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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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悪夢の中で
夢優魔のお話
真っ暗で先も見えない所を、夢優魔は走っていた。
あるはずのない出口を探して。
すでに走り続けて10分は経っている。
「!」
何もない場所で彼女は転けた。 ドサッという軽い音、夢優魔はまた立ち上がろうとするが、足が言うことを聞いてくれなかった。
ガクガクと震える細い足。 ブーツの踵はすり減っている。 現に体もそろそろ限界だ。 日頃からあまり運動をしない彼女にとって走るということはハードルの高いものだったのだ。
滴る汗を拭って、また夢優魔は自分の体に鞭をうって走り出す。
『こんな、悪夢は、もう見たくない』
『それに、あの人にも出会えた。 大切な人ができた』
彼女が心から想っている人。
その姿が、今暗闇の中に浮かんだ。
「!?」
ぼんやりとではない。 はっきりと見える。
「ライ!」
走るスピードを上げて、夢優魔は手を伸ばす。
「ライ、私・・・・・・。 ゆめはもう、こんな悪夢をっ!!」
涙声でそう言って、彼の手を握ろうとした。 もう少しで触れる、その瞬間。
彼の姿は闇に消えた。
「あ、あ・・・・・・あっ」
目から溢れ出す大粒の涙。
「あぁぁぁあああああああああああっっっっっっ!!!!!」
その場に膝から崩れ落ちる夢優魔。 顔を小さな手で覆い、泣き叫ぶ。
「どうして、どうしてよ! いつもゆめばっかり、こんな悪夢を! もうこれ以上、ゆめの大切な人を奪わないで!」



「!」
目を覚ましたのは、午前10時をすぎたあたりだった。
酷く呼吸が荒く、冷や汗をかいていた。 心臓も早鐘のようになっている。
ベッドから上半身だけを起こし、片目を左手で覆った。
涙。
泣いていたのだ。
そして心に残っているのは虚しさだけ。 そのあとに不安や悲しみもつのっていく。
「誰か・・・・・・」
ベッドから出て、居間へと向かう。
その時、玄関のチャイムが鳴った。 そのチャイムは3回鳴らされた。
夢優魔は寝間着のまま玄関まで駆けた。 そして確認する暇もなく、扉を開ける。
立っていたのは黒いパーカーを着た男。 ライだった。
「よぉ、おはっ!?」
ライはおはようと言おうとしたのだろうが、それは最後まで言えなかった。
夢優魔がいきなり抱きついたからである。
「ライ、ゆめは・・・・・・ゆめは・・・・・・!」
泣いている事に気がついたライは、夢優魔の頭を撫で、抱き返す。
「よしよし、おれはここにいるから、大丈夫。 とりあえず中に入ろうぜ、玄関先だしな」
それを聞いて夢優魔はやっとライから離れた。 裸足だったらしく、マットで足を綺麗に拭いてから廊下をスタスタと歩いて行く。
その後ろをライもついてきていた。
リビングで待っておくようにと言われたライは周りを見渡した。
特に何もない。 真っ白な部屋。
テレビもない、あるのは鏡とソファ、それとテーブルのみ。
彼女の性格が反映されているのだろう。
とりあえずソファに座り、真っ白な壁をジッと見つめていた。
「なにほうけているの?」
着替えてきたのであろう夢優魔が飽きれた声で尋ねた。 両手には冷えた紅茶を持っている。
「暑いでしょ? どうかしら、このつめた~い紅茶をあなたにぶっかけましょうか」
「遠慮しておく」
「あっそ」
夢優魔は紅茶をテーブルに置くと、ライの隣に座った。 そして申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさいねさっきは。 ゆめも情緒不安定なときがあるの」
「そうだな、ユメがいきなり抱きついてくるなんてないからな」
「えぇそうよ。 あなたに抱きつくなんてどうかしてたわ。 それに裸足で」
相変わらず毒舌トークは健全らしい。
「でも」
夢優魔は紅茶の水面を見つめながら小さく言う。
「あなたにしか泣きつくことが出来ないっていうのは、事実なんだけれどもね」
そう言った彼女の顔はいつもと同じように表情がない。 だがどことなくかなしそうに見えた。
「ゆめは、いつも悪夢を見てる。 怖くて苦しい悪夢をずっと。 でもね、今日は少し違った。 いつもと同じように真っ暗闇の中を1人走り続けてる。 出口なんてないのに。 なのに、今日は出口が見つかったの。 ライ、あなたの姿を真っ暗闇の中見つけた。 あぁこれでやっと悪夢から出れるってそう思った。 ゆめはやっとの思いであなたに手を伸ばしたわ。 でも」
触れることは出来なかった。
震える肩を自分の手で抱きながらつぶやく。
「ゆめはいつも思うの。 悪夢の中であなたと出会って、そして悪夢の中であなたと別れるんじゃないのかって。 それが悲しくて哀しくてたまらない」
彼女は自分自身を嘲笑うかのように吐き捨てる。
「前あなたに、『あなたの中も外も、その問いもすべて見れたもんじゃない』って言ったわね。 ・・・・・・それはゆめ自身も同じ。 悪夢は醜い。 だからゆめも醜い」
水滴のついたグラスを手にとると、夢優魔は紅茶を一口飲む。
ライはそんな少女をただ見つめることしかできなかった。
「・・・・・・あなたに会えてほんとに嬉しいって思ってる。 最初はどうでもよかったけれど、でもあなたとゆめ、どこか似てる気がする。 気がするだけよ?
はぁ、それにしても暑いわね。 どう? 海開きしたんでしょ。 海っていうものにでも行ってみない?」
露骨に話を変えた夢優魔。 ライはあえてそれに触れず、苦笑いした。
「人多いだろうよ」
「海に行きたいわ」
「暑いじゃねぇか」
「行きたいわ」
「お前水着持ってんのか」
「・・・・・・」
「水着ってのはな、足と腕を出すことになるんだぜ」
「・・・・・・」
しばらく考えて、夢優魔は一言。
「・・・・・・やっぱり、やめておきましょうか」
心なしか自分の胸元に手をおいている。
「もうちょっと大人になってからな」
「なによゆめが年齢不詳だからってそんなこといって」
「じゃあ何歳なんだよ」
「レディに歳を聞くなんて最低な男ね。 別れましょう」
「んな理不尽な!」
「冗談よ」
彼女は立ち上がると、ライのパーカーをくいくいと引っ張る。
「海にいけないのなら、なにか夏らしい事をしましょう」



「で、なんだその装備は」
「見ての通り、水鉄砲よ」
使い方がわからないの?
と夢優魔は言うと、水鉄砲を構える。
「これをこうして」
ライに向かって銃口を向け
「こうじゃ」
トリガー部分を引いた。 出てきた水をライはひょいとかわしたが。
「なにをやっておるのじゃ! 縁側が濡れたではないか!」
「お前のその喋り方どうしたんだよ」
「ゆめ思ったの。 あなたから押し倒された時に」
夢優魔は再度ライに銃口を向け、片目を閉じる。
「前いた世界での経験のせいで、ゆめはなにも反応しなかったわ。 それはゆめが感情とかを心のうちに閉ざしているから。 それじゃあ意味ないわ。 前いた世界では好きな人とか関係無しだったけれど、今は違うもの。 だから感情を少しづつだけど出して行きたいのよ」
水鉄砲を下ろすと、夢優魔はため息を吐いた。
そしてライに向かって、ぎこちなく微笑んでみせる。
その微笑みは、本当にぎこちないものだった。 もしかすると人によれば『笑顔』に見えないかもしれない。
だが、彼女は生まれて初めて、笑ったのだ。
ライは夢優魔をぎゅっと抱きしめた。 夢優魔も彼をそっと、抱き返した。


この数日後、夢優魔が花火大会に行きたいと駄々をこねるのだが、それはまた別の話である。

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