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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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ダイヤモンド伝説 3
追記から
No.08 ~真夏の体育祭練習~

今日は体育祭のリーダー会だった。
俺、錦利來はS班男子班長。 仄花はS班女子班長。 那々星はI班パネルリーダーになっている。
体育祭は西条学園の頭文字になっていて
S班
I班
J班
U班
の4つにわかれている。
去年S班は応援コンクールも競技も最下位。 1位は全てJ班がもっていった。
対するI班はここ2年間ずっと2位止まり。

「利來くん、今日はどうする?」
仄花が聞いてくる。 そういえばまだ指示を出していなかった。
「じゃあ踊りの練習覚えるようにって言っておいてくれ。 最後に全部合わせてみる」
「あー、わかった」
俺たちは教団内以外、呼び捨てを使わない。
もっとも、祭星はみんなに「ちゃん・くん」をつけるのがポリシーになっているが。
クラスの中では仄花とはよく話す。 人柄的に仄花は話しやすい。
でも祭星とは滅多に話さない。 1学期は一回も話していない。
それは彼女があまり積極的に男子に話しかけようとしないからだ。
『男と話すくらいなら本読んでた方がいいなぁ』
そう言っていた時があった。
俺は上を向いた。 青い空が綺麗だ。
「力がほしいな・・・・・・」
呟きは風に吹き飛ばされた。





「I班パネルリーダーの杯です。 他の班より良いパネルができるよう頑張ります」
結班式。 リーダー紹介があっている。
まず驚いたのは祭星がパネルリーダーということ。
「先輩、パネルリーダーだったんですか」
「あ、秋蘭くん。 そうだよ。 秋蘭くんは学年長でしょ?」
長い髪を1つに結んで、黒い眼鏡をかけた少女。
普通の顔立ち。 それでも光を反射して輝く白髪と、マリンブルーの大きな瞳が良く映える。
杯祭星、またの名を群青のクレアシオン。 俺の先輩だ。 一応。
「勝手に決められたんですよ」
「そう? 意外と踊り難しいから気をつけてね。 私も1年の時は学年長だったから」
それを言うと祭星は他のリーダーに呼ばれる。
「秋蘭くんもおいで」
手招きをされ、祭星についていく。
班長の前に連れて行かれた。
女子の班長、福重柳美里。
男子の班長、坂本涼司。
どっちも優しそうだ。
「1年の学年長? よろしくね」
柳美里先輩はにっこりと笑って言う。 優しい笑顔が印象的だ。
「おっす! 頑張ろうぜ1年!」
涼司先輩から肩をバシバシ叩かれる。 声が大きい。
しかしそれ以上に大きいのは周りの雑談の声だ。 柳美里先輩は祭星に困ったように言う。
「ちょっと静かにしてほしいね」
「注意しようか?」
「本当?」
祭星はためていた息を吐く。 そしていっぱい空気を吸って

「うるさいよ! 班長の言うこと聞いて!」

叫んだ。
祭星からまさかこんな声が出るとは・・・・・・。
「さすが吹奏楽部副部長」
柳美里先輩はニコニコしながら言っている。
周りは一気に静かになり、班長の指示を待っている。
「おし、じゃあリーダーごとにわかれて練習しようぜ!」

練習。 という名の地獄だった。
体育館は暑く、蒸し風呂の様で汗が止まらない。 そして難しい踊りに多少イライラしている。
学年長という大役を無理やり任された俺はかなり要の踊りらしく、動きが難しい。
しかし班長達の踊りを見ているとそうも思えない。
あの2人の踊りときたら。
腰を低くし、左右違う動きをする手。
右手が上に行ったかと思えば、左手が下に。
見るだけで頭がこんがらがりそうだった。
祭星は体育館にいない。 3年の教室でパネルを1人で黙々と書き進めているらしい。 どうにも気に入った絵にならないらしい。
滴り落ちる汗を拭い、窓際に近づく。
開け放たれた鉄の扉からは涼しい風が入ってきている。 その風に乗って別の班の太鼓の音と吹奏楽が演奏している楽器の音が聴こえた。
綺麗な青空。 まだ緑色の楓の木が音を立てる。
「秋蘭くーん」
何時の間にか制服に着替えている祭星が体育館の玄関から俺を呼んでいた。
祭星は体育館を見渡して俺を見つけると、パァッと顔を明るくしてこっちに走ってくる。
「今から本部に行くんだけど、仄花ちゃんが秋蘭くんも連れてこいって! 一緒に行こう!」
「え、ちょ、本部って「柳美里ちゃん、ちょっと秋蘭くん連れて行くね!」
祭星はそういうと俺の手を引っ張って体育館から出た。
「なぁ! 本部ってなんだよ!」
「教団本部! 私達の教団を運営する人がいるとこだよ。 仄花ちゃんが教団を造った人だけど、運営してる人は他にいるの!」
リオンさんって言ってね
と彼女はニコニコして続ける。
「しっかり者のリオンさんとすっごく優しい愛華さん、いつもかっこいいコープスくんに、ちょっとクールなヴァーミリオンちゃんがいるんだよ!」
エレベーターに乗り、祭星は5階のボタンを押す。 そしてもう一度1階のボタンも押した。
すると液晶モニターには
5+1階
と表示され、動き出した。
「説明しておくね。 本部はここの上にあるの。 一般の人は絶対立ち入りできないの。 っていうか存在自体わかんないようになってるよ」
エレベーターが6階に到着するのは早かった。 扉が開いたその先に驚いたのは言うまでもない。
豪華なシャンデリア、赤い絨毯。 本棚に大きくて立派な書斎机。

「ようこそ、教団本部へ」

低い、それでも聞き取りやすい男性の声。
「祭星かい?」
そういいながら出てきたのは青く長い髪を三つ編みにした男性。
意志のある細い双眸が印象的だ。
外国人なのか、顔立ちがびっくりするほど綺麗だ。
「はいリオンさん! 秋蘭くん連れてきたんです!」
「そうか、ありがとう。 中に入っててくれ。 お茶も用意してある」
男性は祭星の頭を軽く叩くと微笑んだ。
「君が坂書秋蘭くん?」
「あ、はい」
「私の名前は坂夜見リオン。 奇遇だね、君の苗字と少し似ている」
リオンはそういうと俺を奥へ案内する。
「本部にきたらまずゆっくりお茶を飲むのが恒例だ。 それからは大事な話をしているがね」
金の装飾が入った白い扉を開くと、中には丸いテーブルの上に美味しそうなケーキやらクッキーやらマカロンやらが並んでいる。 そしてそれをぴょこぴょこ跳ねながら嬉しそうに眺める祭星と、座ってミルクティーを飲んでいる仄花がいた。
「うっわぁ!! 美味しそう! ねねっ、コープスくん! これ食べてもいいの?」
「はいッス!」
祭星に小さなタルトを渡したのは黄緑と赤色をした不思議な髪色の青年。
「おいひい! おいしいよコープスくん!」
「祭星にそう言ってもらえると、嬉しいッス」
コープスと呼ばれた青年はにっこり笑った。
「まぁとりあえず座ってくれ」
リオンからいわれたとおりイスに座ると仄花が肩を竦めた。
「あの2人、仲いいでしょ」
「そうですね」
「似たもの同士話し相手を選ばず ってね」
似たもの同士?
聞き返そうとした時、また扉が開いた。
「リオンさん、コーヒー淹れましたよ」
入ってきたのは茶色の髪をふんわりとカールさせた女性。 優雅なワンピースが良く似合っている。
「ありがとう愛華。 いただくよ」
リオンはコーヒーを受け取り、一口飲む。
カップをテーブルに置くと、女性をそっと抱きしめる。
「今日も綺麗だよ、愛華」
「やだ、みんないますよ? でも嬉しいわ」
なんなんだこの人達は・・・・・・。
「坂夜見愛華。 リオンの妻だ。かなり仲良い夫婦さ」
仄花はそういいながらクッキーを頬張る。
どうやら日常茶飯事らしい。
「ちょっとお父さん、お母さん。 そういうこと人前でするのやめてくれない?」
透き通るような声。
「はははっ、ごめんよヴァーミリオン。 そう怒らないでくれ」
お父さん、ということは
「坂夜見ヴァーミリオン。 リオンと愛華さんの子供。 ちなみに歳は私の一個上だ」
「え、一個上?」
ヴァーミリオンはこちらを見ると仄花に向かって控えめに微笑んだ。
白い肌、蒼色の長い髪に朱色の瞳が綺麗だ。
「全然そうは見えないですね」
「ヴァーミリオン、もっと大人に見えるでしょ?」
仄花はケーキを一口食べながら言う。
「はい、まぁ」
「身長のせいっていうのもあるね。 175cmらしいから。 羨ましい」
175cm!?
俺でさえ168cmなのに・・・・・・。
でかいな・・・・・・。
まてよ、ヴァーミリオンが仄花や祭星より歳上の19歳ならその親のリオンと愛華は一体いくつなんだ?
何時の間にかリオンは俺の横に来て、肩に手を置いて耳元で囁いた。
「レディの歳は追求しないのが紳士というものだよ」
「!?」
なんで。
口に出してもないのに、なぜわかった?
怪しく笑うリオン、その目は赤く爛々と光っていた。
魔法なんだろう。
「さて、後は利來がくるのを待つだけだ。 その前に祭星、君がこの前出会った男の話をしてくれ」
リオンは皆に聞こえるように言った。
その言葉に、祭星は手にしていたカップを置くと姿勢を正した。
「8月の中旬。 私は仄花ちゃんや利來くん、秋蘭くんと一緒にクラシックホームの下見に行ってたの。 そこで偶然悪魔に出くわして、1人で魔法を使ってみんなを逃がしてたの」
でも
と、祭星は息を一旦吐き出した後言葉を続けた。
「周りは誰もいないって思ってたの。 だから後ろなんて気にしてなかった。
現れたのは男でした。 確か赤いコートに帽子をかぶってて、でも顔は少し見えたの」
「どんな?」
「覚えてない・・・・・・。 でも俗に言う、なんだろ・・・・・・。 美青年なのかな。 私はそういうの興味ないんだけど。 そんな感じだった」
仄花は祭星に再度聞く。
「どの位の美青年?」
「利來くんくらい」
なんなんだお前たちは。
「あ、でも利來くんとはちょっと違う・・・・・・。 リオンさんみたいだった。 髪も長くて」
リオンは頷くと、椅子から立ち上がった。
「占ってみよう。 祭星、ちょっと待っててくれ」
そういうと彼は部屋の奥へ入っていった。 それを見計らってか、コープスが祭星に問いかける。
「祭星は、やっぱりかっこいい男の子がいいんッスか?」
「え? ううん、そういうわけじゃないよ。 だって彼氏なんて男に興味ないし」
痛いところを突かれたようで、コープスは少し悲しげに笑った。
「でもコープスくんは別!」
彼女はコープスの手を握ると笑顔で言う。
「私はコープスくんのこと大好きだからね! これからもずっと友達でいてね?」
「・・・・・・はいッス!」
恐ろしく祭星は鈍感らしい。
「自分じゃ駄目なんスか・・・・・・?」
コープスはそう呟く。 それを励ますかのようにヴァーミリオンは無表情で親指を立てた。
「これだよ」
部屋の奥から、小箱を持ってリオンは出てくる。 そしてその小箱を開けると、なにも置いていないテーブルにカードを並べた。
「このカードは?」
不思議そうに仄花が聞くと、リオンはカードの表を皆がわかるように見せる。
真っ白だ。 なにも書かれていない。
「占いの対象者の魔力に反応して文字や絵が浮かび上がるカード。 東洋の魔術師がよく使っていたものよ」
ヴァーミリオンはそういうと祭星に手招き。
「お父さんの正面に座って」
言われたとおりに祭星はリオンの正面に座った。
「祭星、君の異名は?」
「群青のクレアシオンです」
「年齢は」
「18歳」
「生年月日を」
「平成6年、6月30日」
「前世の名、そして職業は?」
「小八荼、詩人と武士でした」
簡単な質問をリオンは繰り返している。
その間にも手を動かし、カードを複雑な形に並べている。 質問に答える度にカードが一枚ずつ光っているのは絵や文が構築されているからだろうか。
「じゃあ最後の質問」
最後の一枚を真ん中に置くとリオンは赤い目をして言った。


「君が1番嫌いなものは?」


予想外の質問に周りは静まり返った。 祭星でさえ口を開いたまま動きを止めている。
「・・・・・・1番、嫌いなもの」
「そう。 今まで生きてきて辛いと思った事、怖かったり、信じられなかった事」
彼女はしばらく考えた後、確かにこう言った。

「・・・・・・1人でいること」

その言葉に反応し、最後のカードは他のカードより一層輝く。
「ありがとう。 これで彼が一体どういう人物なのか分かるはずだ」
リオンはまず、1番右にあったカードをめくった。
今のカードは全部で恐らく20枚。 裏返しに並べられていてダイヤの様な形だ。
めくったカードには絵などなにも描かれていない。 ただ、水色のような色が塗られているだけ。
「これは・・・・・・?」
「色だね。 この色合いは白群だ」
「白群? 水色っぽいのに白なのか?」
リオンに訊ねると彼は笑っていう。
「秋蘭くん、昔の日本というのは不思議でね。 白と書いても水色なんだよ」
仄花が少し笑っている。 俺はなにか悪いことでも聞いたのだろうか。
「この色、男の髪色と一緒です」
「なるほど。 それを指しているのかあるいは・・・・・・」
もう一枚、次は左側のカードをめくった。
「!?」
絵が描いてある。
薄い水色の美しい髪のドレスを着ている少女と剣を持ち、まるで少女を守るかの様に佇んでいる青年。
肌の部分は黒く塗りつぶされている。 ここはあえてこういうデザインなのだろう。
そして英語でこう書かれてあった。
『Guardian』
「ガーディアン、守護者か?」
仄花が呟くと、その横にいた愛華も頷く。
「すなわち騎士。 この少女を守る騎士なのでしょう」
リオンはなにも言わずに次のカードをめくっていく。
カードにはなにも書かれていない。
そのはずなのにリオンはフッと笑いを堪える。 そしてその横のカードを裏返して、一度目をぱちくりさせると、次は我慢できなくなったようで少しお腹を抱えて笑いはじめた。
確かに、しかし上品に笑うリオン。
カードを見ても、真っ白なままだ。
「あの・・・・・・リオンさん?」
「ふふふ、失礼。 どうにも笑いが堪えきれなくてね。 ふふふふ、あははははっ!」
戸惑う祭星。 リオンは目の端から流れる笑い涙を拭うと目の前の白い少女に言うわけでもなく、独り言を呟いた。
「これは傑作だ。 まさか彼はこんなに上手く自らを駒へと創り上げたのか・・・・・・。 素晴らしいよ、蓮」
小さな、声でそう言っている。
しかし誰も気づいていない。 気づいているのは俺だけだろうか?
見ればコープスが少し悲しそうな顔をして祭星を見ていた。
「次に行こう」
リオンは綺麗に仕切り直すと、3枚めくった。 すると祭星の顔の色が変わる。
「伏せてください・・・・・・。 見たくないです」
口元を抑えて言う祭星、リオンは小さく「あぁ」と同意するとその3枚を伏せた。
こちらからは何も見えなかった。
涙を堪え、真っ青な顔で口元を抑え続ける祭星に、コープスは声をかける。
「大丈夫ッスか?」
「うん・・・・・・ちょっと嫌なものだった」
「コープスくん、手握ってもいい? すごく寒いの」
「え? あ、はいッス」
祭星は差し出されたコープスの手をギュッと握った。
それに仄花は驚いたように目を見開く。
「祭星が男の手を握るなんてね」
「でもさっきもコープスの手、握ってたじゃないか」
「まぁ、そうだね」
祭星はため息を吐くと、少し控え目に笑うとコープスにいった。
「ごめんね、ありがとう」
「本当に大丈夫ッスか?」
「うん、もう平気だよ」
祭星はリオンに「進めてください」と言った。 リオンは頷くと、最後に真ん中のカードをめくった。
「これ・・・・・・」
祭星は輝くカードを見つめた。

「真っ黒ですよ?」

確かに真っ黒だった。 輝いているそのカードは黒く、絵も、文もなかった。
皆が目を丸くするその途中、リオンはカードをとると、祭星に渡した。
「持っておいたほうがいい。 君を守ってくれるはずだ」
そう言った。
しかし俺は聞き逃さなかった。

リオンが小さく呟いた言葉を。

『君が堕天するのにも、それは必要不可欠だから』

一体。
一体この男は何者なんだ。
運営だと祭星は言った。 しかしこの底知れぬ闇はなんだろう。
「・・・・・・」
無言でリオンを見た。 すると彼はそれに気付いたのか、こちらを振り返る。
「どうしたんだい? 秋蘭くん」
「っ!」
目が、目が赤く染まっている。
こいつ。
思わず一歩身を引いた。 仄花が俺の鳩尾を見えないように突いた。
『すこし待っておけ』
そう目が言っている。
リオンは祭星と向き合うと、微笑んだ。
「とりあえず、祭星の身はしばらく安全だよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
渡されたカードを祭星は大切そうに鞄に入れた。
「すまない、待たせた」
扉の音と一緒に会長の声がする。 ふと振り向けば制服を着た利來が立っていた。
「ちょうど終わったところだ。 さてそれじゃあ」
リオンは立ち上がると指をパチンと鳴らした。
「本題に入ろうか」


本題、というのは俺の武器のことだったらしい。
どうやらそれぞれが持っている武器は前世に関係するものであり、特殊な能力があるらしい。
「祭星の刀は雷と水を纏い、利來の大剣は闇の力を持つように、秋蘭くんにも自分に合った武器がある。 それを選ぶのが私だよ」
リオンは床に魔方陣を描きながら言った。
「秋蘭くんはまだ過去が分かってないようだからね。 武器だけを具現化させようとおもう」
出来上がった魔方陣、その真ん中にリオンは自分の剣を突き刺した。
「魔剣 レーヴァテイン、黒き煉獄の中から忘却の欠片を探し出せ」
黒く光だす魔方陣。 その光が何かの形を創り出す。
「これは・・・・・・銃?」
出来上がり、自分の手に銃が落ちてきた。 ずっしりと重みのある銃だった。
「秋蘭くんがそれを前世で使っていた、ってことになるよ」
「銃を使っていた・・・・・・?」
手にした重たい銃をまじまじと見つめる。
「よかったな仄花みたいに素手じゃなくて」
会長は苦笑いしながら言ってくる。 その横では仄花が腕を組んで仁王立ちだった。
「やっと素手仲間が増えると思ってたんだがな!」
「素手なんすか」
「魔術師だったから仄花ちゃんは素手なんだよ」
にっこり笑いながら那々星は仄花を指差した。
「わかるか? 魔力が有り余っているというのに素手でたたかうこの辛さ、歯痒いにもほどがある」
仄花の言葉にリオンは笑った。
「まぁ、それも仕方のない事。 じゃあ今日はここまでにしよう。 日曜日の体育祭、楽しみにしてるよ」






仄花達が帰ったあとの本部。
暗い部屋でリオンは誰かと話している。
「君は本当に彼女のために頑張っているようだね」
「・・・・・・」
「群青のクレアシオン。 杯祭星。 彼女の背負った過去はあまりにも残酷だ。 そんな彼女を支えるために生まれた、いわゆる君は騎士だ」
リオンはグラスに注がれた赤ワインを一口飲むと、目の前の彼に言った。
「しかし今は違う。 彼女は敵。 こちらに引きずり込むには一度堕天させなければならない。 そのための駒が君だよ。 蓮」
「・・・・・・はい」
灰色がかった水色の長髪、赤い双眸。
那々星を一度殺した、あの青年だ。
「君は本当にいい駒だ。 これからもよろしく頼むよ」
リオンは椅子から立ち上がって、部屋の中央に立っていた蓮の肩に手を置く。
そして耳元で囁いた。
「彼女はきっと、君のものになる」
それだけを言うとリオンは部屋から出て行った。 部屋に取り残された蓮はポケットから古びた写真を取り出す。
白く長い髪をした少女と
灰色がかった水色の短い髪の少年。
2人で手を繋いで、満面の笑みで写っている。
「祭星」
青年はポツリと呟く。
「もうすぐだ。 もうすぐで・・・・・・」
暗闇に青年の声が響いていた。







白いコートを翻しながら廊下を進む1人の男。
「源三郎」
男は声をかけられ、振り向いた。
「どうしましたか、クイーダ」
「リオンが動き出した」
「へぇ・・・・・・」
源三郎と呼ばれた男の目が見開いた。
そして腕時計を見ると言葉を続ける。
「行動が随分おそいですね」
「で、誰を阻止にいかせるんだ?」
源三郎は腕組みをしてうーん・・・と唸るとにっこりわらった。
「ここは彼に行ってもらいましょう。 研究中だといってしぶるかもしれませんが」

とある建物の地下室。
そこは地下の実験室だった。
実験室の中には1人の男がいた。 フラスコを持ち、試験管を睨みながらため息をつく。
「あのさ、後ろにいられたら研究しにくいんだけど」
「すまんな。 キミがこの話に乗ってくれるまで私はここから退こうとしない」
「だから、俺が行く事もないよ。 たかが坂夜見が動き出しただけじゃないか。 そもそも坂夜見の事はダイヤモンドに任せてるはず、ヴァチカンが動く事はない」
やれやれと源三郎は頭を抑えると、目を閉じた。
「この話で吊ろうとは思っていなかったのですが。 しかたがないですね」
フラスコを持った男、結城タクミは彼に振り向く。
「坂夜見リオンの今回の本当の狙いは杯祭星、つまり群青のクレアシオンです」
「・・・・・・」
「彼女があの世界を覚えていない事についてかなり動揺し、そして利用しようとしている。 あの世界での記憶がリオンに乱用されることはタクミ、キミ自身も良く思ってないはずです」
タクミはしばらく目を見開いて動かなかった。 それこそ呼吸すら忘れているのかと思うくらい。
「行ってくれますか?」
「・・・・・・ま、あのお子様が堕天するのを阻止しないとヴァチカンもやばいだろうね。 いいよ。 行ってやっても」
「ありがたい」
源三郎は実験室から出て行った。
「フィーダムデリアでの記憶がないとは驚きだったけど、それもお子様自身が望んだことなのかもしれないね。 フフッ、また研究対象が増えたよ」
タクミは怪しく笑った。





晴天の空。
涼しい秋風。
そして響き渡る応援の声。
「体育祭とか大っ嫌い!」
それに混じって祭星が叫んだ。
今日は西条学園の体育祭である。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ先輩」
地団駄を踏んでいる祭星を俺は止めた。
「祭星、そんなことやってたら恥をかくだけじゃない?」
その後ろから仄花と会長がやってくる。
「午前中の結果ではI班は3位だな」
「これは今回私たちS班が総合優勝はもらっていくわ」
「た、確かにI班は3位だけど! 応援では負けてないからね! そうだよね秋蘭くん!」
「え、はい」
「どうしたの上の空で?」
仄花は不思議そうに俺に聞いた。 確かにボーッとしていたのかもしれない。
「いや・・・・・・あの、なにか感じませんか」
「?」
「こう、重たい・・・・・・。 異様に空気が寒いというか」
青い空を見て3人に向かって呟いた。 祭星は心配したように言う。
「大丈夫? 学ランだから熱中症になっちゃった? 私先生からスポーツドリンクもらってくるね」
そういうと本部テントへと走っていった。 しかもチアガールの服装のままで。
まぁ、学校の生徒だから大丈夫だろう。
でも本当に空気が重く冷たい。
これは一度体験したことがある。 そうこれは・・・・・・。


保護者のテントの脇を走って本部席に急ぐ。 私も熱中症になったことあるから良くわかるけど、感覚とかなくなっちゃうからはやく秋蘭くんにスポーツドリンクを届けないと。
今は何時だろうと時計に目を向けた時。
「ひゃわっ!?」
誰かと思いっきりぶつかった。
「すっ、すみません!! 大丈夫ですか!?」
急いで謝ると、地面にたくさんの紙が落ちている。 ぶつかった時に落ちたのだろう。 なにやら大事な資料のような気もする。
「すみません、拾います!」
散らばった資料をしゃがみこんで集める。 結構な厚さになったそれを立ち上がって目の前の人に渡した。
「本当にごめんなさ・・・・・・」
びっくりした。
なににびっくりしたって、身長の高さと端整な顔立ち。 そして色の違う双眸。 黒い髪は毛先が少し赤くなってる。
白衣を着たその男の人は集めた資料を受け取ると
「別に気にしなくていいよ。 そこまで大切な資料じゃないからね」
と言った。
「そ、そうですか」
男の人はなにやら怪しく笑うと、人差し指を立てて自分の口に添えた。
『静かに』というジェスチャーポーズなのだろうか。
「なにがあっても問いかけには答えてはいけないよ。 ・・・・・・まぁ、答えたら俺が面白いだけだとは思うけど。 フフフ、じゃ、また今度会おうか」
男は踵を返す。 そして確かにこう言った。

「またね、お子様」

お、お子様・・・・・・?
「もう15歳なんだけどなぁ」
それにしてもあの人は誰だったんだろう。 気になって仕方が無い。
「っと! そんなことより秋蘭くんにスポーツドリンク!」
思い出したように手をたたいて本部席に向かう。
・・・・・・おかしい。
さっきより日が陰ってる。 今日は一日中天気のはず。 それにかなり寒い。
太陽を確認しようと上を見上げる。
「・・・・・・!」
青い空は無数の小型悪魔によって埋め尽くされていた。


No.009 ~侵略~

「秋蘭、お前かなり魔力が強くなったな」
「そうですか」
「そうだとおもう。 だって私は気づかなかった」
仄花は空を見上げてそう言った。
「これは近年稀に見る小型悪魔の大群だね」
「ここまで増えると厄介だな。 とりあえず祭星が一般人を眠らせないことには動けない」
「いや、その必要はない」
仄花は手を前に出すと呪文を唱えた。
小さくて聞こえなかったが、なにやら英語のようだ。
すると次の瞬間、ぐにゃりと空間が回り出す。
「なっ!?」
まるで空を落ちているかの様な感覚、わかりやすくいえばジェットコースターに乗った感じ。
そう、あの落ちる時に感じるあの感覚だ。
その感覚がやってきたあと、次は身体が浮かんだ気がした。 それはほんの一瞬だけで、気がついた頃にはグラウンドに立っていた。
周りにテントはなく、人は俺と仄花、利來そして祭星しかいない。
しかし空には小型悪魔の大群がしっかりとみてとれる。
「裏世界に移動完了だ。 ここなら現実世界に被害は及ばないし、一般人を巻き込むこともない。 現実世界の時間は止めておいた」
仄花は目を赤く光らせ言う。
「各自魔力の開放を許可する。 目標は小型悪魔の殲滅だ!」
「了解」
利來は短く返事をすると剣を創り出し一気に飛翔、空一面に群がる悪魔に向かって剣を振りかざした。
「なんか大変なことになっちゃったなー」
祭星もそう言うと刀を構え、下に降りてきた悪魔を次から次へと切り刻んでゆく。 仄花はあの時の様に黒いなにかを操り、一気に悪魔を蹴散らしている。
俺だって、戦う術がある。
銃を構え、トリガーを引いた。 薬莢のでる反動に後ずさりしたものの、悪魔の身体を完全に撃ち抜いた。
・・・・・・やれる、これなら!
目の前にうじゃうじゃといる小型悪魔に、銃口を向けた。




「一体何匹いるんだ・・・・・・」
利來はそう呟いて、汗を拭いた。
「本当に小型悪魔なのか・・・・・・? 一匹一匹が強すぎる」
切り傷から流れ出す血を恨めしく見て考える。
その時。
下から何かが崩れる音がした。 下をみれば、校舎が破壊されている。
「まさかっ!」
下に急いで落下し、地面に足が付くと同時に校舎へと走りだす。
破壊された校舎の壁、その瓦礫と一緒に倒れている祭星を見つけた。
「おい! 大丈夫か!?」
「り、利來くん・・・・・・」
彼女の上半身をなんとか起こし、何があったのか訊ねる。
「小型悪魔とは思えないくらい、強いの・・・・・・。 上級悪魔にしか使えない、魔法も使ってきて」
「それでおされたのか」
「ごめん、でももう大丈夫。 だってほら」
祭星は刀をとる。

「あなたを刺すくらいの力は残ってるから」

そう言って、利來の心臓に刀を突き刺した。
「なっ・・・・・・」
崩れゆく意識の中、もう一度祭星を見ると、それは別人だということがわかった。
黄色いツインテールに赤い目。
「ごめんなさい・・・・・・。 仕方ないの」
祭星に化けていた少女は確かにそういった。





No.010 ~英雄~


ここは一体どこだろう。
揺蕩う身体、そして映し出されるどこかの風景。
『ジークフリート』
映し出されていた風景が動き出した。 その風景をよく見る為にまるで無重力になったかのような空間で身体を起こした。
映画のように映し出されるそれに、利來は見入った。
『ジークフリート、もうすぐだな』
髪の短い女性が男に言った。
男はため息をつく。
『ヴァルキリー、俺は一体なにをどうしていいのかわからない』
ヴァルキリーと呼ばれた女は なぜだ と問いかけた。 ジークフリートは自分の手を見ると、呟く。
『ファブニールを退治した時から俺は確かに不死身だ。 でも、それだけで戦っていけるわけないじゃないか。 俺は怖いんだ、自分が。 いつも1人で、息をするだけの自分が』
『ジークフリート』
ヴァルキリーはジークフリートの手を握った。
『私はあなたの希望、光よ。大丈夫、あなたはきっと大丈夫よ。 それに1人じゃない。 私はずっとあなたの隣にいる』
ジークフリートは静かに目を閉じると頷いた。
場面は移り変わった。 どこかの部屋だ。
そして鮮血が壁を彩っている。
ジークフリートは背中から槍で殺されていた。
『ヴァルキリー・・・・・・』
彼は転がっている自分の剣を掴むと、苦しみながら言った。
『どうか、どうかお前だけは・・・・・・』

ジークフリート 享年???

まるで10クールくらい飛ばされたのかとおもうくらい話は早く進んで終わった。
拍子抜けなところもあったが、利來は胸を満たすこの孤独感をなぜか愛おしく思った。
自分は、きっとジークフリートの生まれ変わりなのだろう。
「だとしたら」
利來はまっすぐ、倒れているジークフリートに向かって言った。

「俺はまた、1人だ」



No.011 ~過去を背負う剣士~

「・・・・・・くん、利來くん! しっかりして!」
「うっ・・・・・・」
身体を揺さぶられて利來は目を覚ました。 祭星が安堵の表情で「よかった」と呟いた。
「倒れてたから、びっくりしたの。 大丈夫?」
「あぁ。 それで状況は」
「ダイヤモンドがなんとかして食い止めてる。 でも秋蘭くんも正直今は戦力にならない」
利來は立ち上がる。
「傷、治してくれたのか。 礼をいう」
「えへへ」
そして剣を握ると、魔力を剣に集中させる。
『ジークフリート、確かに俺は1人なのかもしれない。 力もなくて、役立たずなのかもしれない。 でも』
脳裏に同じ生徒会のメンバーや同級生、家族、そして教団のメンバーの顔が浮かぶ。
「支えてくれる仲間がいる、だから頑張れるんだ!」
剣を纏う黒の魔力、利來は空に向かって剣を振りかざした。
真っ黒な魔力に埋め尽くされた空、その魔力が消え去ると小型悪魔は殲滅していた。




「総合優勝、S班!」
アナウンスの言葉にS班の生徒は抱き合って喜んだ。
中には抱き合ったり、泣いたりしている生徒もいる。
「りくぅぅぅ!!」
副班長の裕二が利來を生徒の中に連れ込み、胴上げし始める。
「お前が班長だから優勝できた! 本当にありがとな!」
涙を流しながら笑っている裕二。 利來からはその顔は見えない。 だが、利來は胴上げされながら、にっこり笑って答えた。
「・・・・・・あぁ!」

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