!」
ユイメリアに駆け寄ろうとするフォルテをガイナは止めろと言った。
「今は抑えろ! 今回の任務はただの調査だったはずだ! ここで死んでも何もいいことなんてない!」
「だからと言って、あいつは俺の「抑えろっつってんだろ! 人の話が聞けねぇのか! あいつは政府の人間だ!! いくら妹と言っても、政府に足を踏み入れようとするものなら、同じ執行人として俺がお前を殺す!」
それを聞いてフォルテは動きを止めた。 そして力なく膝から崩れ落ちる。
「ふん。 もう二度と私の前に現れないで」
ユイメリアはフォルテを見下し、影と一緒に消えた。
「ユイメリア・・・・・・どうして」
「・・・・・・すまない、フォルテ」
「いいさ、お前の言ってることの方が正しいんだ。 俺は、悪い奴だ」
静かになったと思ったその時、遠くから爆発音が聞こえた。
「!」
「行こう! ヴォルフとシエルだ!」


フォルテとガイナが着いたとき、既にミヴァイムはいなかった。 そして大きな狼が暴れまわっているだけだ。
「赤い満月・・・・・・、ミヴァイムにやられたか!」
「フォルテ、お前はヴォルフの気を引きつけてくれ! 俺がやる」
「わかった!」
フォルテは大剣を振り回すと、狼に向かって叫ぶ。
「おいそこの狼野郎!」
狼は耳をピクリと動かし、フォルテの方向を振り向く。
「我が右手に持つは神の剣、我が血に流れるは狼の血! いでよ、ファントムウルフ!」
フォルテが呪文を唱えた瞬間、彼の影が狼へと変化し、狼の体に巻きついた。
もがく狼、フォルテは「いまだ!」とガイナに言った。
「まかせろ!」
ガイナは後ろから狼に登り、首に純銀のナイフを突き刺した。
「戻ってこい、ヴォルフ・クレール・ドゥ・リュヌ!」
その瞬間、ナイフは輝き出す。 狼はもがき苦しみ、上に乗っていたガイナは振り落とされた。
大きな遠吠え。 それが消えた後。
ボロボロになったヴォルフが、瓦礫の上に倒れていた。


月夜は夢を見ていた。
でも、それが本当に夢なのかはわからない。
ただぼぅっとした意識の中、暗闇に立っている。 下も上も、右も左も分からない。 その中を1人でいる。
月夜は自分の手をみた。 濃い紫の気が手を渦巻いていた。
「悪魔・・・・・・」
小さく呟いた彼女は、前を向く。
すると、目の前にいる一匹の悪魔に気がついた。
その悪魔には見覚えがあった。
大きなカボチャの頭。 黒いマント。
「ジャック・オー・ランタン?」
「ご名答。 わたくしはアイルランドに伝わる妖怪、ジャック・オー・ランタン。 あなた様に憑依した悪魔です」
「地獄にも、天国にも行けなかった悪賢い悪魔が、なぜ私に憑依を」
「惹かれたのです、あなたのその魂にね」
怪訝そうな顔をした月夜に、ジャック・オー・ランタンは言った。
「あなた様の寿命。 長くてあと一ヶ月と言ったところでしょうか?」
「・・・・・・どうして知っているの?」
「わたくしは悪魔ですから」
ジャック・オー・ランタンからそう言われ、月夜は頷く。
「そう。 私はもう命が長くない。 昔からずっとそうだったの、私の母も姉も、みんな24歳で死にゆく運命・・・・・・。 病気でもない、呪いなのか、家系のせいなのか。 なにもわからないって」
「わたくしはその命に魅了されたのです。 運命に抗えるはずもないのに、醜くもがき続けるその魂に」
「悪魔・・・・・・」
「そうです、わたくしは下劣な悪魔。 あなた様が一番よく知っていることでしょう」
ですがどうでしょう?
ジャック・オー・ランタンは、月夜に近づいて問いかける。
「そのあなた様の命、その魂。 まだ手放したくはないでしょう?」
「っ!」
「わたくしを屈服し、そして仕うのです。 そうすればあなた様の命はわたくしのモノ、わたくしが手放すまで、命が尽きることはない」
「でもあなたは悪魔、私は人間よ!」
「ではこのまま神の忠誠を果たせずに悪魔から殺されることを望むのですね?」
月夜は後ずさった。 確かにこの悪魔の言う事は正しいのだ。
「それは・・・・・・」
「神に仕えるのならば、悪魔をも仕うのです。 そうすればあなた様は生きることができる」
ジャック・オー・ランタンのくり抜かれたカボチャ、その目のような窪みは不気味に光っている。
「わかった、ジャック・オー・ランタン。 あなたを使い魔にします」
それを聞いて、ジャック・オー・ランタンは嬉しそうに歩みを進めた。 そして月夜の手を取り、跪く。
「あなた様の為に、この身を捧げましょう」
ジャック・オー・ランタンはキスの動作をとった。
「カボチャがキスだなんて、なんだかすごい光景」
「ふふふ、わたくしが本当にカボチャかどうかは、あなた様はわからないでしょう?」
「そのカボチャをとったら、中からはかっこいい男の人が出てくるとかそんな定番の話?」
「さぁどうでしょう」
「それにしても、ジャック・オー・ランタンなんて言いにくい名前だな・・・・・・。 呼びやすい名前を考えないと」
月夜は少し考えると、カボチャを指差して言った。
「ジャック・オー・ランタンは鬼火って意味だし、ウィル・オー・ザ・ウィスプも鬼火って事だから、あなたはウィスプって呼ぶことにするね」
「なんなりと」
「じゃあウィスプ、ここから出してくれる? みんなが待ってるから」
ウィスプは立ち上がると、わかりましたと言った。 そして

「ではあなた様の心臓を突き刺しましょう」

と言って闇のように黒いナイフを創り出し、月夜の心臓に突き刺した。
「なっ・・・・・・!?」
驚愕の声と共に、血を吐き出した月夜。 崩れ落ちる月夜をウィスプは抱きとめる。
「ウィスプ、あなた・・・・・・どういう」
「大丈夫です、この世界から出るにはこの行為が必要なだけ、痛みはありますが現実の世界では傷も痛みもありません」
ですが
とウィスプは付け足す。
「あなた様はこの痛みを覚えておかなければならない。 わたくしに心臓を受け渡したという事実をゆめゆめ忘れぬよう・・・・・・」
ウィスプは月夜の心臓に手を伸ばす。
心臓を掴まれた、その感触があった瞬間に、月夜は暗い世界での意識を失った。




「うわぁぁああっ!?」
月夜が目を覚ましたのは、明け方の5時。
なのに周りは騒がしい。 そして自分につけられていた人工呼吸器や、最新の機械を見て全てを悟った。
呼吸器をはがし、先ほどの夢を思い出す。
そして胸に手を当てたが、やはり鼓動は無かった。
「驚きましたか?」
気がつけば寝ている自分を見下ろしているウィスプがいるではないか。 月夜は首を横に振ると、ウィスプに言う。
「痛かったよ」
「当たり前です。 心臓を取るんですから。 ほら」
ウィスプの右手には血に染まった小さな心臓が握られている。
「ウッ・・・・・・」
「大丈夫ですか? どこか気分でも?」
「このイタズラ好き悪魔め」
「生前はずる賢い人間だったということをあなた様も知っているでしょう」
「そうだったね・・・・・・」
月夜は体を起こすと、ウィスプに言う。
「それはそうと、あなたなんで出てきてるの?」
「主の一大事でございましたからね」
「よくいう」
それと。 と言ってウィスプは月夜の心臓を指で突ついた。
「いっ・・・・・・!?」
あるはずのない心臓を抑え、蹲る月夜を見てウィスプは楽しそうだ。
「この心臓はあなたの心臓。 痛みは共有されるもの。 忘れないでおいてくださいね?」
「主に、酷いことするのね・・・・・・。 まぁいいけれど。 それより早く周りの状況を知らないと。 ウィスプ、戻って」
「かしこまりました」
ウィスプは黒い影になり、そして徐々に消えて行った。
ウィスプがいなくなったら、とりあえずICUから出た。
「つ、月夜様!?」
「体はもう大丈夫。 それより星夜はどこ?」
「星夜様ですか? 今は神官室にいるとおもわれます」
「神官室? なにかあったのかな」



月夜はノックもせず、神官室の扉を開けた。
中には何かを一生懸命書いている月夜がいる。 片手に受話器を持ち、それに向かって怒鳴っている。
「ふざけんじゃねぇよこのクソ医者! こちとら執行人の命がかかってんだ!! 無理やりにでもあの最新の機械を使うからな! あ? 責任? んなもん俺が全部とってやる! お前は黙って俺の言うことに従え!」
受話器を乱暴に置くと、書き殴った書類を持って立ち上がった。 そして月夜を見ると、目を見開いた。
「月夜!? お前無事だったのか!!」
「悪魔を屈伏させたんだとおもう。 それよりこの騒ぎは?」
「ヴォルフが重症だ。 今は最新技術の高速治療を受けている」
「任務?」
「あぁ。 もう一つはもっと悪い」
星夜は月夜の目をしっかり見て、重々しく口を開いた。

「シエルが、政府側に拉致された」

それを聞くと月夜は神官室を飛び出した。
一心不乱に目指すのは医務室だ。



長い眠りから目が覚めたような感覚。
最初はそう感じた。
それから徐々に全身の痛みがその感覚を消し去って行く。
「俺は・・・・・・?」
「医務室だ」
くぐもった声が聞こえて、ヴォルフは前を向いた。
透明なガラス、その向こう側に黒と白の髪をした男が椅子に座っていた。
「トワイニングか」
「全く。 そんなボロボロで帰って来るなんて、一体何があったんだ? おかげで最新の医療機械を使う羽目になった」
「どうりで変な液体に入れられてる訳だ」
ヴォルフは自分の手を見た。
今の彼は服を一切着ていない。 鍛え上げられた体だが、生傷が痛々しい。
「そういえば、今言うべきかはわからないが。 悲報だ」

「シエルがミヴァイムに拉致されたようだ。 どこを探しても見つからない」

ヴォルフはその言葉を聞いて立ち上がろうとする。 だが、痛みでそれを阻止された。
「落ち着け。 今お前が出て行ってなんになる」
「シエルが、シエルを助けないといけない・・・・・・!」
「その体でか? 無茶だ」
「だったら回復速度を上げてくれよ! できるんだろ!?」
「生憎、これが最高速度だ。 完全な回復まではあと2日かかる」
「そんな役に立たない医療機械のどこが最新だ!!」

「弱い犬ほどよく吠えるっていうことわざ知ってる?」

トワイニングの後ろから部屋に入ってきたのは月夜だ。 ガラスに近寄って彼女はヴォルフに言った。
「傷だらけの男から助けてもらっても女は喜ばないよ」
「月夜、お前」
「それで200年以上生きてきたなんて。 ヴォルフはもっと女性のことについて知るべきだと思うよ」
「お前悪魔に憑かれてたんじゃ」
「悪魔? この人のこと?」
月夜はそういって自分の後ろを指差した。 すると黒い渦からカボチャ頭の悪魔が姿を現す。
「お呼びですか、我が主」
「うん。 彼を回復してあげて。 トワイニング、機械を止めて。 ヴォルフの治療は私がやるからあなたは今すぐ任務の準備を」
「了解」
「任務って月夜。 どういうことだ?」
「決まってるでしょ」
月夜は不敵そうに笑って言った。
「私たちに喧嘩を売った政府に少しお灸を据えるだけ。 ナンバーズの動ける執行人で政府へ乗り込むの」


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