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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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異国人
出演
ヴァーミリオン
ヴォルフ・クレール・ドゥ・リュヌ
シア (白須宅)
ナギ (アケゾラさん宅)


追記から小説いきます
国が違う設定なので言葉も違うのですが、全て日本語で書いています。


何もかもが寝静まる真夜中。
月明かりを辿りながら、彷徨い走る女性がいた。
外見は23くらい。 しかし実際は30歳の女だった。
紺色の軍服に白衣、セルリアンブルーの長い髪。 そして朱い双眸。
この国では知らない人は誰1人いない。 それくらい有名な女性、ヴァーミリオンだった。
「うっ・・・・・・」
足の痛さに堪えながらも、どこかを目指し、走っている。
息が荒く、呼吸もままならない。
その後ろから数人の声が聞こえてきた。
「あそこだ! 逃がすな!」
「はやく捕まえろ!」
「国境を越えられたら、手が出せないからな!」
その声を聞いて、ヴァーミリオンはさらに息が上がった。
「ご、めんね・・・・・・」
嗚咽を殺し、涙だけを流しながらヴァーミリオンはつぶやく。
「約束、守れそうにない・・・・・・」
既に異能は使えない。 このままでは圧倒的に不利だった。
「くそ! おい、睡眠弾を打て!」
後ろから追いかけていた男がそう言われ、拳銃を構えそしてトリガーを引いた。
「いっ!?」
ヴァーミリオンの肩をその銃弾は貫いた。
襲ってくる痛み、そして急激な眠気にその場にヴァーミリオンは膝を着く。
なんとか痛みに耐え、白衣を翻しながら後ろを向く。
また一発、銃声が響いた。
「かはっ・・・・・・」
銃弾は確かに彼女の腹部を貫通。 完全にヴァーミリオンはその場に伏せた。
地面に自分の血が染み込んでいる、込み上げてきた血をたまらず吐き出した。
涙が血に混じっている。 それを見て、もう心から愛しているあの人には会えないのかと思った。
彼の姿が目に浮かぶ。 にっこりと微笑む彼が。
「へへっ、これで終いだなヴァーミリオン社長」
「マフィアなんかと手を組むからこうなるんだよ」
男がヴァーミリオンの前髪を掴もうとしたその時だった。


「我の目を覚まさせたのは、お前らか」

ヴァーミリオンの体から青い光が放出されている。 それに気づいた男達は後ろへ後ずさる。
彼女はむくりと起き上がり、立てるはずのない体で立ち上がった。
「こいつ・・・・・・髪の色が!」
そう。
青い髪の毛先。 それが今は朱色に変化している。
「懐かしい・・・・・・非常に懐かしい景色だな、我が愛しい孫よ」
ニヤリと笑いながらヴァーミリオンは言った。
「男共よ、所詮お前らの力では我らの血を絶つ事などできないのだ」
「な、なんだお前は!!」
剣をヴァーミリオンに向かって振りかざす男。
その剣をヴァーミリオンは素手で払いのけた。 剣は綺麗な音を立て、真ん中からポキリと折れてしまった。
「!?」
「醜い・・・・・・非常に醜いな。 貴様らには神聖な気が宿ってはいない・・・・・・。 生きるに値しない人間だ」
ヴァーミリオンは腰に下げていたサーベルを引き抜き、まるで槍のように投げた。
剣は凄まじいスピードで飛んでゆき、1人の男の心臓に突き刺さった。
血を吐き出し倒れる男。
ヴァーミリオンは隠していたナイフを持ってこう言った。
「後悔することになるだろう。 貴様らは神の裁きを受けることになる」

それから30分後。
男達の無残な死体だけが転がっていた。





青年は倒れている女性を見つけた。
「誰だ・・・・・・?」
そう呟くと女性を覗き込む。
この辺りでは珍しい髪色、真っ白な肌。 そして見たことのない軍服。
しかしこの青年だけはこの軍服を鮮明に覚えていた。
「ヴェ・・・・・・軍」
声は風に掻き消された。
あの忌まわしい軍の人間、そう思うだけで虫唾が走るのだがこの女性の容態が悪いことは放っておけない。
衰弱しきった様に女性は倒れている。 血だらけだ。
「助けるしかないだろ」
深い眠りに着く女性を見て呟やいた。





カチッカチッと時計の針の音。 どこからかは食器の洗う心地よい音もする。 部屋にはハーブの鉢植えが飾ってあり、良い香りがしている。
「・・・・・・ん」
誰かが目覚めた。 それを獣の耳でキャッチし、彼はキッチンから出てすぐ近くの部屋に入った。
「目が覚めましたか?」
ベッドに上半身だけ起こしてる女性に声をかけた。
「・・・・・・」
女性は違う国の言葉を喋っていた。
それにすぐ気づくと青年は自分の母国語に切り替えた。
「国が違いましたね。 大丈夫です。 その国の言葉なら喋れますよ」
すると女性はホッとしたように胸をなでおろした。 ベッドの近くにある椅子に青年は腰掛けると女性に言った。
「俺の名前はヴォルフです。 あなたは?」
「ヴァーミリオンといいます。 助けてくださってありがとうございます」
頭を下げるヴァーミリオンをヴォルフは止めた。
「礼なんていりません。 こちらこそ、あの・・・・・・申し上げにくいのですが、服を・・・・・・」
ヴァーミリオンはそう言われて自分の服を見た。 軍服ではなく白いシャツを着ている。
「あぁ、わざわざ着せ替えてくださったのですね。 大丈夫です、ありがとうございます」
「随分血まみれでしたので。 なにかあったのですか?」
そう聞くとヴァーミリオンは目を閉じた。
そしてポツリポツリと話し始めた。

「私はある国の財閥の社長でした。 その国ではトップクラスの財閥だったんです。 でもある日、マフィアがやってきてこう言いました。
『愛する人の命がほしいのなら、いますぐ社長の座を降りろ』
と。
そんなことできるわけありませんでした。 だって私は社長、父から選ばれた身です。 簡単に辞めることなんて出来ませんでした。
でもマフィアは頭がよかったです。 私は軍人でしたが、ある理由でちょっとした怪我を負ってしまいました。 その理由にマフィアが絡んでいるのですがこれは国家の法律に違反するので言えません。 しかしマフィアはそれを私のせいに仕向けました。 軍の追っ手から逃げて、この国にやってきたということです」

全て聞き終わった後、ヴォルフは問いかける。
「じゃあヴァーミリオンさんはその国に帰りたいですか?」
「もちろんです。 しかし今のままでは無理に近いでしょう」
暗い顔をするヴァーミリオンにヴォルフはこう切り出した。
「ヴァーミリオンさん。 俺と一緒に骨董屋やりませんか?」
「え?」
「ちょうど1人じゃ手が足りなくて、ヴァーミリオンさん、これから行き先なんてありますか? ないですよね。 だったら俺と一緒にアンティークショップをやりましょう」
「で、でもそれじゃああなたが」
「1人より2人で働いて資金を稼げば国へ帰れるはずです」
ヴァーミリオンはヴォルフを見た。 ヴォルフはにっこりしながら ね? と言って手を差し伸べた。
彼女は少し考えた後、ヴォルフの手を握った。
「一緒に頑張りましょうヴァーミリオンさん」
「えぇ、ヴォルフくん」






「ヴォルフくん!」
「なにかありましたか店長」
それから1ヶ月後。 ついにアンティークショップ「シオン」は開店した。
「向こうのカトラリー、店先に飾ってもらってもいい?」
「はい、任せてください」
狼の青年はカトラリーキットを持つと店内を出て行った。
ヴァーミリオンはため息を吐くと煙管を咥えた。
『開店したのはいいけどお客様がいない・・・・・・』
小さな鈴虫のような音が響く。
『初めてのお客様、楽しみだなぁ』
「あの・・・・・・」
「は、はいぃ!?」
カウンター越しに話しかけられヴァーミリオンは驚きながら店内を見た。
そこには人形を持った黒髪の少年がいた。 優しそうな顔立ち、見てるだけで和みそうだった。
「これ、治してください」
そう言われて差し出されたのは人形。
古い人形で、壊れていた。
「あ・・・・・・すみません。 骨董屋なのですが、修理は承ってなくて」
申し訳なさそうにヴァーミリオンが言うと少年はさみしそうな顔をして「そっか」と言った。
その様子があまりにも可哀想に思えるのと同時に

惨めな、あのときの自分を思い出した。



「お前なんか学校に来んな!」
「ただの親の七光りのくせに!」
クラスの男子から言われ、泣いているばかりだったあのときの自分。

そういえばこの少年と同じような事もあった。

「あの・・・・・・これ治せますか?」
「んー? ははっ、これは無理だよ嬢ちゃん」
「そうですか・・・・・・」
トボトボ帰る背後から聞こえた笑い声。
『ブリキのおもちゃ持ってきてこれ治せますかだってよ!』
『財閥の子でしょあれ?』



この国に同じような輩がいる事は知らない。
でも。
でもこの子の悲しい思い。
見捨てるわけにはいけない。
「待ってください!」
ヴァーミリオンは思わず少年に声をかけた。 ドアを開こうとしていた手を少年は止めた。
「あの、お名前は?」
「オレ? ナギだよ」
「ナギくん。 明日、ここにまた来てください。 そのときこの子を治します」
「ほんと?」
「はい! 私は嘘をつきませんから」
ありがとう!
そう言って店を出て行ったナギを見てヴァーミリオンは微笑んだ。
「あの子、なにかあったんですか?」
カトラリーを飾り終えたヴォルフが言うとヴァーミリオンはそれに答える事なくこう言った。
「ヴォルフくん。 ちょっと本屋にいきましょう」
「え」
「買いたいものがあります」
ヴァーミリオンはヴォルフに背を向け、深遠な笑みを浮かべた。





夜。
ヴァーミリオンはランタンの灯りを頼りに屋根裏へと上がった。
屋根裏には古い本がたくさんあった。 どうやらヴォルフの物らしいが、彼は「自由に使ってください」と言っているので使っていいだろう。
「えっと・・・・・・S・・・・・・Sは「その本棚の1番上です」
優しい声。 振り向くと部屋着姿のヴォルフが立っていた。
「なにか探してるんですか?」
「うん・・・・・・。 ナギくんっていう子が人形の修理を申し出て来て」
「なるほど、だったらメンテナンスのMも探してみます」
ヴォルフはそう言うと別の本棚に向かう。
「ヴォルフくん」
「なんですか?」
「あなたは・・・・・・優しいのね」
いきなりヴァーミリオンから言われ、ヴォルフは顔を赤くした。
「な、なんですか急に」
「だって嫌な顔一つせずに手伝ってくれるんだもの」
「自分は、ただ誰かの役に立ちたいだけですから」
ヴォルフは自分の胸に手を当てそういった。
「あったわ!」
ヴァーミリオンは埃のかぶった本をヴォルフに見せた。
「確かにそれですね」
「ありがとうヴォルフくん。 10分で覚えてみせるわ」
「店長って一体何者なんですか? こっちの国の言葉もたった2日で話せるようになって」
呆れるヴォルフ。 彼女はこう言った。
「私は元ヴァーミリオン大将よ」





次の日。
ナギは約束通りシオンにきた。 ヴァーミリオンはナギに人形を見せながら修理を進めていく。
「わぁ・・・・・・すごいね!」
「これをこうして・・・・・・。 はい、できました!」
綺麗に治った人形を見て、ナギは目を輝かせた。
「すごい! すごいよ!」
「お気に召してくれました?」
うん!
とナギは元気よく言うと人形を大事そうに抱え、ヴァーミリオンに尋ねる。
「修理代、いくら?」
「あ・・・・・・」
決めてなかった。
ヴァーミリオンは目でヴォルフに合図。
ヴォルフは微笑みながら口だけで告げた。
『店長が決めてください』
ヴァーミリオンは少しキョトンとすると、笑そうになるのを堪えた。
「ナギくん。 お金は要らないわ。 そのかわりにお願いがあるの」
「なに?」
ナギの手を取って彼女は微笑んだ。
「またここに来てくれる?」
人形を大事そうに抱えた少年はその手を握り返す。
「うん!」






夕方、看板を下げ終えたヴォルフがヴァーミリオンに言った。
「店長ならやると思いましたよ」
「そう? でも来てくれただけで嬉しいの」
「店長らしいです。 ・・・・・・そういえば、カフェに飾る花をまだ買ってませんでしたね。 俺、森から取ってくるんで店長は先に食事済ませておいてください」
ヴォルフの言葉にヴァーミリオンは目をパチクリさせる。
「大丈夫ですよ、今日の晩御飯はもうできてますから」
「そう! それはよかった」
「店長、料理下手ですもんね「行ってらっしゃいヴォルフくん!!」
笑顔のヴァーミリオンに気圧され、ヴォルフは半ば強制的に外に出された。
「いやはや・・・・・・あれは禁句だったかな」
ヴァーミリオンの作る手料理、それはこの世のものとは思えないくらい強烈なものだった。
「なんとか乗り切ったけど、トイレから3時間出れなかった」
その日は嘔吐と腹痛に悩まされた一日になってしまった。
しかしヴァーミリオンはお菓子だけ上手いのだ。
「要領を覚えればきっと上手く作れるんだろうけどな」
ヴォルフはそう呟きながら暗い森へ入っていった。


辺りは暗く、月の明かりだけが頼りだった。
ヴォルフは大きな木の下に咲いていた淡く光る鈴蘭を少し採る。 そして持ってきておいた籠にそっと入れた。
この辺の地形は詳しい。 まだもっと奥に綺麗な百合も咲いているはず。
そう思ったヴォルフが一歩踏み出した瞬間。

「ヴヴゥ・・・・・・」

唸り声が聞こえた。
「?」
微かだが、確かに聞こえる。 ヴォルフは籠をその場に置くと物音も立てずにそっと歩く。
「なんだ・・・・・・お前怪我してるのか」
しばらくして目の前にいたのは小さな狼だった。
こちらを見ると大きく唸り声を上げ、威嚇してくる。
ヴォルフは黙ってしゃがむと狼の目をジッと見つめた。
小さな狼はヴォルフの目を鋭い爪で切り裂く。
「・・・・・・」
血が滴るが、ヴォルフは動きもせずに狼を見つめた。
小さな狼は少し動きを止める。
彼はそっと狼に手を差し伸べた。 すると小さな狼はヴォルフの手を恐る恐る舐めた。
「よしよし。 怖がらなくても大丈夫だ」
狼を抱き上げるとヴォルフは言った。
「怪我してるんだろ? 待ってろ、薬草が向こうにあるはずだ」
フードの中に狼を入れると元来た道を歩く。
狼はフードから顔だけを出し、ヴォルフの肩に手を置いた。
耳元で聞こえる狼の呼吸、ヴォルフはそれを聞きながら薬草を探した。
「あった、これだな」
ヴォルフは手を後ろに回すと狼を降ろした。 そして怪我をしていた部分に薬草を貼り付ける。
その後にネクタイを外すと包帯のように巻きつけた。
「これでよし。 もう大丈夫だろ」
狼は尻尾を振って喜ぶと、ヴォルフに向かって吠えた。 そして走り出す。
「ついてこいって?」
狼を追って暗い森の中を走るヴォルフ。
すると建物が見えた。
石で出来た古い建物、蔦が絡まっていかにもお化け屋敷な感じだった。
狼は入り口のドアらしき板をカリカリと引っ掻いている。 変わりにドアノブを回して開けてやる。
中は真っ暗。 誰もいない。
そう思っていた。

「誰っ!?」

可愛らしい少女の声が聞こえた。
中からだ。
それと一緒に動物の唸り声も聞こえる。
ヴォルフは腰に下げていたランタンに火をつけ、中に入っていく。
中は牢獄のようだった。
色んな動物がいて、こちらに向かって唸っている。
そして奥ーーーー。

ピンク色の髪をした少女がいた。

少女のいるところだけ天井に穴が空いていて、丁度月が見えていた。
先程は雲に隠れていたが、いまははっきり見える。
満月だ。
ヴォルフはそれを一瞬で把握すると、月明かりを避けるようにその場から少し飛び退いた。
「・・・・・・君は?」
少女にそう問いかけると彼女はギュッと拳を握ってヴォルフに言った。
「出てって」
「え?」
「人間なんて大っ嫌い! 早くここから出て行って!」
彼女の声と共に動物が大きく吠えた。
『この子を守ってるのか?』
そう思いながら一歩身を引く。
「人間なんて! 醜いだけ! 心の中では思ってない事を平然で言うじゃない!」
血が滲みそうな程手に力を入れる少女。 ヴォルフはそんな少女に言った。
「お前、人の心が読めるのか?」
「!」
少女は目を見開いて、そして地を蹴った。
ヴォルフの胸ぐらを掴むと、そのまま投げ飛ばす。
「っ!?」
彼は空中で即座に受け身の準備をし、なんとか着地した。
しかし、足の痛みに耐えきれず片膝をついたまま少女を見上げる。
「私の、私の気持ちなんて知らないくせに。 読み取りたくないものが分かるなんてどんなに恐いか知らないくせに!」
「分かるさ。 俺だってそうだった」
ヴォルフは立ち上がりながら言った。
驚く少女に一歩一歩近づく。
「昔、それこそ今から100年も昔だ。 生まれてから自分の能力を呪った。 人の感情や思考を無差別に読み取って、それを好きなように切り取ったり入れ替えたり出来る、そんな能力だった。 周りはみんな悪口ばっかり。 俺がどう思われているかなんてすぐに分かった。 お前みたいに俺も怖がって誰も寄せ付けなかった。 1人で生きてゆこうと決めた」
距離を縮めるヴォルフに少し怯えるように少女は後退りした。
「でも、人間は嫌い! こっちにこないで!」
「俺は人間じゃないんだ。 狼なんだ」
そういうとヴォルフは自分の耳や尻尾を少女に見せた。
「そ、そんなことが」
まだ認めようとしない少女の前に、あの小さな狼が飛び出した。
そして何かを伝えるように鳴くとヴォルフの肩に乗った。
「怪我? 治してくれたの・・・・・・?」
目を丸くして呟く少女の身長に合わせてヴォルフは中腰になる。
「俺を疑うのなら、心をどれだけ読み取っても構わない。 でも俺は君に害を与える奴なんかじゃない。 それは本当だ」
ヴォルフの目を見つめたあと、少女は肩から力を抜いて崩れるように座り込んだ。
「大丈夫か!?」
「大丈夫・・・・・・人がくるなんて思ってもなかったから」
「驚かせたみたいだな。 すまない」
それだけを言うと、ヴォルフは立ち上がる。
そして踵を返すと牢獄から出ようと歩き出した。
「まって!」
「あ?」
「名前・・・・・・、名前は?」
少女がおずおず聞くと、彼ははにかんで答えた。
「ヴォルフ。 お前は?」
「・・・・・・シアっていうの」
「シアか。 いい名前だな」
ヴォルフは月を眺めながら言う。
「なぁ、またここに来てもいいか?」
「えっ・・・・・・?」
「シアにはもっと知ってほしいこともあるんだ。 この国のこと、世界のこと、そして人間の事」
最後の言葉を聞くと、シアは少し眉間にシワを寄せた。
「俺だって最初は人間を拒絶してた。 でも違うんだ。 この世界にはすごく優しい人がいる。 誰かのためになろうと頑張ってる人がいる」
頭の中に浮かぶのは、あの国で出会った臆病で、それでいて優しい少女。

『分かってます。 あなたとは敵同士だって、でも! でも気付いてください! 軍人だって、誰かの為に命を張ってでも戦ってるんです! 逃げたくなる現実から目を背けずに歩いているんです! だから、きっと詩譜音君とも分かり合える時がくるだろうし、手を取り合う日だってくるはずです!
私の兄と会ったから、軍の悪口なんて言わないでください! だって彼は! 1番軍を愛し、そして人を愛し、自らを悪に染める事を決意した男なんですよ!?
人間が嫌いだからって、全ての人間を否定しないで!』

「自分を犠牲にしてまで、自分が悪に染まる事になってまで誰かを守る人だっている。 もちろんそんな優しい人ばかりではないさ。 でも必ず人間は誰かの為に生きてるんだ」
「・・・・・・」
シアはヴォルフの言葉をただ聞いていた。
そして口を開く。
「でも私は誰からも大切にされてなんかいないんだよ」
「なに言ってんだ。 お前はもう俺の大切な人じゃないか」
「!」
シアは目を見開いた。 ヴォルフはにっこりわらうと「また明日」と言って帰って行った。
「変な人・・・・・・」






それから1ヶ月後。
ヴォルフはシアにこう切り出した。
「なぁ。 俺と一緒に来てくれないか?」
「どこに・・・・・・?」
「シオンっていうアンティークショップ。 そろそろ俺以外の人とも少しずつ話してほしいんだ」
そういうとシアは少し嫌そうな顔をした。 それに気づいたヴォルフはクスッと笑う。
「大丈夫。 店長は俺よりもずっと優しい人だ。 なんなら俺の気持ち読んで店長の事を探ってくれても構わない」
「・・・・・・いつも話してくれてた、女の人のこと?」
「あぁ」
「話・・・・・・だけだったら、悪い人じゃなさそうだけど」
「そうだろ? 一回あってみてくれ。 明日、連れてくるから」
ヴォルフは立ち上がるとコートについた草を払った。
「じゃあ今日は帰るよ。 また明日」
「うん。 いつもありがとう」
「お安いごようさ」



シオンに戻ると、ヴァーミリオンはカウンターで居眠りをしていた。
「てんちょー」
「ん・・・・・・?」
目をこすりながら起き上がったヴァーミリオン。 しばらくボーッとしていた。
「ハッ!」
いきなり何かに気づいたようにヴァーミリオンが立ち上がる。
「ごめんなさい寝てたわ!」
「いえいえいいですよ。 店長だって毎日大変だし」
ヴォルフはコートを脱ぎ、エプロンを着ながらヴァーミリオンにいった。
「そういえば明日どうしてもついてきてほしいんです」
「どこに?」
「森の奥」
「山菜でもとりにいくの?」
「違いますよ」
彼はにっこりわらうとヴァーミリオンに向かって言う。
「どうしても店長にやってほしいことがあるんです」
ヴァーミリオンは意味がわからず、目をぱちぱち瞬いた。





夜、ヴァーミリオンとヴォルフは山道を歩いていた。
「こんな山奥なの?」
「もうすぐです」
前を歩くヴォルフはそれだけいった。
ヴァーミリオンはスカートに付く枯れ草を払うと、顔を上げた。 そして目の前の石で出来た古い建物に息を飲んだ。
「こんな山奥に建物が・・・・・・」
驚くヴァーミリオンにヴォルフは こっちです と言った。 ヴォルフに続いてヴァーミリオンも建物の中に入っていく。
「おーいシア。 連れてきたよ」
「? 誰かいるの?」
ヴォルフの声を聞いて、建物の奥でカサカサと音がした。
暗闇から現れたのはピンク色の髪をした少女、シアだった。
シアはヴァーミリオンを見て動きを止めた。
「店長、この子ずっとここにいたんです。 それで」
「検討はついたわ」
ヴァーミリオンはそっとシアに近づく、そしてシアの目に合わせて膝を折った。
「こんにちは、じゃなくてこんばんは。 シアちゃん、で合ってる?」
「・・・・・・」
シアは無言で頷いた。
「似てるわ・・・・・・。 あの頃の私と」
彼女の言葉に、シアは驚いたように目を少し見開いた。 ヴァーミリオンの朱い目をじっと見つめる。
「私も引っ込み思案で、何もかもを疑ってずっと泣いてる時があった。 でもね、とある人と出会ってそれは変わったの」
そう、今後ろにいるヴォルフくんと出会って。
とヴァーミリオンはヴォルフをチラッと見た。
「気づいてたんですか、俺が詩譜音だってこと」
「姿とか声とか名前が違っても、あなたはあなた。 すぐにわかったわ」
ヴァーミリオンはシアの手を優しく握るとにっこり笑った。
「私の名前はヴァーミリオン。 こことは違う国からきたの。 でも私もシアちゃんもたくさんの共通点があるわ。 一つは女の人っていうこと。 もう一つは」
とびっきりの笑顔でヴァーミリオンは言う。
「ヴォルフくんに助けられたっていうこと」
ヴォルフは照れ臭そうに頭を掻いた。
「人は1人で生きていけない。 誰かと支え合って生きてゆくもの。 それが不必要だと思う人も沢山いるけれど、でも支え合って助け合って生きているのは事実なの」
あなたもそうよ、シアちゃん。
ヴァーミリオンの優しい声。
シアは握られた手を見つめる。
「今は世界が怖くてもきっと大丈夫。 世界はあなたが思ってるほど、怖くて辛いものでもないの。 不幸の数だけ幸せがある。 涙の数だけ笑顔があるの。 現にこうして、私は笑うことが出来てる」
彼女はそこまで言うと、シアの手を離して考える。
「ここで立ち話をするのもなんだから、私達の家にこない? 美味しい紅茶とあったかい毛布に暖炉、そして笑顔がある、私達の家に」
「私達の・・・・・・家」
「そう。 そこで沢山のおしゃべりをしたり、笑って悲しんで時には喧嘩もして。 楽しい毎日だとおもわない?」
シアはぎこちなく、それでも確かに頷いた。
2人はそれを見ると微笑んだ。


「ここが私達の家、素敵でしょう?」
シオン と書かれた看板にシアは惹かれ、にっこり笑って頷いた。
「これからはシアちゃんと、私とヴォルフくんの家。 きっと最初は大変だけれど、一緒に頑張りましょうね」
「・・・・・・うん!」


END







おまけ

ヴァーミリオン「シアちゃんのお部屋がないから、作らないとね」

ヴォルフ「俺が部屋移動しますよ、だから2階のあの部屋、シアの部屋にしましょう」

ヴァーミリオン「本当? ありがとうヴォルフくん!」

ヴォルフ「いえ大丈夫です( これもシアのため・・・・・・」

ヴァーミリオン「さぁ、家具も買わなくちゃね! (ヴォルフくんは使いやすい子ね」
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