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楽園の冠
自創作品「アルトストーリア」を主軸とした創作小説・漫画を載せて行きます。
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「ごめんなさい」と言いたくて
出演
土師守 兎盧
ロビンさん(右津田さん)

脇役
ロワナ・ヴァルシス
アレス・フォルックス・リラ





今度の『げーむ』は地下であると聞きました。
私はご飯を作るだけなので、いかなくてもいいと思ってました。 でもこの『げーむ』が終わればもう『ぎるど』のみんなとは遊べなくなるそうです。
私は地下に行く準備をしています。
でも持って行く物はランタンだけです。
命を焔を、赤々と燃え盛る火を司る運命。
私は年齢を操れます。
老いを重ねることも、若くなることもできます。
それが私の異能です。
でもどうやら、私の異能は嫌われているようです。
ーーーーーーー特に、お母さんからは。




久しぶりに外に出て、背伸びをした。
新鮮な空気とは言えないけど、そこそこ良いと思う。
今の私は21歳。
人生の中で1番脚力も腕力も強い時期だ。
「ゲーム参加は初めてなんだけどね。 最後くらい、返したくなくてもギルドには恩を返さないとね」
ランタンを持って、ビルの階段を降りる。
中に入ったら、運営が待ち構えていた。
綺麗な山吹色の髪をした女の人。
大胆にスリットの開いたチャイナドレスをきていた。
「あなたは向こうの部屋に入って」
「向こう・・・・・・?」
「おいおい、ロワナ。 もうちょっとマシな言い方しろよ・・・・・・。 すまない、端から3番目の部屋だ」
その隣にいた赤茶色の髪の青年が訂正してくれた。
「ちなみに中には3日分の水と食料が入ってるから」
「3日も戦うわけないですよ」
そういうと青年は笑って
「意外と君みたいな子が長引くんだよ」
そう告げられ、素直にその部屋へと入った。
中は殺伐としたコンクリートの部屋。
小さくも大きくもない。 普通の部屋。
一体何をすればいいのだろうと思っていた時。
周りの景色がかすみ、ある風景が浮かび上がる。
「あ、あぁ・・・・・・!」
冷や汗が噴き出る、呼吸が苦しい。
よく見慣れていたリビング。 大きなピアノに西洋調のテーブル。
そしてそこに静かに立っている女。
その表情は決して笑っていない。 何かに対して冷めているような、憤っているような表情。
そして特徴的な髪の色。 黒い髪だった。
「い、い・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっっっっっ!!!!!!!」
全身がガクガクと震える。 吐き気が止まらない。
恐ろしくなるほど涙がこぼれてくる。
目の前にいる女が怖くて怖くて、ただその姿を見たくなかった。
女が一歩、こちらに近づく。
それに過激に反応し、私も一歩下がった。
すると女が一言。
「母親を避けるとは、娘のやることではない!」
そう言うと早足で近づき、手を大きく振りかぶりそして

頬を思い切り殴られた。

そのまま殴られた衝撃で倒れ、床に頭を打ち付けた。
脳震盪を起こすのではないかと思うほどの痛み。
「まったくお前は、何度言えばわかる!?」
起き上がろうとすると腹を蹴られた。
「かはっ・・・・・・」
「この役立たず! ノロマ! 出来損ない! 親不孝!」
幾度も幾度も蹴られ、呼吸することも困難。
「ごめっ・・・・・・ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「何回お前のごめんなさいを聞いたと思ってる!!」
「すみません、もうしません許してください!」
「黙れ! 家畜はさっさと死ね!!」
前髪を掴まれ、頭を壁に打ち付けられる。
「うっ・・・・・ぐぁっ」
そのまま投げ捨てられ、次は左肘から地面に倒れてしまい、激痛が身体中を走った。
そして不気味な骨の砕ける音。
「あっ・・・・・・っぁ・・・・・・!」
痛い。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「なんだいその目は! 気に入らないね!」
また腹を蹴られる。
「うっ!」
涙で濡れた床。 その涙に吐き出した血が混じった。
「汚い汚い。 まるでボロ雑巾だな」
目の前の女は。 私の母親はそうあざ笑った。

私は前からそうだ。
ずっと前から虐待されていた。
子供の時からずっと。
何度ごめんなさいと呟いただろう。
何度もうしませんと泣き喚いただろう。
何度腹を蹴られただろう殴られただろう。
大嫌いだった。
家が部屋がこの母親が。
逃げ出したかった。 全てから。 こんな人生、いらないと嘆いた。 呪った。 世界を。 昨日を、未来を、今日を。
幸せという意味がわからなかった。 この生活が幸せではないと知りたくなかった。
知ってしまったら私の中の全てが壊れそうだっから。
手加減など一切ない暴力。 蔑んだ目。
知らずと周りに虐待の事が広まっていて、外に出た時言われた。

『かわいそうに・・・・・・』
『そうだ、いくらうさぎの異人だって言っても加減がある』
『早くあの家から逃げるのよ』

逃げる。
それは不可能ではないと知っていた。
でももしも自分が逃げて、母の怒りの行きどころがなくなったら?
それこそ父親になるだろう。
それが許せなかった。 父はいつも私の味方で、父がいてくれたからこそ今の私がいると言ってもいいだろう。
逃げたい。 でも逃げられない。
そんな日々が続いたある日。

父が死んだ。

突然だった。
その日を境に母の暴力は増していった。 増える痣、痩せ細っていく体。
それを見兼ねた近所の人たちは母を呼び出し、家を留守にさせた隙に私を連れ出し自由にしてくれた。
何日かは近所の家を行ったり来たりしてリハビリも兼ねて心の傷を癒してくれた。
あの優しさを私はまだ忘れない。
でもそれが母に見つかってしまった。
怒り狂った母は、近所の人達に向けて包丁を振りかざし、暴れまわった。
仲の良かったお兄さんは私を連れ出してシエル・ロアに通じる抜け道を教えてくれた。 そして確かにこう言った。

『自分の足でシエル・ロアにいくんだ』

シエル・ロアは豊かな国だったから、この村よりかは安全だとそう言ってくれた。
その時の私はまだ5歳。 当然お小遣いも持っていなかった。
そして服もろくに持っていない。
でもお兄さんは私に自分の全てのお小遣いを、そして新しく買ってくれた服と靴と帽子とバッグを地図と一緒に渡した。

『大丈夫、僕たちの事は気にしないで。 とろちゃんはシエル・ロアに行って幸せに暮らすんだ。 さぁ早く!』

そういって背中を叩いてくれたお兄さん。
懐かしいなぁ・・・・・・。 今お兄さんはなにをしてるんだろう。
虐待されていたそんな過去の中で私は少しづつだけど成長できたのかな。
ギュッとランタンを握り締める。


あざ笑う母をキッと睨んだ。
母の笑い声が止まる。
「なんだいその反抗的な目は!」
振りかざしたその手を焔の燃え上がるランタンで殴った。
ジュ・・・・・・と皮膚が爛れる音が聞こえる。
「き、きさま、小賢しい真似を「私は貴様っていう名前じゃない!!」
母の声を無視して叫ぶ。
「あなたが母親になって私は一度も名前で呼ばれた事がない、なぜ? それはあなたが私の名前を知らないからよ! 子供の名前も知らない奴が母親なんて呼ばれる権利ない!!」
一歩退く母。
「知らないとでも思ってた? あなたは私の本当の母親じゃないって事を!!」
感情に合わせて焔がユラユラ燃え上がる。
「知ってたよ、私の本当のお母さんはあなたに殺されたんだよね。 あなたは私の死んだお父さんが大好きだった。 でもお父さんはもう本当のお母さんと結婚してた。 だからあなたはお父さんとの結婚のしたさにお母さんを殺したんだ!! その手で! そしてお母さんの子供だった私が憎くて憎くて堪らなくて虐待してたんだよね。 知らないとでも思った? それは子供を舐めてる証拠だね。 親のする事じゃない!! あぁごめん、親じゃなかったね」
にやりと笑って目の前の女にいう。

「ごめんね、今まで・・・・・・『お母さん』なんて呼んで!!」

それと同時に女の顔をランタンで殴りつけた。
女は悲鳴をあげながら霧となって消えて行った。
終わった・・・・・・。
終わったんだ。



ドアを開けると光が眩しく感じた。
「お疲れ様でした」
最初の山吹色の髪の人から言われて左腕を見せる。
するとその人は慌てた様子で私を医務室に進めた。
止血され、包帯を巻かれ、その他の傷も丁寧に包帯を巻かれた。
それが終わってもう一度玄関に戻る。
そしてまた女の人に話しかける。
「私、どれくらい中にいたんですか?」
女の人は時計を見ると肩を竦め言った。
「あなたが来たのは午後2時だったわ。 今は午後8時」
「じゃあ「2日後の午後8時よ」
その場で立ち尽くす。
「だから54時間ね。 とりあえず2日かかったわ」
54時間・・・・・・。
「困ったものだわ。 その間ずっとまっておいたんだから。 アレスは帰っちゃったし」
「アレスってあの男の人の名前ですか?」
「そうよ。 私はロワナ。 たぶん『混沌の支配者』と言ったらわかるかしら」
混沌の支配者・・・・・・!
よく知れた名前だ。 運営監査班にいたはず。
「じゃあお疲れ様。 ええと・・・・・・「兎盧です。 土師守兎盧」
名前を言うとロワナは和やかに笑ってまた言ってくれた。
「お疲れ様、兎盧」


帰り道。
暗い夜道を歩いてると声がした。
「お嬢!」
同居人のロビンだった。
急いで異能を解いて11歳に戻る。


「ロビンさん!」
前から走って来たロビンさんに思いっきり抱きつきました。
ロビンさんはギュッと抱き返してくれました。
「心配したんですよ、お嬢! もう2日も帰ってこないから心配で心配で」
「ごめんなさい! でも大丈夫、怪我もちゃんと運営? の人から手当てしてもらったから、ほら!」
左腕をロビンさんに見せるとまたギュッと抱いてくれました。
帰ってる途中にロビンさんに聞きました。
「ロビンさん、ロビンさんは私が昔虐待されてたって知ったらどうする? それでも私のそばにいてくれる?」
するとロビンさんは私の頭を撫でながら言いました。
「俺はなにがあってもお嬢の隣にいますよ。 だから心配しなくてもいいっすよ!」
その言葉はとても、嬉しかったです。


END
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O-GASUTO
No.001
O-GASUTO

はじまりはいつも歌姫から



歌が。
歌が聞こえる。
風に乗って 子守唄の様に。
微かに、優しく、響く。
歌は伝える。
この世界は、もう終わりだと。 終わるんだ。全てが。
草も花も森も動物も川も山も。
全てが支配されてしまう。 自由のない光のない。
真っ暗闇の哀しい世界になる。
歌は、調は 彼の耳に届いた。 1人の魔王の元に。
「終わりか。 もう終るのか。 長く続いた人間界が」
もう何十年、何百年眠り続けただろう。
寝ていた魔王は目を覚ました。
細く 赤紫に光る双眸を瞬かせ、魔王は続ける。
「何百年寝たのか、覚えもしない。 闇に閉ざされたここでは時が分からないな」
魔王は自分の手を見つめ、つぶやく。
「さぁ、早く俺を呼び出せ、約束の時だ。 お前にはわかるだろう? 奏魔。否、お前にしか分からないだろう?この地の叫びが」
魔王は立ち上がり、長年抑えていた魔力を開放した。
あっという間に周りは魔王の持つ蒼い魔力に染め上げられる。
「歌姫は歌う。 謳歌を。 名を呼べ、奏魔。 俺の名を呼べ。 雷の魔王 雷魔 の本当の名を」
魔王はそう言うなり、不敵に微笑った。


人間界と魔界。 2つの世界で成り立つ。
人間界は弱い。 人間は弱い。
どんな兵器を生み出そうとも、どんなに強くなろうが、悪魔には勝てない。
それが運命だからだ。
運命に抗う事が出来るのは 神のみ。 人間は神ではない。ましてや、この世界を支配しているわけでもない。人間界の90%は悪魔に支配されている。
しかし。 そんな神が人間に与えた最後の手段。
魔王の堕とし子だ。
たった2人の堕とし子で世界は変わるのだ。
1人は 命を操り。1人は 魔王を操る。
そんな魔王を操る力を隠し持っている女子高生、篠栗奏魔は何かを感じとった。
「・・・・・・なに?」
後ろを振り向いても誰もいない。
彼女は首をひねり、前を向いた。
「最近なんだか寒気がするわ。 世界の90%が支配されているなんて。 私に出来る事はないのかしら。 あそこに入ったはいいけど、なにをしてればいいのかさっぱり。 私には魔力なんてないのに」
歩きながらつぶやく奏魔。
鞄を振り回しながら憂鬱そうにまた言う。
「あぁー。 なんかいい出会いってないのかしら。 でも、まぁ、確かに暗那の言うとおり、O-GASUTOの折原玲音はかっこよかったわよ」
「また言う。 正直に認めなさいよ。 玲音の事好きって」
隣にいた 小柄な赤髪の少女、赤嶺暗那は笑ながらそう言った。 刀を携えるその姿は普通の女子高生とは違う雰囲気だった。
「ち、違うわよっ!!別に折原くんが好きなわけじゃないわよ!!私が好きなのは、玲音の方だから・・・・・・」
少女は顔を赤くし言った。
そんな奏魔に暗那は笑いながら 指先で脇腹を突つく。
「折原玲音。 学校とO-GASUTOでは性格が全く違う。 それは彼の癖でしょう、学校では期待されすぎている・・・・・・。 学年トップの成績に弓道部のエース。 それに女子にモテるときた」
「O-GASUTOの玲音は性格に違いがありすぎるのよ」
折原玲音。彼もO-GASUTOの一員として活動している。
彼は小さな頃に親を殺されている。
それ以来、双子である折原夜一にしか心を完全に開かなかった。 そんな彼は自分を偽った。 学校では必死に笑顔を作っている。
それはもう1人になりたくはないから。
閉ざした心を開けようと努力し、玲音がたどり着いた1人にならない手段。
本当の自分じゃなくてもいい、心の底から笑えなくても、道化師だと言われてもいい。
偽りを作った。
のちに弓道部のエースだのトップクラスの成績だの言われ、本当の自分を学校では出せなくなった。
「皮肉なもんだよな。 心の拠り所もないまま もうすぐで世界が終わるんだぜ」
「っ!!玲音!?」
奏魔達の頭上。
大きな木の枝に彼は立っていた。
「重圧に人は耐えられないさ。 どうせ皆俺の様に偽りの顔を作る事になる。お前らだってそうさ、きっといずれは本性出せずに死んでいくんだろう?」
玲音は音も無く飛び降り 奏魔と暗那の前に着地した。
白銀の長髪に灰色の双眸。 整った顔立ちで女性が見たら直ぐに恋に落ちるであろう。
「口の聞き方が悪いわね、玲音」
暗那が鞄を肩に担ぎ一言。
「お前の事だ。 暗那」
「なんの事かしら?」
誤魔化す暗那の目の前に肩に担いであった弓矢を一本取りそれを突き出す玲音。
そして 低い声音で言う。

「ばればれなんだよ。 敵対心が見えまくりだ」

吹き抜ける風。
暗那は目を細めながら、奏魔はパチクリと瞬きをし、玲音は弓矢を下に降ろした。
しばしの沈黙。
「玲音?何言ってるの」
と奏魔が沈黙を破った。
そんな奏魔に玲音がこいこいと手招き。
奏魔は言われるがまま 玲音の隣に。
玲音は奏魔の脇腹をガシッと掴んだ。
「ひょわぁぁぁっ!?!?」
驚く奏魔を余所に玲音が手を開く。
「こんなもの奏魔に付けて何をする気だ?」
手には一行の呪詛があった。
紫色に光るそれを暗那は訝しげにみていた。
「お前だろう。 つけたのは」
「・・・・・・知らないわ。 私じゃない」
「シラを切る気か? いつまでそれが保つのか、楽しみだな」
玲音は不敵に笑った。
そんな2人をただ見ていた奏魔は耐えきれず口を挟む。
「ちょっとちょっと! 暗那がそんなことするわけないじゃない! 玲音だって疑いすぎだよ!」
「お人好しもいいとこだな、奏魔。 さっきまでの暗那の行動を思い出してみろ」
そういわれ、奏魔は今までの暗那を思い出す。
ただ一緒に下校していただけ。 別になにもおかしいことなど・・・・・・。
いや、ひとつ。 ひとつ思い当たることがあった。

"そんな奏魔に暗那は笑いながら 指先で脇腹を突つく"

「あ・・・・・・」
あの時。 あの時に呪詛を付けられた?
「どうやら心当たりがあったようだな」
「で、でも・・・・・・」
暗那と玲音を交互に見やる奏魔。
暗那は俯いて手を握り締めていた。 肩が少し震えているようにも見える。
そんな彼女を見て奏魔は頭の中がごちゃごちゃになっていく。
「暗那は・・・・・・暗那は本当に私に呪詛を付けたの?」
震える声で奏魔が聞くと、暗那は頷かなかった。
「私を殺したかった・・・・・・とかじゃ、ないんだよね」
それも答えない。
「じゃあ、やっぱり本当に。 れ、玲音の言うように呪詛を「うるさいっ!」
問いただしていた奏魔の声を暗那が遮った。
今までの優しい声とは全く違う声に奏魔は恐怖を覚えた。
「さっきから聞いてれば、殺したかった? 当たり前じゃない、殺さなかったらなんでこんなことするの?」
「暗那・・・・・・」
「黙れ! お前の声なんか聞きたくない! 邪魔なんだ! 媚びへつらって私の気持ちも知らずによく笑えるな!」
目の色が変わった彼女を見て、奏魔は頭の中が真っ白になった。
今まで仲のよかった親友。 たった1人の親友だった。
小さい頃からずっと遊んでいて、なにからなにまで一緒だった暗那が今、自分を殺そうとしている。
「お前なんかおまえなんかオマエナンカ・・・・・・」
凄まじい形相で暗那が刀を振りかざす。
それに反応しない奏魔。
刀が奏魔の首筋に迫ったその時。
「悪魔堕ちに殺られる気か?」
玲音が自らの手で食い止める。
カタカタと手の震えに合わせて金属音が鳴り響く。
食い込んだ刃。 手のひらからおびただしいほどの血が流れ出した。
「れ、玲音・・・・・・」
「はやっ、早く、逃げるぞ!」
玲音は強引に奏魔の手を引き、自分の反対の手に食い込んだ刃を痛みに耐え、抜き取った。
顔を顰めながらも、その地を蹴る。
まるで風の如く走る玲音に奏魔は必死になってついていく。
どこかで雷が鳴った。 稲光が轟き空気が震える。
「っ! 玲音! 追いかけてくるよ!」
「こいつ!」
後ろからは暗那が迫るように走ってきて、もうすぐで追いつかれそうだった。
雨が降り出す。 ものすごい量の雨だ。
びしょ濡れになりながら2人は街を駆け抜けた。 幸い人はいない。
水たまりを越えずに走る。 跳ね返った泥水が足にかかるのも気にしなかった。
「これでも、食らえ!」
玲音は矢をつがえ、洋弓を引いた。
甲高い音を立て、弓は飛んでゆき暗那の心臓に突き刺さった。
倒れる暗那。 それをはっきりと見た奏魔はその場に膝から崩れ落ちる。
「あぁ・・・・・・」
「しっかりしろ。 まずは避難が先だ」
奏魔を立たせ、玲音が言う。
「俺の家に来い」



「ふぅん。 それで奏魔くんを連れてきたんだね?」
「ああ。 そう言うことだ。 だがな兄貴、俺はいつ火雅梨を呼び出せと言った?」
「ずいぶんな言い草だな。 きちゃ悪いのか」
広いリビングに3人の話し声が響く。
「そういうわけじゃない」
玲音は兄を睨みながら言った。
玲音の双子の兄、折原夜一。 兄も弓の隠れ名人で成績優秀、優男として有名だ。
「いや、僕は火雅梨くんも呼んだほうが彼女にとっても楽になるだろうと思ってね」
バスルームに繋がる廊下を見つめながら夜一はつぶやく。
家に着いて早々泣きながら震え出した奏魔に玲音が風呂を進めたのだ。
「そういうことだけは気が利くな」
うんざりとため息を吐きながら赤い髪をツインテールにした火雅梨は言った。
顔は普通だ。 すごく可愛くもなく、不細工でもない。しかし意思の強そうな双眸だけは人目を惹いた。
「俺らの関係にも気が利くと嬉しいんだがな」
チラッと火雅梨を横目に見る玲音。 火雅梨もそれに気づいたようで嫌な顔をする。
「お熱いねぇ・・・・・・」
玲音と火雅梨最悪の仲間である。
猿と蟹位の仲の悪さだ。
「じゃあ僕は席を外したほうが「おい。 殺すぞ」
「玲音に同意見だ」
「・・・・・・はいはい」
夜一は苦笑し立ち上がった。
「なにをするんだ?」
「あったかい飲み物でも奏魔くんにあげようと思って。 きっと彼女の心の傷は僕たちに計り知れないだろうから」
そういう面は夜一が気遣ってくれる。
だから玲音は奏魔を連れてきた。
メンタルの問題は自分が1番向いているだろう。 叱咤激励はお手の物、更にはカウンセラーの卵だから。
夜一は優男ならではの心遣いが強い。 器用だからその辺は大丈夫だろう。
そんな優男ならではのもっともの気遣いが『幻技師火雅梨を呼ぶ』ということだったのだ。
火雅梨と奏魔は団体内でもクラスでもかなり目立つコンビだ。 仲も良い。
実はコンビというわけでもなく、単に火雅梨が奏魔を守っているという意味でもある。
学年内でも1位2位を争う美人。 当然男が群がる。
奏魔も柔道黒帯の持ち主だが心優しい彼女が同級生を背負い投げできるわけもなく、火雅梨が守っているわけだ。
「お風呂上がりました・・・・・・」
か細い声。 部屋に入ってきたのは奏魔だった。
「ごめんね。 お風呂まで借りた上に洋服も」
「いや、あれだけずぶ濡れだったんだ。 風邪を引いていないだけ良い」
奏魔が今着ている服は玲音の服だった。
黒いジャージという質素な物だったが、身長の違いで彼女の体にはあっていない。
「すごい、ブカブカね奏魔」
「私は火雅梨と違って小さいんだもん! 火雅梨が大きすぎるだけだよ!」
「いや、玲音が大きいだけだよ。 大丈夫さ奏魔くん」
台所から出てきたのはマグカップを手にした夜一。
そのマグカップを奏魔に渡し、ソファに座った。
「すこし気持ちを落ち着かせないと。 ゆっくり飲んでいいよ」
「ありがとう」
しかし奏魔は飲もうともしない。 ただ湯気を見つめている。
不思議に思った玲音が尋ねる。
「どうした? 気分でも悪いのか。 やっぱり風邪を引いてしまったか」
「あ、全然平気。 でも最近、どうも食欲がなくて・・・・・・」
「食欲? なんで」
火雅梨が聞くと奏魔は困ったような顔をして話す。
「変な夢を見るんだ」
「夢?」
「うん。 真っ暗な部屋に立ってて、誰かを呼んでるの。 私は何回も呼ぶんだけどその人は現れない。 そして名前も覚えてないんだ。 そのうち自分まで真っ暗になって、消えていくの」
言い終わると奏魔はマグカップを置き自分の腕を締め付けるように握る。
「なんでだろう。 その人はすごく私にとって大切な人だと思うんだ。 一回どこかで会ったことあるかもしれない・・・・・・。 それがどこかなんてわかんないけど。 怖いんだ、もしもその夢を見なくなったら、自分が1人になってしまいそうで」
小さく震えるその肩を夜一は抱く。
「大丈夫だよ奏魔くん。 君は1人じゃない。 火雅梨くんだって玲音だって僕だって団体のみんなだって味方だから」
そう言う夜一に奏魔が頷こうとした時。
奏魔は夜一を反射的に突き放した。
柔道黒帯の彼女の力は強く、夜一はそのままソファから落ちる。
しかし、結果的にはそっちの方がよかった。
ちょうど廊下から何かが飛び込んできて今まで2人がいたところに剣が刺さったからだ。
「なっ・・・・・・」
「暗那だ!」
玲音が警告すると確かにその何かの姿は暗那だった。
高校の制服に刀という異色な格好。
そしてその目。
今の暗那の目は獲物を見つけた野生動物のように爛々と耀いていた。
「完全に悪魔堕ちしているな」
「そのようだね。 玲音、まずは外に出よう」
夜一の提案に玲音は頷くと後ろにいた2人に目で合図。
女子2人は頷き合ってそれぞれ自分の武器を構える。
夜一は和弓、玲音は洋弓。
火雅梨は剣、奏魔が銃だった。
「行くぞ」
玲音が言い、走り出したと同時に奏魔が発砲。
その音を合図に夜一も火雅梨も玄関へと向かう。
相手が振り返る暇すらも与えずまたトリガーを引く奏魔。
空砲が鳴り響く。
「私は許さないよ。 暗那が悪魔堕ちするなんて許さない」
狙いを定め、もう片方の銃のトリガーを静かに引いた。
耳を劈くような発砲音、勢いよく飛び出した弾が薬莢と筒に分かれ暗那に貫通。
「そろそろかな、玲音!」
奏魔が彼の名を呼ぶ。
「まかせろ!」
すると奏魔の真後ろにあった大きな窓が開き玲音がひょこりと身を乗り出す。
「こいよ、お前の相手はこの俺だ!」
そう言った瞬間、暗那は窓に向かって突進。 外に出た。
それを見た玲音は口の端を吊り上げ、矢をつがえる。
「仲間と言えども、悪魔は悪魔だ。 殺るぞ」
ハスキーな声を背中で聞いて、奏魔は頷いた。
そして自分も玄関へと走り、靴を履く。
ドアを開けた時にはまだ雨が降っていて、視界が悪かった。 しかし愚痴を零すわけにもいかない、雨の中に身を放り投げ暗那に狙いを定める。
寒さで手が震える。 標準がズレる。
それでも彼女は狙いが定まったその時を見逃さなかった。
一瞬で引いたトリガー、薬莢が飛んでゆき暗那の腕を掠めた。
「ちょこまかと・・・・・・」
「まかせて!」
火雅梨は猫のようにジャンプすると剣を振り上げる。
「燃え咲かれ、一輪の花。 紅く光るはその花弁。 燃え散れ 彼岸花!」
炎を纏う剣。 さらには火雅梨の体も炎を纏っている。
炎の剣が暗那を切り裂く。
暗那は崩れ落ち、動かなくなった。
「とりあえず、悪魔は祓えたかな」
火雅梨の声を聞いて、奏魔が暗那に近づき立ち止まったその時。

暗那が突然目を開け、奏魔に刀を突き立てた。

「っ・・・・・・!?」
反応できず、目を見開く奏魔。 恐怖で体が固まった。
誰もが援護も間に合わない。 そう思った時。
「危ない!」
玲音が奏魔の前に躍り出た。
腹部に突き刺さる刀、倒れる玲音。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっ!」
奏魔の悲鳴がこだまする。
「こいつ!」
夜一が弓を引くと暗那はそちらに向き合い突進。 その隙に奏魔は玲音を抱きかかえる。
「れ、れおん! 玲音! 大丈夫!?」
彼女の声に玲音は少しだけ目を開ける。
「玲音・・・・・・! だめだよ、死んじゃったらだめだよ!」
「何を言う、俺が・・・・・・死んでも、悲しむやつらなんて「私が悲しむんだよ!」
雨音をもかき消す奏魔の叫び声。
それに玲音は目を見開いたが、クスッとはにかむ。
「本当に、優しいんだな」
「優しくなんかないよ。 本当に思った。 だって夜一も火雅梨も団長も玲音がいないとだめなんだよ」
「なるほど・・・・・・そうか。 これが仲間か」
「うん」
「体が勝手に動いた。 お前だけは守らなければならないと思っていた」
「もういいよ玲音、それ以上無理しちゃだめ!」
奏魔の言葉に玲音は力なく頷くと目を閉じた。
彼を抱えて屋根のあるところに寝かせると奏魔は後ろを振り向く。
火雅梨も夜一もそろそろ限界だ。
「私が・・・・・・私がやらなきゃ!」
銃を捨て、暗那と夜一が対峙する後ろに飛び出る。
「奏魔くん、銃がないのにどうやって・・・・・・うわっ!」
下から振り上げられた刀を間一髪で躱す夜一。 玲音と同じ白銀の髪が少し切れた。
「ちょ、どうしてくれるんだよ! 昨日前髪切ってもらったばっかりだぞ!?」
夜一がそう愚痴りながら和弓で暗那を殴る。
「悪魔堕ちでも暗那を殴りたくないな・・・・・・」
歯ぎしりしながら夜一は言った。
そんな暗那は奏魔に気づいたのか、獲物を奏魔へと切り替え襲いかかる。
「やばい、奏魔くん!」
「奏魔逃げて!」
2人が叫ぶ。
しかしそんな叫び声を制したのは静かな力ある言葉だった。

詠 空へと舞い上がり 音 大地へ響くだろう

産まれ堕ちた子らよ あなたたちのその足で凍てついた地を歩くのはまだ早い

雷鳴が轟く夜に 彼は訪れる

【私の願いは聞き入れられただろう】

「出でよ、十二魔天王の1人。 雷の魔王 トルエノ!」

その言葉は奏魔が発した詠唱だった。
魔王を呼び出すために必要な詠唱。
雷が鳴り響く。 空気を震わす稲光がどこかに落ちた。
否、どこかではない。
奏魔の隣だった。
砂埃が舞い上がるが、雨のおかげですぐに収まったようだ。
そこから現れたのは1人の青年。
黒い髪に青のマント。 そして切れ長の双眸。
「久しぶりの人間界だな・・・・・・」
雷の魔王トルエノだった。
「トルエノ。 力を貸してほしい」
「どうしようかな」
「お前が貸さないというのなら無理やりでも貸してもらう」
「強引なお嬢様だな」
「ふん・・・・・・まずはお手並み拝見といこうか。 暗那に憑いている悪魔だけを殺せ」
まるで旧友に話しかけるかのような言葉。 トルエノは薄く笑った。
「了解したーーーーーグローリア」



次の日。
朝目が覚めた玲音は自分が自室のベッドで寝かされている事に驚いた。
そして腹部の傷もなくなっている。
急いで跳ね起きリビングへと繋がるドアを開けると。
「おい奏魔・・・・・・。 この黄色い物体はなんだ?」
「ははっ、トルエノくん。 これは『卵焼き』と言うんだよ。 奏魔の卵焼きは塩辛くてね、食べれるもんじゃないよ」
「一言多いんだよ夜一! トルエノも黙って食べな」
卵焼きを箸で突つく黒い髪の青年に笑顔でその青年を眺めている兄にソファで爆睡している火雅梨にキッチンで朝ごはんを作っている奏魔がいた。
平和だ・・・・・・。
「あ、玲音! おはよう」
「ん? あぁ、おはよう奏魔」
「紹介するね! 私が呼び出した雷の魔王トルエノ!」
青年を指差すと奏魔は玲音の前に来る。
「ねねっ! すごいでしょ? その玲音の傷もトルエノが戻しちゃった」
「戻したというか、治したというか。 まぁそんなとこだ。 よろしく玲音。 決してお前らに害を与える悪魔ではない。 俺の事は炉欄って呼んでくれ」
「は? 炉欄? なにかっこいい名前勝手につけてるの? あんたなんてポチで十分「奏魔」
嫌味をいう奏魔に玲音が言う。


「とりあえず・・・・・・キッチンの火を消化器で消してこい」


「え・・・・・・?」
時が止まったようなきがした。
キッチンからは焦げ臭い匂いが漂ってくる。
「ど、どどどどどどどどどどどどうして言ってくれないの!」
「火ィ消さないお前が悪いだろ!?」
「落ち着け奏魔、玲音。 早く消化するんだ」
「漢字違げぇよ! 何消してるんだよ! っていうかお前魔王だろ、どうにかしろよ!」
「・・・・・・何も聞こえないな」
「聞こえてんだろーっ!!!」
こうしてO-GASUTOの伝説が始まった。


かくして、火は夜一の手によって消され、3人は口喧嘩、ましてや火雅梨は起きずに事を終えたのである。

NEXT
エデン絵
カテゴリ作ってなかったのでとりあえずStoryにいれときますね!




「私と一緒に寝てください!!」的なヴァーミリオン。



大ブームだったなめことの共演。 色が薄いなー・・・



誕生日おめでとう!! ってわけで5月4日! 人狼やりながらこれ描いてたら人狼落ちてしまった思い出。



キスの日でロワナとアレス。



大分日付空いたけど麻雀ヴァーミリオン。 これは2回戦のカジノかな?



うちのロリっ子土師守兎盧ちゃんの誕生日! 6月11日だからマーチング大会の後か・・・。



すごく描きづらいヴァーミリオンの兄、セルリアン。



ウエディングドレスのヴァーミリオン。 この時は死ぬの前提だったな・・・



エデンに入れるつもりだった子。



水彩画。 注目すべきは軍服の色と腕章の色。 腕章には全部の組織の色が入ってるんですよ!



ミニヴァーミリオン



ヴァミまりCP成立!!! もうまりもくんかわいいわ!!!



幼き頃のレベッカ兄妹



運営ヴァーミリオンとその相棒リヘナラたん!



私が企画した「名台詞企画」
みなさんのキャラ、おかりしました!



ヴァミまり+8 この頃から絵の描き方が変わったんですよね。



アイコン絵。 初のアニメ塗り挑戦! しかしiPhoneでは無理がありました。



怯えすぎなロワナさん。



運営クールコンビことロワナとデイジーちゃん!!



お兄さんの誕生日!! 8月8日!



かなり久しぶりに描いたアレスさん。



いつも仲良くしてくださっているうつださんのシュネーラーちゃん!
かわいいなぁ・・・


さて、これが私がエデンで描いた絵のほんの一部です。 多分漫画も含め、200枚は描いてるんじゃないでしょうか。
こうやってみると私もまだまだです。 もうちょっと上手くなりたいです。




しっかしヴァーミリオン多いなぁ・・・・・・。
約束のとき
出演
ロワナ・ヴァルシス
アレス・フォルックス・リラ
ワーブラ・ゲルプ (十五夜美月さん宅)
デジデリィ・ゴールデンフリース (ひーらぎさん宅)


特殊ミッション
約束のとき

鮮血が飛び散る。
抉られた自分の脇腹が酷く痛む。
ここはどこだろう。 と彼女は思った。
反動で崩れ落ちる中、周りを見ると自分の名を叫ぶパートナーと、慌てて駆けつける赤茶色の髪をした青年がいた。
目の前には白と黒の服を着た、脱獄囚。
脱獄囚が倒れる自分をあざ笑う。 その瞬間に

自分の大切な人が殺されたという絶望で泣き叫ぶ男の声がした。




物語を最初に戻そう。
ディナーの前のオードブルだ。

「特殊ミッション?」
「あぁ、ゲーム中断して脱獄犯を確保するらしいぞ」
ロワナは運営本部を彷徨いているとそうパートナーのワーブラに告げられた。
ミッションを中止してまで脱獄犯を捕まえるのもおかしいとはおもったが、やはり上からの命令なら仕方がないとロワナはしぶしぶ頷く。
「じゃあ、今すぐでも出ましょうか。 私たちも当然探さなきゃいけないでしょうし」
「そう急ぐな。 今日はアレスの退院の日だろ?」
「私の事覚えてない男となにを話せと?」
まぁ、そう怒るなって。
そう言われ、ロワナは頬を膨らませた。
「あんた、このごろ感情豊かになってきたよな」
「そうかしら」
「あんまり上から目線じゃなくなったもんな。 なにがあった? 服も変わったし髪だってバッサリと切ったじゃないか」
彼女のトレードマークだったツインテールは切り落とされ、今はショートの山吹色の美しい髪。
「気分転換よ、気分転換」
「そうだな。 俺もそっちのほうが似合ってると思うよ」
ロワナの後ろからやってきたのは赤茶色の長い髪をした青年。
女性なら誰もが振り返るだろう、端整な顔立ち。 意志を持った赤紫色をした切れ長の双眸。
「アレス。 もう体は大丈夫なの?」
「あぁ、ロワナもワーブラも迷惑かけてすまなかった。 リハビリも終えたし大丈夫だよ」
アレス・フォルックス・リラ。 運営番人の青年だ。
アレスはロワナの頭を撫でると一言。
「本当に綺麗な髪だな。 うらやましいよ」
「光を反射して眩しいけどな」
ワーブラからも言われ、彼女はいつもの澄まし顔。
「綺麗な薔薇には棘がある。 こういう意味でなくて?」
「ロワナの場合は棘ばっかりじゃないか」
「ワーブラ!」
「はは、冗談だよ!」
運営の中でも理系パートナーで知られている2人をみて、アレスは微笑んだ。
それに気づいたワーブラが咳払い、ロワナも同様、チャイナドレスを正す。
「じゃあ、アレスも帰ってきた事だし、3人でいくか。 とは言ってもアレスだって休みが欲しいだろう、明日行くか」
「そうね。 そうしましょう」
2人はアレスを気遣い、そう言うと踵を返した。
ワーブラがまずその場から離れるとロワナも歩き出す。
「待って」
いきなりだった。
いきなり手首を掴まれた。 振り返るとアレスが真剣な顔で彼女を見つめていた。
「どう・・・・・・したの?」
「俺、少し思い出せたんだ。 お前の事」
アレスの言葉にロワナは耳を疑った。
「ど、どういう」
「俺にとってロワナは大切だったのは前から思い出していた。 ロワナは俺のかけがえのない・・・・・・かけがえのない人っていうか家族っていうか・・・・・・。 なぁ、俺とロワナは前、一緒に暮らしていたよな?」
その言葉が信じられないというようにロワナは目を見開いた。
少しづつ、少しづつ彼は思い出してきている。
「えぇ、私はあなたと一緒に暮らしていた」
あえて平然を装ってそう言った。
【混沌の支配者】 とも呼ばれるロワナ・ヴァルシス。 みなが混乱しているなかでも、例え手足がちぎれようとも表情を顔に出さない。 という意味からつけられた。
「そっか・・・・・・。 すまない、ありがとう」
そう言うとアレスはロワナの手を離した。
それじゃ、と言って帰ろうとするロワナ。 アレスはもう一度呼び止めた。
「なに・・・・・・っ?」
ロワナが振り向いた瞬間、アレスは彼女を抱きしめた。
鼻腔をくすぐるハーブの香り。 そういえばアレスはハーブやらエッセンシャルオイルに興味があったはずだ。
実はこっそりパイプ煙草を吸っているアレス。 しかしロワナがいるからと言って煙草の成分をほとんどハーブにし、焚いていた。
それを思い出し、ロワナは目に涙を溜める。
「ロワナ・・・・・・俺、絶対に思い出すから」
「待ってる。 いつまでも、いつまでも待ってるから」




とは言ってもアレスだけに任せる事はできない。
そう思ったロワナは休憩所に行き、誰にも見せない本当の自分の弱気を見せていた。
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!! どうしようどうしよう!!!! あのままアレスが記憶とりもどしてくれたら万々歳だけど、もしかして最後の最後に記憶が戻らなくなったりしたらどうしよう!!! そうなったら私もうこの世の生きてゆく価値が全て無くなってしまう!!!」
頭を抱えて歩き回るロワナ。 いま誰かが通ればさぞかしびっくりするだろう。
「っていうかさっき私を抱きっ・・・・・・! わぁぁぁぁっ! 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ! 早く忘れよう!!」
ほんのり赤くなった頬を次は抑える。
「私が力になれれば!!! そうよ力になれればいいのに!! はっ! そうだ! こんな時こそ、彼女を呼べば! デイジー!」
ロワナが名を呼んだ。 その途端に虚空から1人の少女が現れた。
空間ディスプレイのように機械的な音を立てて構築されてゆくその体。
「お呼びですか、ロワナ・ヴァルシス」
「えぇ、デイジー。 ごきげんよう。 それと名前はロワナと呼んでいいわ」
目の前にいる美少女にそう言った。
伏し目がちな瞳が神秘的、そしてさらにその髪色もそう思わせるのに充分だった。
彼女はデジデリィ・ゴールデンフリース。 運営のAIである。
AIならではの無感情さが、ロワナとそっくりで(ロワナの無感情さがデイジーにそっくりなだけ)運営ではクールコンビと言われているとかなんとか。
「ではロワナ、今日はどうしたのですか? もう自傷行為はなされないのですか?」
自傷行為。
それを聞いてロワナは肩を竦めた。
「人間って弱いでしょ? 誰だって自分を傷つける時期だってあるのよ。もうしないけどね」
短くなった髪を梳かしながらロワナは言った。
「そうそう。 今日はあなたと考えたい事があるの」
「考えたい事ですか。 最善の策を提示しましょう」
「かなりやる気ね・・・・・・まぁいいわ。 私の大切な人、アレスの記憶をとりもどしたいの」
意味深な顔で言うと、デイジーは表情を崩さず言葉を返す。
「アレス・フォルックス・リラですね。 6月25日生まれの蟹座、歳は21、髪は赤茶色、フォルックス家の次男として生まれ、姉と兄そしてロワナ含め3人の妹と2人の弟がいます」
「そんなことまでわかるの・・・・・・!? 因みにお姉さんが結婚してもうすぐで子供が生まれるわ。 これでフォルックス家には私とアレス含め10人になるわ。 それに+お姉さんの旦那さんとお兄さんの彼女と犬が5匹に猫が2匹、そして金魚10匹にインコが4匹。 さらに鷹が1匹イタチが1匹ゴキブリが100匹よ」
「なるほど、追加します」
「ってそうじゃないのよ!! 私はここにフォルックス家の人口密度を話しにきたんじゃない!」
ぶんぶんと手を振るロワナ。
そんな彼女にデイジーは冷静な言葉を言った。
「早く内容を」
「そうね。 そうだったわね。 実はアレスは私の事を忘れてるの。 一種の記憶障害と同じよ。 他の人の事は覚えてるけど、強く思いすぎた人の事だけを忘れる。 私はどうしてもアレスの記憶をとりもどしたい。 またあの日みたいに笑い合いたいの」
デイジーはそれを聞いて考える暇もなく質問をふりかけた。
「アレス・フォルックス・リラはどのようにして記憶を無くしたのですか? キッカケがあったはずです」
無機質な文字列、そして感情のないデイジーを交互に見やってロワナは答えた。
「雨よ」
「雨?」
ロワナが渋面を作った。
まるで苦虫を噛み潰したような顔をする彼女にデイジーは言う。
「それだけではわたくしでも最善策が生み出せません。 もっと詳しい情報提供をお願いします」
静かな休憩所にデイジーの機械声が響いた。
それから少し沈黙、やっとの事でロワナは口を開いた。
「あなたは・・・・・・きっと誰にも言わないでしょうね。 アレスの本当の過去を、誰もが知らない真実。 彼が背負って生きる事になった最悪の悲劇を教えてあげる」





「あれは今から14年前。 私がまだ5歳で、アレスが7歳の時の出来事よ。
アレスの誕生日の日、私は拾われたの。 私が捨て子だって事、デイジーは知っているでしょう? え、知らなかった? 私は捨て子なの、虐待され、最後は家族に見放された子供。
それはさておき、拾われたのが彼の誕生日だったから当時のアレスは複雑な気持ちだったでしょうね。 自分の誕生日で、自分が親から愛されなければいけない日なのに、見ず知らずの少女に親の愛情がいってしまう・・・・・・。 でもアレスはああ見えてかなり温厚で、あの頃はすごく優しくて、なんでも許していたから私の事も許して妹のように接してくれた。 おかげで私も心を開いて話すようになったわ。
それからさらに5年後のアレスが12歳の頃よ。
誕生日の日は雨だった。
両親、父のジャックと母のベネッタはアレスと私を連れて映画を見に連れて行ってくれたわ。
その帰り道よ。
『誕生日プレゼントを買いに行こう』ってお父さんが言ったの。
雨の日だから傘をさして4人でね。
で、プレゼントは秘密だからアレスと私は近くの公園で待っていたの。
『何をもらうんだろうね』とか『映画面白かったね』とかそんな話をしてたわ。
でもね、いつまで経ってもお父さんとお母さんは帰ってこないの。 不思議に思ったアレスが、店の近くまで迎えに行ったの。 私も後からついて行ったわ。
その道の途中。 地面の水たまりに混じって赤い液体が浮いていた。
『人の血だ』ってアレスが言うから怖くなって言ったの。
『お母さんとお父さんを探そう』って。
アレスは私の手を引いて道の奥に進んで行ったわ。
そしていきなり止まるの。 同時に彼が息を呑む音が聞こえた。
目の前に広がった景色、私はそれを疑った。

だって、お父さんとお母さんが無残な死体となってそこに倒れていたから。

元々マフィアだったのよ、お母さんもお父さんも。 おそらくいざこざがあったんでしょうね。
お父さんの手には、くしゃくしゃになるほど強く握られた誕生日プレゼントがあった。 それを取って中を見ると、色違いのマフラーだった。 茶色と黄土色。 今のアレスのマフラーよ。
それを見た瞬間、アレスは泣き叫んだわ。
泣いて泣いて泣いて泣いて、声が枯れるほど絶叫した。

あの日からアレスは自分の誕生日を恨むようになった。 同時に雨も嫌いになった・・・・・・。 アレスは両親が死んだのは自分のせいだって考え込んでる。 まだまだ小さかった弟や妹から最愛の親を奪ってしまった。
だからアレスは雨が嫌いなの」




全てを言い終わると、ロワナはため息を吐いた。
「あの日の事、いまでも覚えている。 どれだけアレスが苦しかったか、悲しかったのか、私にはわからないけど」
「なるほどトラウマですね。 失礼ながらロワナ。 今のアレス・フォルックス・リラが立てている目標とはなんでしょうか」
「目標? うーん・・・・・・お墓参りの時は必ず墓前で『もう二度と大切な人を傷つけない』って言ってるわね」
考えながらロワナ。 それを聞いただけでデイジーは最善策が浮かんだ。
「できました。 わたくしはこう判断します」
「えぇ、言って頂戴」
「はい、ロワナ。 次の戦闘の時、流れ弾でもなんでもいいです、攻撃に自分から当たって下さい。 そして両親と同じように倒れて下さい」
予想もしなかった策。 ロワナは驚いて聞き返す。
「本当にそれでアレスの記憶が戻るというの!?」
「わたくしの推測ですが、『大切な人』とはロワナ、あなたの事です」
「え?」
「そんな発言、していましたか?」
言われてみれば確かに、先ほども言われた。


俺にとってロワナは大切だったのは前から思い出していた。

あの時の言葉が蘇る。
「でも私が大切な人だったとして、なぜ攻撃を受けなきゃいけないの?」
「大切な人を守れなかった。 自分はなぜロワナの事を大切な人だと思うのだろう。 その連鎖から過去の事を思い出すとわたくしは考えます」
驚いた。
まさかこんなところをついてくるとは。
そうロワナは思った。
「わかったわ。 どうせ脱獄囚を捉えなきゃいけないし、実行してみるわ」
「良いご報告を待っています」


これからがディナー、絶望に塗られた味をゆっくりと堪能してもらいたい。


それは突然だった。
脱獄囚の放ったナイフ、それが自分の脇腹を掠めた。
脱獄囚の異能もあって、威力が大きくなり、脇腹が抉られた。
『痛い』よりも『怖い』が浮かび上がる。
朦朧とする意識、自分に問いかける。
・・・・・・私、何をしてるんだっけ。 あぁそうか。 デイジーに言われた通り攻撃を受けようとしたんだ。 でもまともに食らったんだ。 情けない。
・・・・・・ゲームの合間で、脱獄囚捕まえる予定で探して見つけて戦って、ワーブラにもアレスにも申し訳ない。
・・・・・・ワーブラ、ごめんね。 勝手な都合なのに。 いつも私の事思ってくれてたよね。
泣かないで、アレス。 あなたが泣いたら私が悲しむから。 記憶、ちゃんと・・・・・・。

「戻ってると、いいなぁ・・・・・・」

ゴトンとロワナが頭から倒れる。
それを見て脱獄囚は笑った。
「弱っちい女だなァ!!」
「くっそ! よくもロワナを!」
ワーブラが銃口を相手に向けトリガーを引く。 しかし躱されてしまう。
「そんな弱っちい女一人死んでも誰も悲しまねェだろ!」
ロワナをあざ笑う脱獄囚。
ワーブラが歯ぎしりしたその時。

「ふざ・・・・・・けるなぁぁぁぁっ!!!」

青年の怒号が響いた。
脱獄囚とワーブラ共にその青年を見ると彼は泣いていた。
「なんでだよ・・・・・・。 お前言ったじゃないか。 思い出すまでずっと待ってるって! なのになんで・・・・・・! 俺はまた、大切な人を守れずに!」
待て。
アレスの思考が止まる。
いつ、いつ自分は彼女が大切な人だと言った? 自分は彼女の何を知っている? いや、何を知っていた?
そうだ、彼女は。 彼女はいつも一人だった。 だから自分が一緒に居ると決めたんだ。
俺は知っている。 彼女の事を。 ずっとずっと前から。
そうだ、彼女は彼女は・・・・・・。

俺の大切な人、守るって決めた人だ。

「お前よくもロワナを・・・・・・っ」
全て、思い出した。
ロワナ・ヴァルシス。 そうか、俺が大切に大切にしてきた人だ。
壊れないよう、壊れないようにずっと見守っておくと決めた大切な人。
俺の心から愛した人だ。
そしてこれからも愛する人だ。
「ゆるさねぇ・・・・・・。 絶対にゆるさねぇ!」
異能を発動させたアレスは、剣を握りしめ、脱獄囚に斬りかかった。
それを紙一重で躱す脱獄囚。 少し体制が崩れる。
しかし彼はその一瞬を逃さなかった。
炎だけを操り脱獄囚の周りを囲む。 熱さに怯える脱獄囚を前にアレスは笑った。
「熱いだろうけど、これがロワナの味わった痛みさ」
剣を脱獄囚の首筋に突きつけ一言。
「自首しろ」



その5日後。
「・・・・・・ということだ」
ワーブラはそう言うと眼鏡を掛け直す。
「つまり私は役に立たなかったのね?」
「あぁ、足でまといだった」
「アレス!」
「ごめんごめん! 怒るなよロワナ!」
3人は休憩所でこの前の戦闘の反省をしていた。
「でもまぁ、アレスの記憶が戻っただけでもいいとしようぜ」
「それもそうね」
アレスは頭を掻きながら2人に言った。
「そういうことにしといてくれ」
「あ! そういえばデイジー!」
ロワナの声でデイジーがこの前と同じように現れる。
「お呼びでしょうか、ロワナ」
「ありがとうデイジー。 あなたのおかげでアレスの記憶が戻ったの」
ロワナが言うと普段通りの声でデイジーが祝福する。
「おめでとうございますロワナ」
「あんたがデイジー? よろしくな! 俺はアレス・フォルックス・リラ。 アレスって呼んでくれ」
「久しぶりだな、デイジー」
「アレスですね。 了解しました。 お久しぶりです、ワーブラ」
「ん? 2人とも知り合いなの?」
「あぁ、3回戦の時にちょっとな」
この後デイジーも加え4人で話をしているとふとワーブラが言った。
「アレスってロワナの事好きなんだよな。 じゃあ付き合えばいいじゃないか」
顔を真っ赤にするロワナとキョトンとするアレス。
デイジーも心なしか楽しそうな声でいう。
「ロワナもアレスの事を大切な人だと言いました。 ぜひお二人が付き合うのならば私に情報を提供してほしいです」
身勝手な2人にロワナが指差し。
「ちょっと! 私とアレスは別に「俺はもう付き合ってるつもりだけどな」
涼しい顔をして言ったアレスにさらにロワナは顔を赤くさせ叫んだ。
「勝手に決めないでよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」


また運営委員会は賑やかになった。

END
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